1972~2022年度の感染症流行予測調査事業の風疹抗体価のデータを用いた風しん含有ワクチン接種スケジュールとの抗体保有状況の関連性の比較
(IASR Vol. 45 p65-68: 2024年4月号)背景: これまで日本では, 風しん含有ワクチンの接種は1977年から定期接種ワクチンとして利用され, 対象年齢の変更や接種回数の追加等の複数回の接種スケジュールの変更と, 第3期〔2008年4月1日~2013年3月31日まで中学校1年生相当年齢に対して麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)の接種を提供〕, 第4期(2008年4月1日~2013年3月31日まで高校3年生相当年齢に対してMRワクチンの接種を提供)接種等の追加的対策が行われてきた1)。しかしながら, その後も2012~2013年にかけて16,000例を超える流行や, 2018~2019年に5,000例を超える流行が確認されている。これらの流行では, 患者の主体は成人で, しかも患者は男性が女性に比べて約4倍多く報告されていた2)。特に風しん含有ワクチンの接種機会が女性にのみ提供された世代では, 患者報告数は8.4倍(2013年)~9倍(2019年), 男性の方が多かった。そのため風しん含有ワクチンの接種機会が一度も提供されてこなかった昭和37年4月2日~昭和54年4月1日(1962年4月2日~1979年4月1日)に出生した男性集団に対して2019年度から第5期接種対象者として接種機会の提供が行われている。しかしながら, 接種機会が提供されているにもかかわらずワクチン接種スケジュールの移行期にあたる一部の男性年齢集団で想定されるより患者報告数が多く報告されている(図1)。
方法: 1972~2022年度の感染症流行予測調査で得られた, 延べ155,964名の抗風疹赤血球凝集抑制抗体の保有状況のデータを用いた。抗体保有率を風疹のワクチン接種スケジュールごとに8グループに大別して比較した〔出生年月が1962年3月以前(ワクチンの接種機会無し), 1962年4月~1979年3月(中学生女子1回接種かつ集団接種), 1979年4月~1987年9月(男女中学生に1回個別接種), 1987年10月~1990年3月(幼児期男女に1回接種), 1990年4月~1995年3月(幼児期, 4期の2回接種), 1995年4月~2000年3月(幼児期, 3期の2回接種), 2000年4月~2005年3月(幼児期, 就学前の2回接種), 2005年4月以降(原則1歳, 就学前の2回接種)〕。
結果: 出生時期別に抗体保有状況を比較すると, 男性では男女に定期接種機会がなかった世代よりも中学生女子にのみ接種機会が提供されていた出生集団(1962年4月~1979年3月)の方が抗体保有率が低かった(図2左●印)。一方, 女性では, 接種機会が提供された出生集団では, 90%を超える抗体保有率が維持されていた(図2右)。成人男性において単年度出生集団で比較すると, 第5期接種対象ではない1979年4~12月に出生した男性の抗体保有率(▲)が第5期接種対象者(■と●)と同等の80%程度の保有率であることが明らかになった(図3左)。1979年4~12月に出生した男性集団は, 女性のみが対象であったことから男女に対して接種が広げられた接種スケジュールの切り替わった初年度のため, 新たに接種対象者に加えられた男性集団の接種率が低かった可能性が示唆された。
まとめ: 抗体保有率の男女差は, 1981年出生群から解消されてきたが, 接種スケジュールが男女に変更された直後の1979年4月~1980年3月出生群の男性は第5期接種対象の男性と同程度に抗体保有率が低く, 患者報告状況も第5期接種対象群と同等に患者が報告されている。1979~1980年生まれ男性の抗体保有率の低さは伴ら3)の解析でも示されており, 中学生男女に定期接種として接種が提供された集団であっても抗体保有率の低い可能性が強く示唆された。任意接種でのワクチン接種の参考となるよう, 今後これらの状況を周知する必要があると考えられた。
制限: 出生集団の分類は, 出生日を考慮しておらず, 4月1日出生者も西暦で分類されている。限定された自治体の結果のため, 結果の一般化にはさらなる検討が必要である。
参考文献
- 国立感染症研究所, 日本の予防接種スケジュール, 2023
- 国立感染症研究所, 風疹流行に関する緊急情報: 2020年1月8日現在
- 伴 文彦ら, 感染症学雑誌 94: 174-180, 2019