国立感染症研究所

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播種性クリプトコックス症と鑑別をすべき他の真菌症について

(IASR Vol. 36 p. 192-193: 2015年10月号)

クリプトコックス症の播種性病変部位としては中枢神経系、皮膚などが代表的である。中枢神経系病変を併発し、鑑別として重要な真菌症としてはヒストプラズマ症、コクシジオイデス症などがあり、皮膚病変の鑑別として重要な真菌症としてはブラストミセス症、フザリウム症が挙げられる。その他全身播種病型としてのカンジダ症、トリコスポロン症も鑑別として挙げられよう。

1.ヒストプラズマ症
ヒストプラズマ症は米国中央~北東部のミシシッピ渓谷からオハイオ渓谷のほか、中南米、東南アジア、オーストラリア、ヨーロッパ(カプスラーツム型ヒストプラズマ症)、中部および南部アフリカ(特にウガンダ、ガボン、コンゴなど)(ズボアジィ型ヒストプラズマ症)を流行地とする輸入真菌症である。なお、明らかな海外旅行歴を持たないヒストプラズマ症患者が報告され、国内発症の可能性が指摘されていることに留意する。ヒストプラズマ症自体は健常者でも発症しうる疾患であるが、感染者が特に乳幼児や高齢者、高用量ステロイド使用者、生物学的製剤使用者、AIDSなどの免疫低下宿主であった場合、播種性ヒストプラズマ症へと進展しやすい。播種病変の部位としては皮膚・粘膜(潰瘍病変など)のほか、骨髄、肝、脾などが多い。中枢神経病変は播種性病変の5~20%を占める。

2.コクシジオイデス症
米国南西部のアリゾナ州、カリフォルニア州南部、ニューメキシコ州南部などの半乾燥地帯のほか、中南米諸国を流行地に持つ輸入真菌症である。極めて感染力が高い疾患として知られ、健常者での発症報告が多い輸入真菌症のひとつである。AIDSや血液悪性疾患、臓器移植患者などの免疫抑制薬使用患者などは播種性コクシジオイデス症発症のリスク因子であるが、妊婦、有色人種も播種性病型の発症リスクとなる。初期の感染が沈静化してから数年後に突如として播種性病変が出現することがあるので注意が必要である。中枢神経病変(髄膜炎が中心)は播種性病変の30~50%を占める(図1)。他に、骨、軟部組織への播種病変が多い。

コクシジオイデス症は、感染症法において4類感染症全数把握疾患に指定されている。感染症発生動向調査に基づくデータでは、1999年4月~2015年第36週現在で38例の報告があり、千葉大学真菌医学研究センターの調査では、1937年を最も古い症例として2015年8月までに77例が報告されている。すべて輸入例である(IASR 34: 1-2, 2013および感染症発生動向年別集計・週報http://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr.html;千葉大学真菌医学研究センター・輸入真菌症患者発生最新情報http://clinical-r.pf.chiba-u.jp/mycosis/01.html)。

3.ブラストミセス症
流行地は米国北東部のオハイオ渓谷、ミシシッピー川流域、五大湖周辺などである。一部ヒストプラズマ症の流行地域と重複することに注意する。河川・湖沼流域の湿潤した土壌に棲息する。これまでにわが国における輸入真菌症としての報告はないが、釣りやキャンプ、ラフティングなどのレジャー客などの健常者での発症も報告されている。播種性病変としては皮膚、骨関節、泌尿生殖器の頻度が高い。AIDS、血液悪性疾患、骨髄・臓器臓移植患者等の免疫抑制薬使用患者などの他、高齢者、慢性閉塞性肺疾患(COPD) 患者、担癌患者、黒人では重症化しやすい。皮膚病変は播種性病変の40~80%を占め、皮膚がんとの鑑別も要する所見を呈する(図2)。顔面や頭部に多い。中枢神経播種の頻度は5~10%であるが、AIDS患者では播種性病変の40%を占めるとされている。

4.フザリウム症
主として植物病原菌として知られるフザリウム属による感染症である。外傷などからの経皮感染(角膜感染も含む)、経気道的感染が主たる感染経路として想定されている。治療中の血液悪性疾患患者などの免疫不全宿主では播種性フザリウム症を発症しうる。播種性病型では血液培養の陽性率が高く、血中β-D-グルカンの高値を呈する例が多く報告されている。また、皮膚病変を伴うことも特徴である(図3)。

5.その他
血流カンジダ症の経過中に肺にびまん性結節影を呈することがあり、ときにクリプトコックス症との鑑別を要することがある(図4)。また、トリコスポロン症では全身播種を来しやすいことに加えて、血清クリプトコックス抗原が陽性となることがあるので、診断に慎重さが求められることがある。

千葉大学真菌医学研究センター
 臨床感染症分野 渡辺 哲 亀井克彦

 

 

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