国立感染症研究所

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石垣島内複数の保育所等で発生したA群ロタウイルスによる集団感染性胃腸炎事例―沖縄県

(IASR Vol. 34 p. 264-265: 2013年9月号)

 

2013年5~7月に沖縄県石垣島内26カ所の保育所および児童館等の放課後児童が利用する施設(以下、保育所等)において、A群ロタウイルス(RVA)による感染性胃腸炎事例が発生した。沖縄県ではこれまで経験したことがない大規模なRVA集団感染となった本事例について、その概要を報告する。

2013年5月14日に沖縄県八重山保健所は、石垣島内の1カ所の保育所から10名以上の集団感染性胃腸炎が発生していると報告を受けた。さらに24日までに2カ所の保育所から同様の報告を受けた。八重山保健所は報告を受けた3保育所への感染対策の指導を行うと同時に、6月4日に石垣市と共に島内全保育所等を対象とした胃腸炎発症者数調査を行った。その結果、5月1日~6月10日の間に、島内43カ所の保育所等のうち19カ所で感染性胃腸炎が発生していることが明らかとなった。医療機関への聞き取りにより簡易キットによる迅速検査で小児患者がRVA陽性を示しているとの情報を得たことから、本事例はRVAによる集団感染性胃腸炎と考えられた。八重山保健所および石垣市は6月13日に保健所管内の保育所等施設長を対象に衛生講習会を実施するとともに、胃腸炎発症者数調査を継続したところ、7月13日までに新たに7カ所の保育所等から患者の報告があった。本事例では島内の半数以上の保育所等で感染性胃腸炎が発生したこととなり、そのうち9カ所の保育所等では10名以上の集団感染となった。また小児28名が入院、そのうち2名が脳症を発症した。

八重山保健所管内に2カ所ある小児科定点から報告される2013年の感染性胃腸炎患者発生状況を図1に示す。石垣島内の小児科専門医はこれら2カ所の定点医療機関に限定しており、小児患者の大部分が受診していると考えられる。感染性胃腸炎患者は第19週(5/6~5/12)までは各週10名以下、合計68名が報告された。しかし、保育所等における集団発生が報告された第20週(5/13~5/19)に患者報告数が急増し、第20~31週(5/13~8/4)の間に220名の患者が報告された。衛生講習会が開催された第24週(6/10~6/16)から患者数の減少がみられることから、衛生講習会が感染拡大防止に寄与したことが考えられた。第20~31週の年齢別感染性胃腸炎患者報告数を図2に示す。1~2歳が220名中105名で47.7%を占め、流行の中心であったことが示された。

沖縄県衛生環境研究所において、簡易キットによりRVA陽性と診断された小児5名および大人1名、計6名の患者便について、Gouveaら1)およびWuら2)が報告したVP7およびVP4遺伝子を標的としたプライマーを用いてRT-PCR法によるRVAの検出を実施したところ、患者6名(100%)からいずれの遺伝子も検出された。そのうち小児3名と大人1名から得られたVP7VP4遺伝子のPCR産物の塩基配列をダイレクトシークエンス法により決定したところ、いずれもG1P[8]型に遺伝子型別され、DDBJのBlast検索ではVP7VP4遺伝子ともにRVA/Human-wt/USA/2007719635/2007/G1P[8] (VP7; JN258368、VP4; JN258371)と最も高い相同性を示した。

RVAは小児の感染性胃腸炎の主要な病原体であり、非常に感染力の強いウイルスである。RVAによる小児の重症化や成人の集団感染性胃腸炎も報告されている。本事例では島内の半数以上の保育所等で感染性胃腸炎が発生し、10名以上の児童が発症した保育所等もみられた。流行期間中に入院した小児のうち2名が脳症を発症した。1~2歳が流行の中心であったが、一部では保育所等職員や児童の父母への感染があったとの報告もあり、流行期間中に胃腸炎を発症した大人1名から小児と同じ遺伝子型のRVAが検出された。八重山保健所管内の感染性胃腸炎患者報告数は第29週(7/15~7/21)以降、各週1名以下となり、本事例はほぼ終息したと考えられる。保育所等における感染対策としては、日頃からの衛生対策、乳児へのワクチン接種によるRVA感染対策、さらには保育所等職員や児童の家族内での感染防止が重要である。

八重山保健所は感染性胃腸炎発生のあった複数の保育所等間の児童や家族が接触する場として共通のものがなかったか調査したが、感染を拡大させた要因として明確なものは見出せなかった。沖縄県内のRVA流行状況は不明な点が多く、本事例が島内で既に流行していた株が保育所等に持ち込まれたことにより発生したのか、島外から持ち込まれた株により発生したのかは不明である。それを明らかにするためには、継続した患者および病原体サーベイランスが重要と考えられた。

 

参考文献
1)Gouvea, et al., J Clin Microbiol 28: 276-282, 1990
2)Wu, et al., Epidemiol Infect 112: 615-622, 1994

 

沖縄県衛生環境研究所   
    仁平 稔 久場由真仁 加藤峰史 喜屋武向子 新垣絵理 高良武俊 岡野 祥 久高 潤
沖縄県八重山保健所   
    前津政将 桑江沙耶香 饒平名長令 大屋記子 宮川桂子

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