A群、B群レンサ球菌のペニシリン感受性
(IASR Vol. 36 p. 156-157: 2015年8月号)
1. A群およびB群レンサ球菌のβ-ラクタム系薬に対する感受性概況
A群レンサ球菌(主にStreptococcus pyogenes, GAS)、B群レンサ球菌(主にStreptococcus agalactiae, GBS)を含むβ溶血性レンサ球菌群では、1940年代のペニシリンの実用化以来、長年、β-ラクタム系薬に耐性を示す株は報告されてこなかった。しかし、我々が2006年のInterscience Conference on Antimicrobial Agents and Chemotherapyで、β-ラクタム系薬の標的分子であるペニシリン結合蛋白の1つであるPenicillin-binding protein 2X(PBP2X)が変異したペニシリン低感受性B群レンサ球菌(Group B streptococci with reduced penicillin susceptibility, PRGBS)の出現を報告1)して以降、我々のグループ2, 3)以外に、他の国内グループ4)、米国疾病管理予防センター(CDC)のグループ5)、カナダの2つのグループ6, 7)も相次いで同様のPRGBSを報告している。Clinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)が定めるGBSに対するペニシリンG(PCG)の「感性」のブレイクポイントは、≦0.12 mg/L(MIC, minimum inhibitory concentration, 最小発育阻止濃度)であり、PRGBSに対するPCGのMICは、0.25-1 mg/L2)とそれより高い。国内のヒト検体由来のGBS中のPRGBSの割合は、2005年3月~2006年2月の分離株では2.3%3)、2012年1月~2013年7月では14.7%8)と上昇傾向にあり、また、マクロライド耐性かつフルオロキノロン非感受性を示す多剤耐性PRGBSは、PRGBS中の68.9%、GBS全体の10.1%8)に達している。
一方、GASについては、現時点で、PCG等β-ラクタム系薬に低感受性や耐性を獲得した株は確認されていない9)。
2. GBSにおけるβ-ラクタム非感性の分子機構とそれに基づく分類
PRGBSは、PBP2XにV405A置換、Q557E置換の片方または両方を有していることが多いが、ペニシリン感性セフチブテン(CTB)耐性GBS(PSGBS isolates that exhibited no growth inhibition zone around the ceftibuten disk, CTBrPSGBS)10)のような両置換以外のPBP2X変異のみを有する株も出現している。また、PBP2X以外のPBPsにアミノ酸置換を獲得した株も確認されており11)、我々は、変異したPBPの種類と、アミノ酸置換のパターンの組み合わせとにより、PRGBSを含むβ-ラクタム系薬低感受性GBS(Group B streptococci with reduced β-lactam susceptibility, GBS-RBS)を分類する方法を国際的に提案している12)。
3. ペニシリン低感受性B群レンサ球菌の細菌学的特徴
PRGBS株に対するPCGのMICが0.25-1 μg/mLと低度から中程度の上昇にとどまるため、日常的な薬剤感受性試験でペニシリン感性GBS株(MIC,≦0.12 μg/mL)との正確な識別は難しい。VITEK 2 システム(AST-P546 card)による検討でも、既知のPRGBS株の約半数しか検出できなかった13)。
そこで我々は、PRGBSのスクリーニング薬剤としてセフチゾキシムやCTBを用いた場合、ディスク周囲の発育阻止円直径の縮小やMICの上昇が有用な指標となることを見出した14)。 PRGBS株の多くはCTBディスク周囲に発育阻止帯を形成しない。しかし、前述したようにCTBディスク周囲に発育阻止帯を生じないペニシリン感性CTB耐性GBS (CTBrPSGBS)も出現(図)しており10)、これらの株は一部の経口セファロスポリン系薬にも低感受性を示すことから、PRGBSと識別する必要性が生じる。これらのCTBrPSGBS株は高分子量PBPsにPBP2Xのキー置換(V405A and/or Q557E)以外の複数のアミノ酸置換を有していることを我々は確認している。なお、最近CTBに加え、ゲンタマイシン、ナリジクス酸を添加したPRGBS検出用培地も考案されている15)。
PRGBS株のsequence typeはST1を中心とするclonal complex 1に多く認められ、特に血清型VIのPRGBS株はST458に属するが、それは現在のところ、痰等の呼吸器系検体のみから分離されている16)。
4. ペニシリン低感受性B群レンサ球菌(PRGBS)の臨床的特徴
PRGBSは現時点までに幸いにも新生児の敗血症、髄膜炎由来株では確認されておらず、その臨床的意義は現時点では未確定である17)。また、このような新生児重篤感染症の原因となりうる妊婦膣由来GBS中にもPRGBSは確認されていない18)。一方、PRGBS株は高齢者の褥創19)や呼吸器系材料よりしばしば検出され、高齢者では剖検例の心臓穿刺血液や誤嚥性肺炎から敗血症を発症した症例でPRGBSが分離されており、高齢化社会が到来する中で今後警戒が必要である。また、PRGBS株ではマクロライド系、リンコマイシン系、テトラサイクリン系およびフルオロキノロン系薬にも多剤耐性を獲得した株も多く、そのような多剤耐性PRGBS株が医療施設内で院内伝播した事例も確認されており20)、感染制御の観点からも注意が必要である。我々のPRGBSに関する一連の報告を受けて、米国CDCやCLSI、European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing (EUCAST)も、それらについての紹介や対応をガイドラインやガイダンス文書に記載し始めている。
参考文献
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名古屋大学大学院医学系研究科
分子病原細菌学/耐性菌制御学分野 木村幸司 長野由紀子 荒川宜親
信州大学大学院医学系研究科
医療生命科学分野 長野則之