国立感染症研究所

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The topic of This Month Vol.35 No.6(No.412)

RSウイルス感染症 2014年5月現在

(IASR Vol. 35 p. 137-139: 2014年6月号)

RSウイルス(respiratory syncytial virus; RSV)はパラミクソウイルス科ニューモウイルス属に分類されるRNAウイルスである(本号12ページ)。RSVは飛沫および接触感染により伝播する。生後1歳までに50%以上が、2歳までにほぼ100%がRSVの初感染を受けるが、初感染によって終生免疫は獲得されない(本号5ページ)。

乳幼児における肺炎の約50%、細気管支炎の50~90%がRSV感染症による(本号6ページ)。RSV 感染は、他の呼吸器ウイルス感染症と臨床的には区別できないため、鑑別診断にはウイルス学的検査が不可欠である。治療は基本的には対症療法である。

新生児・乳幼児や免疫不全者は重症化しやすい(本号14ページ)。合併症として、無呼吸、ADH分泌異常症候群、急性脳症などがある。成人のRSV感染症では概ね感冒様症状を呈するが、感染源となる。高齢者のRSV感染症においてはインフルエンザと同程度の肺炎発症が認められ、致命率も高い(本号11ページ)。また、国内で施設内集団発生も報告されている(本号10ページ)。ハイリスク者のいる施設では、院内感染対策のためのRSVの早期診断が重要である。

ワクチンはないが、早産児、慢性肺疾患や先天性心疾患等を持つハイリスク者を対象に、RSV感染予防のために、米国で開発され、2002年に日本でも販売開始されたヒト化抗RSV-F蛋白単クローン抗体(パリビズマブ)が投与されている(http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/6250404A1020_2_02/)。

RSウイルス感染症は、感染症法改正(2003年11月5日施行)時に、感染症発生動向調査の小児科定点把握5類感染症に追加され、届出には検査診断を必須とする(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-15.html)。RSV抗原検査は、2011年10月17日より、入院中の患者以外に外来の「乳児」および「パリビズマブ製剤の適用となる患者」に保険適用が拡大された(2006年3月31日迄は3歳未満入院患者にのみ適用、その後全年齢の入院患者に適用)(本号7ページ)。全国約3,000の小児科定点のうち、実際にRSV感染症患者を報告した医療機関数は、病院(入院病床を有する医療機関)、診療所(入院病床を有しない医療機関)ともに増加し、2012年には8割を超えている(図1下段の表)。特に診療所数は、2011年のRSV抗原検査の保険適用対象拡大に先行して増加がみられ、2008年から2012年にかけて、診療所からのRSV感染症患者報告数も倍増した(図1)。

RSV感染症患者発生状況:2012~2013年のRSV感染症の流行は、季節性インフルエンザに先行して、7月頃に始まり9月頃に患者数が急増し、年末をピークに春まで続いた(図2)。都道府県別にみると、最も多いのは以前(IASR 29: 271-273, 2008)に引き続き大阪府であった。報告数の多かった上位5都道府県は、2012年、2013年ともに、主に出生数の多い都道府県であった(北海道、東京都、大阪府、愛知県、福岡県)。流行開始時期は、九州が他地域よりも早い傾向にあり、沖縄県は他県と異なり夏季に流行ピークを持つ(図3)。2012~2013年に報告された患者は男性105,174人(54%)、女性89,370人(46%)で、以前(IASR 29: 271-273, 2008)同様、2歳以下が約90%を占め、0歳、1歳、2歳の順に多い(図4)。

2008年以降に5類感染症の急性脳炎として届出された患者のうち、RSVが原因と記載されたのは22人(死亡例2人を含む)で、男性10人、女性12人であった。年齢中央値は2歳(範囲5か月~13歳)で、RSV感染症が重症化しやすい0~2歳が17人であった(表1)。

RSV等の呼吸器ウイルス検出状況:全国の地方衛生研究所(地衛研)は、主に病原体定点(小児科定点を含む全国約5,000のインフルエンザ定点の約10%と全国約500の基幹定点医療機関)が採取した検体の病原体検査を行っている。分離・検出された呼吸器ウイルスの中で、2009/10シーズンまでは、RSVはインフルエンザウイルスに次いで最も多かったが、2010/11シーズン以降はライノウイルスの報告数がRSVより多くなった(表2)。季節的には、RSVは秋~冬に、インフルエンザは冬に、ライノウイルスは一年を通じて報告されている(図5)。報告数は少ないが、ヒトメタニューモウイルスとパラインフルエンザウイルス(本号21ページ)は春~夏にかけて多い。

2008/09~2013/14シーズンにかけて44都府県の57地衛研が5,441例からのRSV 検出を報告した(2014年5月20日現在)。分離・検出陽性となった検査材料は咽頭ぬぐい液が5,358(98%)と最も多かった。検出方法はPCR が4,959(91%)と最多で、次いで培養細胞での分離が932(17%)、抗原検出が49(1%)などであった(複数法による検出例を含む)。検体採取時点の診断名は気道感染に関係する、下気道炎2,371(44%)、RSV感染症1,746(32%)、上気道炎495(9%)等が主であった。

今後の課題: 近年のRSV感染症の報告数が増加している要因としては、わが国の小児科定点における報告機関数の増加や、流行の拡大などが考えられる。一方で、高齢者やハイリスク者の肺炎に占めるRSV感染症の重要性が認められており、RSV感染症全体の疾病負担を把握することが今後の課題である。

 

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