茨城県と川崎市における2016/17シーズンに検出されたヒトノロウイルスGII.P16-GII.2の分子疫学
ヒトノロウイルス(HuNoV)は、冬季に発生する感染性胃腸炎の主な原因の一つであり、終生再感染を起こすことが知られている1)。また、世界中で引き起こされている本疾患の約2割が本ウイルスを原因としていることが報告されている2)。現在、HuNoVは、系統学的に遺伝子群I(GI)とII(GII)に分類され、さらに GIは9種類(GI.1~GI.9)、GIIは22種類(GII.1~GII.22)の遺伝子型に分類されている3)。その中で、本邦では過去10シーズンにおいてGI.2、GI.3、GI.4、GI.6、GII.2、GII.3、GII.4、GII.6およびGII.17などが本疾患から主に検出されている4)。
2016年の第49週(12月5日~11日)の感染症発生動向調査において、本疾患の定点当たりの患者数は、19.45人/週と過去10シーズンで3番目に多い数字となっている5)。また、2016/17シーズン(今シーズン)の本疾患の集団発生は低年齢層(幼稚園ならびに保育園児)に多くみられ、いくつかの地域においてはそのほとんどの原因がGII.2によるものと推定されている6,7)。そこで、今シーズンにおいて茨城県と川崎市で本疾患から検出されたGII.2のRNA依存性RNAポリメラーゼ遺伝子(RdRp)ならびにキャプシド(VP1)遺伝子全長配列を基盤とした分子疫学解析を行ったのでその概要を以下に報告する。
本疾患から今シーズンに川崎市で検出された3株ならびに茨城県で検出された16株のGII.2について、独自に設計したプライマーとG2SKFならびにG2SKRプライマーを用い、プライマーウォーキング法によりRdRp(1,530nt)およびVP1(1,626nt)の全長遺伝子塩基配列を解読した。塩基配列決定後、Norovirus genotyping toolを用いて遺伝子型を同定し、適切なGII.2参照株とともに最尤法(ML法)により系統樹を作成した(使用ソフトウエア:MEGA6.0)8,9)。また、演繹的なVP1のアミノ酸配列における株間の遺伝学的距離を推定するためp-distance解析も行った。
系統樹解析の結果、今シーズンに検出されたGII.2はすべてGII.P16-GII.2に分類された(RdRpの系統樹は図示せず)。また、これらの株は2010~2012年に国内で検出された同遺伝子型と始祖ウイルスが共通であったが独自のクラスターを形成していた(図)。さらに、今シーズンの株と過去に検出されたGII.P16-GII.2株間のアミノ酸配列によるp-distanceの平均は0.017±0.004(Mean±SD)であった。現在、GIIにおいて同じ遺伝子型として分類されるアミノ酸配列によるp-distance値は0.06±0.02(Mean±SD)であるとされている3)。よって、今回解析したGII.P16-GII.2は、過去に検出されたものと同遺伝子型のウイルスであるが、遺伝学的性状が異なる変異株(GII.P16-GII.2 variant strain)であることが示唆された。
国内において、GII.2は2007/08~2013/14シーズンまで、シーズンごとに検出株数は異なるものの比較的多く検出されていた。しかし、この遺伝子型は2014/15シーズンにおいては、ほとんど検出されていない4)。よって、低年齢層においてはGII.2に対して多くの感受性者が存在することが推定される。今後、この年齢層へのGII.2のさらなる流行拡大に注意する必要があると思われる。
参考文献
- de Graaf, et al., Nat Rev Microbiol 14: 421-433, 2016
- Ahmed, et al., Lancet Infect Dis 14: 725-730, 2014
- Kroneman, et al., Arch Virol 158: 2059-2068, 2013
- 国立感染症研究所, IASR
https://kansen-levelmap.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data96j.pdf - 国立感染症研究所, IDWR
http://www.niid.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1647-04gastro.html - 植木 洋ら, IASR速報
http://www.niid.go.jp/niid/ja/norovirus-m/norovirus-iasrs/6921-443p03.html - 坂本美砂子ら, IASR速報
http://www.niid.go.jp/niid/ja/norovirus-m/norovirus-iasrs/6969-443p04.html - Kroneman, et al., J Clin Virol 51: 121-125, 2011
- Tamura, et al., Mol Biol Evol 30: 2725-2729, 2013