複数の型が検出されたListeria monocytogenes集団感染事例―福岡市
(IASR Vol. 43 p195-196: 2022年8月号)
2021(令和3)年5月, 福岡市内で食品媒介が疑われるListeria monocytogenes(LM)の感染事例が発生したため, 概要を報告する。
事例概要
同年6月1日, 福岡市X保健所に市民から, 会食参加者3名が体調不良になった旨の連絡があった。また同日, 同保健所に市内医療機関から, 食品媒介が疑われるリステリア症患者を診察した旨の報告があった。
保健所による調査の結果, リステリア症患者は前述の体調不良者3名のうちの1名であり, 体調不良者らは, 5月29日に体調不良者らを含む2家族, 7名で会食をしていたことが判明した。また, 細菌検査の結果, リステリア症患者を除く体調不良者2名の便および会食時に喫食したそうざいの残品からLMを検出した。
調査(検査)方法
聞き取りは, 体調不良者から保健所職員が行った。また, 細菌検査については, リステリア症と診断された体調不良者1名由来の菌株, 他の体調不良者2名の便および会食時の残品を対象に, 厚生労働省の通知1)に準じ, LMの検査を実施した。なお, 他の体調不良者2名については, LMの検査に加え, 通常の食中毒検査も実施した。
調査結果
<体調不良者からの聞き取り>
5月29日の会食は家族A宅で行われ, 参加者は家族A4名(a1, a2, a3, a4)および家族B3名(b1, b2, b3)の7名であった。また, 会食で提供された食品は, 購入したそうざい2種(そうざい①, そうざい②), 自宅調理品(加熱調理品), 生フルーツ, のりおよびジュースであった。
5月30日午前, a3が発熱, けいれんおよび下痢の症状を呈したため, 医療機関を受診したところ, 血液培養でLMが検出され, リステリア症と診断された。また, 5月30日午前にb1, 5月31日午前にa2が, それぞれ発熱, 頭痛等の症状を呈した。体調不良者3名の症状は, 高熱によるけいれん, 下痢等が, リステリア症と診断されたa3と他2名で異なっていたため, a3を患者, a2およびb1の2名を有症者と区別し, 調査を続けた。
患者および有症者の共通食はそうざい①のみで, これは家族Aが会食当日15時頃に購入後, 家族A宅の冷蔵庫で保管し, 18時頃に提供したものであった。また, そうざい①およびそうざい②は, 加熱せずに喫食可能なready-to-eat(RTE)のデリミート(以下, RTE食品)であることも判明した。
<細菌検査>
有症者便2検体, 会食時の残品2検体(そうざい①およびそうざい②)および会食で提供された食品の未開封品3検体(そうざい②, のりおよびジュース)について食中毒の原因菌の探索を行ったところ, 有症者便2検体および会食時の残品2検体から, 血清型1/2aおよび1/2bのLMを検出した。一方, 会食で提供された食品の未開封品3検体からはLMは検出されず, 全検体において他の食中毒の原因菌も検出されなかった。
有症者便等から分離されたLMと患者血液由来のLM菌株についてmultilocus sequence typing(MLST)およびパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)を行ったところ, MLSTでは, 血清型1/2aはsequence type (ST)155(a2およびそうざい①はcatのallelesのみ解析不能であり6領域で判断したため推定), 血清型1/2bはST3およびST87に分類でき, AscⅠおよびApaⅠによるPFGEでは7パターンに分類できた。特にPFGEでは, パターン1としてa3とb1が, パターン2としてa2とそうざい①が, パターン5としてb1, そうざい①およびそうざい②が完全に一致した。さらに, 完全には一致しなかったが, 同一ST内ではすべて, 類似度80%以上(PFGEパターンの解釈評価基準「closely related」に相当)という結果も得られた(表)。
なお, 会食時の残品2検体についてLMの定量試験を行ったところ, そうざい①の定量値は2.3×105CFU/g, そうざい②の定量値は2.9×103CFU/gであった。
考 察
本件では, 非侵襲性リステリア症が疑われた有症者の便から複数の血清型, 遺伝子型のLMが検出され, 症状とLMとの最終的な因果関係は不明であったが, 複合的に感染していた可能性が示唆された。一方, 患者由来の検体は分離菌株1株のみであったため, 患者がその他の血清型, 遺伝子型のLMに感染していたかは判断できなかった。
リステリア症は, 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律に基づく届出対象疾患ではないが, その原因菌であるLMは, 食品衛生法に基づく届出対象の食中毒病因物質であり, 食品安全委員会による科学的知見に基づいたリスク評価の結果を受けて, 食品衛生法でナチュラルチーズの一部に成分規格が定められるなど, 食品媒介によるLM感染のリスクは管理されている。食品安全委員会の食品健康影響評価2)によると, RTE食品の喫食によるLM感染リスクの程度は非常に高く, 健常者については食品中の菌量が104CFU/g以下では食中毒リスクは低いが, それ以下の菌量でも発生していることが指摘されている。今回検査に供した会食時の残品であるそうざい①およびそうざい②はいずれも鶏肉を加工したRTE食品であり, 特に, 患者と有症者の共通食であるそうざい①については, 定量試験時点で食中毒発生の可能性が高いLM菌量であった。ただし, いずれのそうざいも, 未開封の同一ロット品が入手できなかったため, 購入時点におけるLMによる汚染の有無は確認できなかった。
これまで日本で発生したLMの集団感染事例は, 2001年のナチュラルチーズが原因食品と推定された非侵襲性LMの集団感染事例1件のみであり, LMの病原性や食品中での挙動にはいまだ不明点が多い。
本件はLMとの最終的な因果関係は不明であったが, 複数の型のLMを検出した貴重な事例であった。今後も食中毒検査を通じて, LMのリスク評価に資する知見の蓄積・向上に努めていきたい。
参考文献
- 厚生労働省, 「リステリア・モノサイトゲネスの検査について」, 平成26(2014)年11月28日付食安発1128第2号〔最終改正:令和3(2021)年3月30日付け生食発0330第5号〕
- 食品安全委員会, 府食第393号「食品健康影響評価の結果の通知について」 別添1「微生物・ウイルス評価書 食品中のリステリア・モノサイトゲネス」, 平成25(2013)年5月20日付
http://www.fsc.go.jp/fsciis/evaluationDocument/show/kya20120116331