注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。
◆インフルエンザとRSウイルス感染症
現在、国内ではインフルエンザとRSウイルス感染症が流行している。ともに代表的な呼吸器ウイルス感染症であり、手洗い、咳エチケットといった対策を徹底することが大事である。本稿においては、報告に基づく直近の流行の概要を提供することを目的とした。
インフルエンザ インフルエンザは、インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症で、毎年世界中で流行がみられている。主な感染経路はくしゃみ、咳、会話等から発生する飛沫による感染(飛沫感染)であり、他に飛沫の付着物から手指を介した接触感染もある。感染後、発熱、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが出現し、鼻水・咳などの呼吸器症状がこれに続く。通常は1週間前後の経過で軽快するが、いわゆる「通常感冒」と比べて全身症状が強いことが特徴である。
2014/2015年シーズンのインフルエンザの定点当たり報告数は2014年第42週以降増加が続いている。2014年第48週(2014年11月24~30日:12月3日現在)の定点当たり報告数は1.90(患者報告数9,396)となり、全国的な流行開始の指標である1.00を初めて上回った〔インフルエンザの年別・週別発生状況(本号11ページ参照):http://www.niid.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1644-01flu.html〕。昨シーズンに比べ、3週間早い流行期入りとなり、過去10年で2番目の早さとなっている。国内のインフルエンザの定点当たり報告数をみると、東日本を中心に、岩手県(10.52)、福島県(6.41)、埼玉県(5.05)、神奈川県(4.04)、東京都(3.62)の順となっており、46都道府県で前週の報告数よりも増加が見られた。全国の保健所地域で警報レベルを超えている都道府県は1箇所(1県)であり、注意報レベルを超えている保健所地域は8箇所(1道1都1府4県)であった。定点医療機関からの報告をもとに推計される累積の受診者数は、2014年第36週以降これまでに約19万人となった。基幹定点からのインフルエンザ患者の入院報告数は56例であり、第47週(38例)より増加した。23都道府県から報告があり、小児と高齢者が多く見られた。年齢別では0歳(4例)、1~9歳(19例)、10代(3例)、20代(1例)、30代(1例)、60代(3例)、70代(9例)、80歳以上(16例)であった。直近の5週間(2014年第44~48週)ではAH3亜型の検出割合が最も多く、次いでAH1pdm09の順となり、B型は検出されていない。2014年9月以降に検出されたウイルスは、AH3亜型が大半を占めている(インフルエンザ流行レベルマップ第48週:https://nesid3g.mhlw.go.jp/Hasseidoko/Levelmap/flu/2014_2015/2014_48/jmap.html)。
RSウイルス感染症 RSウイルス感染症は、RSウイルス(respiratory syncytial virus; RSV)を病原体とする乳幼児に多い急性の呼吸器感染症である。インフルエンザ同様、RSウイルスは飛沫および接触感染により伝播する。生後1歳までに50%以上が、2歳までにほぼ100%がRSウイルスの初感染を受けるが、初感染によって終生免疫は獲得されない。新生児・乳幼児、免疫不全者およびダウン症児等は重症化しやすい傾向があり、乳幼児における肺炎の約50%、細気管支炎の50~90%がRSウイルス感染症であるとされる。予防手段としては、使用可能なワクチンはないが、早産児、慢性肺疾患や先天性心疾患等を持つハイリスク児を対象に、RSウイルス感染の重症化予防のため、ヒト化抗RSV-F蛋白単クローン抗体(パリビズマブ)の適応がある(http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/6250404A1020_2_03/)。高齢者のRSウイルス感染症においてはインフルエンザと同程度の頻度で肺炎発症が認められる(http://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-sp/ 2296-related-articles/related-articles-412/4713-dj4127.html)。
RSウイルス感染症の流行は、例年、季節性インフルエンザに先行して、夏頃より始まり秋に入り患者数が急増する。2014年も8月下旬から患者報告数が増加した。2014年第48週(2014年11月24~30日:12月3日現在)の患者報告数は5,495例に達し、3週連続で増加した〔RSウイルス感染症の年別・週別発生状況(本号17ページ参照):http://www.niid.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1661-21rsv.html〕。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約68%を占めている。報告数の多かった上位5都道府県は、北から北海道、埼玉県、東京都、愛知県、大阪府であった。
インフルエンザの流行は今後さらに拡大し、ピークを迎えるとみられる。RSウイルス感染症も、例年年末をピークに春まで続く。また、インフルエンザの流行期間中、流行地域の拡大や流行しているインフルエンザウイルス亜型の割合が変化する事も有り、発生動向には注意が必要である。共に呼吸器ウイルス感染症であるインフルエンザとRSウイルス感染症の感染対策としては、飛沫感染対策としての咳エチケット、接触感染対策としての手洗い等の手指衛生といった対策を徹底することが大事である。インフルエンザに関しては、早めのインフルエンザワクチン接種も重要である。インフルエンザワクチンは一定程度の発症予防効果と重症化予防の効果があるとされており、高齢者は予防接種法上の定期接種の対象となっている(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/index.html)。
インフルエンザとRSウイルス感染症の感染症発生動向調査に関する背景・詳細な情報と最新の状況については、以下を参照いただきたい:
●感染症発生動向調査週報(IDWR) http://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr.html ●インフルエンザ流行レベルマップ http://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-map.html ●IASRインフルエンザ2013/14シーズン http://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/flutoppage/592-idsc/iasr-topic/5144-tpc417-j.html ●IASR RSウイルス感染症2014年5月現在 http://www.niid.go.jp/niid/ja/id/542-disease-based/alphabet/respiratory-syncytial/idsc/iasr-topic/4766-tpc412-j.html
国立感染症研究所 感染症疫学センター
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