国立感染症研究所

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アデノウイルス感染症 2008~2017年6月

(IASR Vol. 38 p.133-135: 2017年7月号)

アデノウイルス(Human mastadenovirus: Ad)は, エンベロープを持たない2本鎖DNAウイルスであり, 物理化学的に安定である。現在A~Gの7種に分類され, 80を超える型が存在している(以下, 型の記載について3型であればAd3と表記)。Ad51までは血清型として報告されたが, Ad52以降は全塩基配列の決定による遺伝型として報告されている(本号4ページ)。

感染症発生動向調査ではAd関連疾患として, 全国約3,000の小児科定点において“咽頭結膜熱(pharyngo-conjunctival fever: PCF)”と“感染性胃腸炎”, 全国約700の眼科定点において“流行性角結膜炎(epidemic keratoconjunctivitis: EKC)”の患者発生情報が把握されている(届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/kekkaku-kansenshou11/01.html)。また, 病原体に関するサーベイランスも行われている(本号4ページ)。Adは, 呼吸器疾患, EKCなどの眼疾患, 感染性胃腸炎などの消化器疾患を起こす。また, 出血性膀胱炎, 尿道炎などの泌尿器疾患なども引き起こす(表1, 表21315ページ)。

PCFとEKC患者発生状況:PCF患者報告数は, 集計を開始した1987年以降, 2006年が最大であった(図1上)。AdによるPCFは夏に流行のピークが認められ, 2003年以降は冬にも明らかなピークがみられるようになった(https://www.niid.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1645-02pcf.html, https://www0.niid.go.jp/niid/idsc/iasr/Byogentai/Pdf/data27j.pdf)。PCF患者は1歳を中心とする小児からの報告数が多い(図2上)。

一方, 眼科定点からのEKC患者数報告数は, 例年5~8月に多いが, 2015~2016年は秋以降も報告数の増加がみられた(図1下およびhttps://www.niid.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1656-15ekc.html)。EKC患者は0~4歳を中心とする小児と, 成人では30代を中心とした幅広い年齢層にみられる(図2下)。

Ad分離/検出状況:2008~2017年6月に地方衛生研究所(地衛研)等で検出されたAdの報告総数は15,383である(表2)。Ad2が最も多く(26%), 次いでAd3(19%), Ad1(14%)であった。2000~2007年は16,304のAdが検出され, Ad3が最も多く(38%), 次いでAd2(22%), Ad1(12%)であった(IASR 29: 93-94: 2008)。かつて最多であったAd3の検出割合は, およそ半分となった。 

PCF患者からのAd報告数は2,436で, Ad3, Ad2, Ad1, Ad4, Ad5の報告が多かった(表26ページ)。 

EKC患者からのAd検出報告数は1,570で, 報告数が多いのはAd37, Ad3, Ad54, Ad56, Ad4, Ad8, Ad53, Ad19/64であった(表2, 図3)。型別ができなかったNTは, 新しい型を含んでいる可能性がある(本号7ページ)。

感染性胃腸炎患者からのAd報告数は2,804で, 主要な病原体はF種(Ad40または41)であった(表2)。Ad31も106件検出された。

最近のAdに関する動向:2003~2006年のPCF流行時に検出されたAd3は, 中和抗原性と関連するヘキソンの超可変領域に変異がみられたが(IASR 29: 93-94, 2008), 2008年以降の分離株には当該領域のさらなる変異はみられていない。B種のAd7は, 重症の肺炎等を起こす。1995~1998年のAd7流行時には863の検出が報告され(https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/table/virus/adv91-00.pdf), 死亡例もみられた(IASR 17: 99-100, 1996および18: 79-80, 1997)。2008~2013年に33件のAd7の検出報告があり(表2), 引き続きその検出状況に注意が必要である。

Ad57は, 血清学的な交差反応性からこれまでAd6と同定されてきた可能性が指摘されている(本号11ページ)。EKCの主要病原体は, 諸外国ではAd8であるが, 日本では近年Ad54が増加し, Ad8は減少した(表212ページ)。Ad8とAd54は, 抗原性が一部交差し, 同様にEKCを起こす。また, Adが非クラミジア性非淋菌性尿道炎の病原体であることが明らかにされた(本号13ページ)。しかし, 多くのAdの病原性解明はいまだ不十分である(表1, 本号89ページ)。

実験室診断法:Adの検出感度は, PCR, ウイルス分離, 抗原検出免疫クロマトキット(IC)の順に高い(Fujimoto, JCM, 2004)。ICは型別はできないが, 臨床現場で迅速に結果が得られる利点があり, 日本では年間に約270万回使用され, その感度向上が進んでいる。

現在, 血清型から遺伝型に型別の判定方法が移行した。地衛研の通常の検査では, ペントン, ヘキソン, ファイバー領域の部分配列による型別が実施されている。特にD種やB種のように組換えが多くみられる種の型別には複数領域の配列決定が必要である(本号48ページ)。しかし, C種やE種では組換え型がほとんどみられないので, ルーチン検査においては, ヘキソンの一部の領域のみの塩基配列決定で対応できている(本号11ページ)(「咽頭結膜熱・流行性角結膜炎検査, 診断マニュアル(第3版)」, https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/Adeno20170215.pdf)。

治療および予防:現在のところ, 国内においてAd感染症の治療に使用できる特異的な抗ウイルス薬はない。臓器移植後の免疫不全状態においてAdは致死的な感染症を引き起こすことがあるため, 早急な対策が必要である(本号15ページ)。

Adは, 接触感染および飛沫感染で感染するので, 頻回の手指の衛生対策等による感染対策が重要である。特に眼科診療においては, Ad感染時の眼脂や涙液等に大量のウイルスが含まれるため, 眼科ガイドライン等に従って対応する(http://www.nichigan.or.jp/member/guideline/conjunctivitis.jsp)。小児は学校保健安全法および「保育所における感染症対策ガイドライン」等によりAd感染症に対応する(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000123472.html)。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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