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広島県におけるRSウイルス遺伝子型検出状況(2011~2017年)

(IASR Vol. 39 p102-103: 2018年6月号)

RSウイルス(RSV)感染症は乳幼児期に多く感染するウイルス感染症の一つで, 生後1歳までに半数以上が, 2歳までにほぼ100%が初感染を受ける。また, 乳幼児における肺炎の約50%, 気管支炎の50~90%がRSV感染症によるものとされている。本ウイルスは, 血清型でA(RSV-A)とB(RSV-B)に分かれ, さらに, 最近の報告1)ではG蛋白の塩基配列により, RSV-Aは14の遺伝子型, RSV-Bは24の遺伝子型に分かれる。今回, 2011~2017年における広島県で検出されたRSVの流行遺伝子型を明らかにしたので報告する。

供試検体には, 2011年1月~2017年10月に感染症発生動向調査事業で搬入された検体(咽頭ぬぐい, 鼻腔ぬぐい等)のうち, リアルタイムPCRで陽性となった267検体中137検体を用いて, G遺伝子領域を対象としたダイレクトシークエンスと, MEGA5による近接結合法により遺伝子型を決定した。

過去7年間の変遷()をみると, RSVの検出血清型の割合は毎年変化しており, 2012年, 2015年および2017年はRSV-Aが優勢で, 2016年はRSV-Bが優勢であった。遺伝子型については, RSV-AではNA1とON1が検出された。ON1はNA1のC末端領域に72塩基の繰り返し配列が挿入されている新しい遺伝子型2)で, 2010年にカナダで初めて検出され, その後世界中で検出が確認されている。今回の我々の調査結果から, 広島県においては2013年にON1の検出が確認され, また, 日本国内においても同様な報告3,4)があることから, この時期にはすでに本遺伝子型のRSVが日本の各地に入ってきたものと思われる。また, NA1とON1の検出割合は,2014年まではNA1が優勢であったが, 2015年にNA1が4件, ON1が8件と割合が逆転し, 2016年以降はNA1が検出されずON1に置き換わっていた。同様の現象は中国でも認められており5), ON1が2013~2015年にかけて優勢な遺伝子型となっていると思われる。

一方, 広島県におけるRSV-Bについては, BA9とBA12が検出されている。それらの検出割合は総じてBA9が優勢となっており, この傾向はこれまでの報告1,3)と同様である。なお, 2016年は前述したようにRSV-Bが流行しており, そのうちBA9が9割を超えていた。

今回の調査でRSVの流行遺伝子型は, 年により変化していることが判明した。2017年は広島県でも全国と同様, 通常よりも早い時期から流行が始まり, その後患者報告数も急激に増加していた。この原因については明らかではないが, 新たな遺伝子型ON1の国内への侵入と拡大が関係しているかもしれない。このことを明らかにするためにも, 今後もRSVの動向については, 注意深く監視していく必要があり, 年ごとの変動について引き続き調査していく予定である。

 

参考文献
  1. Song J, et al., Sci Rep 7: 16765, 2017
  2. Eshaghi A, et al., PLOS ONE 7: e32807, 2012
  3. 齋藤玲子ら, IASR 35: 148-149, 2014
  4. 田中俊光ら, IASR 33: 99-100, 2012
  5. Song J, et al., Sci Rep 7: 5501, 2017

 

広島県立総合技術研究所保健環境センター
 池田周平 谷澤由枝 島津幸枝 重本直樹 高尾信一

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan