国立感染症研究所

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教育施設で発生したC群ロタウイルスによる集団胃腸炎事例―福岡県

(IASR Vol. 33 p. 271: 2012年10月号)

 

福岡県内の教育施設(児童346名、職員32名)において、2012年5月にC群ロタウイルスによる112名(児童109名、職員3名)の集団胃腸炎事例が発生したので、その概要について報告する。
 
2012年5月14日、当該施設から嘔吐・下痢症状による欠席者が複数いるとの報告が管轄保健所にあった。保健所により児童を対象に調査を行った結果、5月14日の欠席者は36名、15日の欠席者は35名であった。児童の発症者数の推移は5月5日が1名、6日が1名、9日が3名、10日が8名、11日が18名、12日が35名、13日が22名、14日が14名、15日が4名であり、一峰性の発生であった。5月15日時点の医療機関の受診者は32名であり、重篤な症状を呈している者はいなかった。症状発現率は腹痛81%、下痢53%、嘔気63%、嘔吐44%、発熱46%、頭痛46%、倦怠感51%、悪寒32%であった。
 
原因究明のため、5月16日に糞便8検体(従事者5名、有症者3名)が搬入された。まず、リアルタイムPCRおよび通知法によるPCR法によりノロウイルスの検出を試みたが、検出されなかった。次に、A群およびC群ロタウイルスを同時に検出するマルチプレックスPCR法1) を用いてロタウイルスの検査を行った結果、有症者2名からC群ロタウイルス遺伝子が検出された。ダイレクトシークエンスにより塩基配列を決定し比較した結果、比較可能な295bpは100%一致した。この後、17日に糞便4検体(有症者4名)、18日に糞便4検体(有症者4名)が搬入され、すべての検体からC群ロタウイルス遺伝子が検出された。C群ロタウイルス遺伝子が検出された10検体において塩基配列は100%一致した。このことから、本事例はC群ロタウイルスによる集団胃腸炎事例であると考えられた。
 
感染経路については、発症者数の推移が一峰性を示したことから食中毒を疑った。しかし、同じ給食が配送されている他施設には有症者はおらず、調理従事者からもC群ロタウイルスが検出されなかったことから、食中毒との断定はできなかった。また、集団発生数日前の5月5日および6日に嘔吐・下痢等の胃腸炎症状を示した者がいたが2) 、検体を採取できずC群ロタウイルスの検査を実施できなかった。本事例では、感染源が判明せず、感染症との断定もできなかった。

 

参考文献
1)玉手ら, 北海道衛研所報 49: 107-109, 1999
2)葛谷ら, 感染症雑誌 77: 53-59, 2003

 

福岡県保健環境研究所
吉冨秀亮 石橋哲也 中村朋史 世良暢之

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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