国立感染症研究所

 

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石川県における流行性耳下腺炎の流行について

(速報掲載日 2016/07/20) (IASR Vol. 37 p.188-189: 2016年10月号)

石川県では、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ、以下ムンプス)が、全国と同様に4~5年間隔で流行を繰り返しており、2015~2016年に、2010年以来約5年ぶりとなるムンプスの流行が認められた。そこで、ムンプスウイルスの検出と系統解析を試みたので、その概要について報告する。

患者発生状況

今般の本県の感染症発生動向調査事業におけるムンプスの流行は、2015年第15週(4/6~4/12)に県全体で定点当たり患者報告数が1.34人と1を超え、以後徐々に増加し、2015年第50週(12/7~12/13)に定点当たり3.41人となり、注意報レベルに達した。2016年第4週(1/25~1/31)には定点当たり4.21人となったが、これをピークにその後は減少し、第21週(5/23~5/29)時点で1.10人となっている(図1)。

病原体検出状況

2015年4月~2016年3月に、県内の病原体定点である医療機関にてムンプスと診断された患者の唾液腺開口部ぬぐい液114検体を収集した。患者の平均年齢は6.0歳(1~14歳)、性別は、男65名、女49名であった。これらを検査材料とし、ムンプスウイルス(以下MuV)のSH遺伝子領域を標的としたRT-PCR法によるウイルス遺伝子の検出およびウイルス分離を実施した。

その結果、114例中88例(77.2%)がPCR陽性であり、このうち29例(25.4%)がウイルス分離陽性であった。近年わが国で流行している遺伝子型はGで、さらにGeおよびGwの2系統に分類される1)。そこで、PCR陽性88例について、SH遺伝子領域(316塩基)の塩基配列を決定し、系統解析により遺伝子型を同定した。その結果、全例がGwであった(図2)。これらのうち、Ishikawa35に代表される全く同じ配列を持った流行株が最も多く検出された(78例、陽性例の88.6%)。同じ配列を持つウイルスは2001年に愛媛県、2011年に三重県でも分離されており、国内で15年にわたり流行し続けていることが判明した。また、Ishikawa306は他の分離株と異なるクレードに分類され、2015年の流行株には少なくとも2つの系統が存在することから、それぞれ異なるルートから感染が広がっている可能性が示唆された。

PCR陽性88例のワクチン接種歴は、有りが23例(26.1%)、無しが64例(72.7%)、不明が1例(1.1%)であった。国内のムンプスワクチン株はすべて遺伝子型Bに属することから2)図2)、接種歴有りの23例については、ワクチンによる副反応例では無く、野生株による発症である。この23例には、ワクチン接種4日後、ならびに接種12日後に発症した例も含まれているが、ムンプスワクチンは感染曝露後の緊急接種の効果が低いという成績から3)、麻しんや風しんに比べて接種後の免疫誘導が遅いと考えられており、この2例についてはワクチンによる免疫が誘導される前に、野外株に感染した可能性が高いと考えられる。なお、他の21例は、ワクチン不全によるものと考えられる。

今回、MuVの遺伝子型を解析することにより、石川県内におけるMuVの流行実態が把握できた。ムンプス流行時は、ワクチン接種直後に野生株に感染することもあり、ワクチン株と野生株との鑑別のためにもMuVの遺伝子型を解析する意義は大きいと考えられた。今後も引き続き患者発生状況およびウイルスの動向を注視し、継続的なサーベイランスを実施していく必要がある。

参考文献
  1. 木所 稔ら, IASR 34: 224-225, 2013
  2. 庵原俊昭, 臨床とウイルス 38: 386-392, 2010
  3. 庵原俊昭, 小児内科 43: s559-601, 2011

石川県保健環境センター
 成相絵里 中澤柾哉 児玉洋江 倉本早苗 﨑田 敏晴
石川県感染症情報センター 吉田守孝
石川県南加賀保健福祉センター 崎川曜子
国立感染症研究所ウイルス第三部第三室 木所 稔

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