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2021年春のRSウイルス感染症流行―大阪市

(IASR Vol. 42 p195-197: 2021年9月号)

 

 RSウイルス(RSV)感染症は, ほぼすべてのヒトが2歳までに罹患する呼吸器感染症で, 日本の感染症法では5類感染症(小児科定点疾患)に定められている。国内におけるRSV感染症の流行は, 2017年以降, 第31~43週(夏~秋)に発生する傾向にある1)。RSVは, Gタンパクの性状の差から2つのサブグループ(RSV-A, RSV-B)に大別され, さらに複数の遺伝子型に分類される2)。近年の国内では, RSV-A(ON1型)およびRSV-B(BA9型)が優勢である2,3)。全国における2020年のRSV感染症患者(患者)の定点からの報告数は18,096人で, 前年の140,093人と比べて87%減少した4,5)。しかしながら, 2020年第49週から鹿児島県, 宮崎県, 沖縄県を中心に小児科定点医療機関当たりの患者報告数(定点報告数)は徐々に増加し, 2021年第21週では, 全国各地でRSV感染症の流行が発生している6,7)。大阪市内においても2021年第2週以降, 定点報告数が増加し, 例年と比べて大きく異なる流行期を認めた。本稿では, 2021年における例年と異なる時期のRSV感染症の流行要因を探るために, 過去10年間にわたる大阪市内の患者発生状況の分析, ならびに2021年第1週以降に検出されたRSVの分子疫学的解析を行ったので, その結果について報告する。

 患者発生状況の分析は, 2012年第1週~2021年第21週に大阪市内の小児科定点医療機関から報告された患者情報を基に行った。各年の週ごとにおける定点報告数と各年に報告された患者年齢について解析した。定点報告数は, 2017年以降, 第28~31週で1.00を超えるようになり, 第35~37週でピークに達する傾向にあった(図1)。一方, 2020年は, 定点報告数が1.00を超える週はなく(図1), 患者報告数も374人で, 前年の4,179人と比べて91%減少した(図2A)。2021年は, 定点報告数が第3週から1.00を超え始め, 第16週と第21週では5.00を超えた(図1)。特に, 2021年第21週の5.41は, 2012~2020年で最大であった2019年第37週の5.47と同等であった(図1)。2021年第1~21週では, 例年よりも2~4歳の報告数が多く(図2A), 2012~2020年に報告された患者の平均年齢分布と比べて(従来比), 2歳は約90%の増加, 3歳および4歳は各々約100%の増加であった(図2B)。その一方, 0歳が少なく(図2A), 従来比約50%の減少であった(図2B)。

 RSVの分子疫学的解析は, 2021年第1~16週にRSV感染症と診断され, 大阪市感染症発生動向調査事業に供与された0~3歳児(年齢中央値1歳)の呼吸器由来25検体(鼻汁24検体, 喀痰1検体)を対象に行った。real-time PCR法を用いて, RSV-AおよびRSV-Bの遺伝子検索を行い, サブグループを決定した8)。さらに, ダイレクトシーケンス法を用いて, GタンパクのC末端側にある第2可変部位をコードする塩基配列を決定し, 遺伝子型を同定した。その結果, 14検体がRSV-AですべてON1型, 11検体がRSV-BですべてBA9型であった。

 2021年における大阪市の患者報告数は, 冬から春にかけて増加しており, 患者年齢は従来よりも高い傾向にあった。また, そのRSVの遺伝子型は, 近年の国内で優勢を示す型と一致した。2020~2021年は, 海外(南アフリカ, オーストラリア, 米国)においても例年と異なる時期のRSV感染症の流行が報告されている9-11)。2020年は, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行が発生し, マスクの着用, 手洗いの勧奨, ならびにフィジカル・ディスタンスの確保等が実施された。これらの感染予防対策は, 乳幼児のRSV感染の減少にも効果的であったと考えられる12)。それに伴うRSV感受性乳幼児の増加が, 2021年春の国内におけるRSV感染症流行の一因であった可能性がある。RSV感受性者の蓄積は, 季節的流行を認める従来の遺伝子型のRSVが季節にかかわりなく流行する原因になりうると考えられた。RSV感染症の流行期には重症化しやすいハイリスク児を対象にパリビズマブを用いた重症化予防が行われるため, その流行状況を把握する意義は大きい。2021年夏以降も患者発生状況の分析およびRSVの疫学的解析を継続し, RSV感染症の流行状況について注視する必要があると考えられた。

 

参考文献
  1. Miyama T, et al., Epidemiol Infect 149: e55, 2021
  2. Hibino A, et al., PLOS ONE 13(1): e0192085, 2018
  3. 池田周平ら, IASR 39: 102-103, 2018
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/rs-virus-m/rs-virus-iasrd/8097-460d02.html
  4. 国立感染症研究所, IDWR速報データ2020年第53週
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/data/10103-idwr-sokuho-data-j-2053.html
  5. 国立感染症研究所, 感染症発生動向調査年別報告数一覧(定点把握)
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/ydata/10071-report-jb2019.html
  6. 国立感染症研究所, IDWR 2020年第52・53週(第52・53合併号)
    https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/idwr/IDWR2020/idwr2020-52-53.pdf
  7. 国立感染症研究所, IDWR 2021年第21週(第21号)
    https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/idwr/IDWR2021/idwr2021-21.pdf
  8. Kaida A, et al., Jpn J Infect 67(6): 469-475, 2014
  9. National Institute for Communicable Diseases, Increase in respiratory syncytial virus(RSV)cases 2020
    https://www.nicd.ac.za/increase-in-respiratory-syncytial-virus-rsv-cases-2020/
  10. Foley DA, et al., Clin Infect Dis, 2021
  11. Centers for Disease Control and Prevention,Increased interseasonal respiratory syncytial virus(RSV)activity in parts of the Southern United States
    https://emergency.cdc.gov/han/2021/han00443.asp
  12. Sherman AC, et al., Clin Infect Dis 72(5): e154-e157, 2021

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