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「台湾まぜそば」を原因とするサルモネラ属菌による食中毒事例について

(IASR Vol. 42 p48: 2021年2月号)

 

 近年, 市販鶏卵のサルモネラ属菌の汚染率は, 採卵養鶏場での対策によって減少しており, 2010(平成22)年度の食品安全委員会委託研究の調査では, 約10万個に3個(0.003%)の汚染率であると報告されている1)。それに伴い, 鶏卵を原因食品とするサルモネラ属菌による食中毒も減少している。また, 鶏卵の卵白中には, 抗菌作用を有するリゾチームやコンアルブミンが含まれており, 高pHのため, 一般的には細菌の増殖には適していない食品とされている2)

 しかし2020(令和2)年8月に, 滋賀県内の飲食店で生卵の黄身をトッピングする「台湾まぜそば」を喫食した28人中19人が, 食中毒症状を呈し, 後の調査の結果, サルモネラ属菌O9群による食中毒と断定された。

 本事例は, 鶏卵が原因と考えられるサルモネラ属菌による典型的な食中毒事例であったことから, 概要について報告する。

事例の探知

 令和2年8月17日に滋賀県彦根市内の飲食店から, 8月14日の夕方に7人で来店した客のうち3人が, 食中毒症状を呈している, と当所に相談があった。また, 8月18日に当県東近江保健所管内の医療機関から, 食中毒疑いの患者を診察し, その患者は8月14日の夕方に3人で彦根市内の飲食店を利用していたとの連絡が東近江保健所にあった。

結 果

 調査の結果, 患者の発症期間は令和2年8月15~17日, 8月14日の当該飲食店利用者は28人で, 患者は19人(男10人, 女9人), 発症率は67.9%であった。主な症状は下痢, 発熱(37.2-40.5℃), 腹痛, 倦怠感, 吐気, 嘔吐, 悪寒等で, 平均潜伏期間は30.6時間であった。

 8月14日に当該飲食店で食事をした9グループ24人のうち18人, および同店でまかない食を食べた従事者4人のうち1人が発症しており, これら発症者に共通する食品および飲食店は同店以外にないこと, また発症者が喫食した共通のメニューは, 「台湾まぜそば」およびそのアレンジメニューであったため, 8月14日に同店で提供された「台湾まぜそば」(アレンジメニューを含む)を原因食品とした。

 患者便7検体中5検体, およびまかないを食べた従事者便4検体中3検体(有症者便1検体を含む)からサルモネラ属菌O9群が検出された。なお, 施設のふきとり検体からは検出されなかった。

考 察

 原因食品とされた「台湾まぜそば」に使用された鶏卵の取り扱いにおける衛生管理について, のとおり不適切な点が認められた。なお, 鶏卵以外の具材等については不適切な点(表中のアンダーライン部)は認められなかった。

 また, 原因食品である「台湾まぜそば」に使用された鶏卵の選別包装を行ったGPセンターの遡り調査を実施したところ, 当該施設の衛生管理に問題は認められず, 同様の苦情はないという結果であった。

 鶏卵は, 検出率は低いものの, サルモネラ属菌O9群に「in egg」で汚染されている可能性があることが知られている。今回, 同店で使用された鶏卵はサルモネラ属菌O9群に「in egg」で汚染されており, 不適切な状態で保管されていたために, サルモネラ属菌が食中毒を起こす程度まで増殖したものと推察された。

 どのような状況であっても, 鶏卵を原材料として取り扱う場合は, ①仕入れ後の冷蔵保管, ②生食で使用する場合は生食用卵の賞味期限内での使用, ③調理直前の割卵, が食中毒予防の大原則である。

 本事例の飲食店は県外に本部を置くチェーン店であるが, 鶏卵を原因食品とするサルモネラ属菌による食中毒が同チェーン店間において発生していなかったことから, 同店では, 原材料の鶏卵の温度管理, 鶏卵の割置きなど, 鶏卵に対する食中毒対策が疎かになっていた。

 今回の事例を受けて, 同店では, 余裕をもって鶏卵を保管できるよう冷蔵設備を増設し, 鶏卵の冷蔵保管を徹底することになった。併せて, 生卵は割り置きせず, 客からの注文に応じて, その都度割卵するよう取り扱いマニュアルを改めた。

 

参考文献
  1. 食品安全委員会, 平成22年度食品健康影響評価技術研究「市販鶏卵におけるSalmonella Enteritidis汚染の実態解明とリスク評価法への活用について」(2011)
  2. 食品安全委員会, 食品健康影響評価のためのリスクプロファイル~鶏卵中のサルモネラ・エンテリティディス~(改訂版)(2010)

 
滋賀県彦根保健所              
 澤 英之 森本 遼 東野貴子       
滋賀県健康医療福祉部生活衛生課食の安全推進室  

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