クリプトコックス症の概要
(IASR Vol. 36 p. 185-186: 2015年10月号)
1.クリプトコックス症の特徴
クリプトコックス症はクリプトコックス属真菌による感染症であり、健常者における侵襲性真菌感染症として国内で最も頻度が高い。クリプトコックス属真菌は主に肺や皮膚から感染して病巣を形成する。肺クリプトコックス症が多いが、播種性感染症を起こすことがある。特に中枢神経系に播種して、脳髄膜炎を起こすことが多い。腎疾患、膠原病、悪性腫瘍、糖尿病やステロイド投与などがクリプトコックス症のリスク因子であり、ヒト免疫不全症候群ウイルス(HIV)感染はクリプトコックス脳髄膜炎のハイリスクとなる1)。
2.クリプトコックス症の原因真菌
クリプトコックス属は担子菌類に属する酵母状の真菌で、細胞壁の外側に多糖体で構成される厚い莢膜を有するのが特徴である。髄液などの臨床検体を用いて、墨汁法による直接鏡検で莢膜保有酵母を確認することが診断に有用である1, 2)。クリプトコックス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)感染マウスの肺から分離した菌体の墨汁法による直接鏡検像を図に示す。C.neoformans はクリプトコックス症の主な原因真菌で、国内における症例のほとんどを占めている。感染源としてハトなどの鳥の糞との関与が示唆されており、環境中に浮遊する真菌を吸入して、あるいは,創傷のある皮膚などを介して感染する。これまでにヒト-ヒト間での感染は報告されていない。
クリプトコックス症の原因真菌として、C. neoformans の他にクリプトコックス・ガッティ(C. gattii)があげられる。発生地域としては、C. neoformans が世界中に認められるのに対し、C. gattiiは熱帯や亜熱帯地域、特にオーストラリアやパプアニューギニアなどに限定的に認められていた。しかし近年、北米においてC. gattii のアウトブレイクが発生し、発生地域の世界的な拡大傾向が懸念されている3)(IASR 34: 4-5, 2013 参照)。国内においても限定的であるもののC. gattii によるクリプトコックス症例が報告されている4)(本号5ページ参照)。
3.症 状
健常者の肺クリプトコックス症例では無症状のことが多い。皮膚クリプトコックス症例では皮疹などの皮膚所見を認める。脳髄膜炎症例では、発熱や頭痛を認め、嘔気・嘔吐や項部硬直などの髄膜刺激症状、性格変化や意識障害などの神経症状を認めることもある。
4.検査および診断
血液の一般生化学検査は特有の所見を認めないことが多い。脳髄膜炎症例では、髄液圧の上昇、髄液中の細胞数増加、糖の低下や蛋白増加などを認める。髄液の墨汁法による菌体確認や臨床検体からクリプトコックスが培養されれば、確定診断となる。補助診断として、莢膜多糖の主要成分であるグルクロノキシロマンナン抗原を検出する血清学的検査が有用である。しかし、播種性トリコスポロン症例でも擬陽性になることに留意する必要がある。肺クリプトコックス症の画像所見では、結節性または空洞性の病変を認めることがあり、肺腫瘍との鑑別が必要となる。病理学的検査において、細胞性免疫の低下していない症例では、肉芽腫性の病変を認めるが、病原因子と宿主の免疫状態により非典型的な所見を呈することがある。Alcian blue-PAS染色ではクリプトコックスの莢膜成分が陽性となり、ヒストプラズマなど他の真菌との鑑別に有用となる1)。
C. neoformans とC. gattii の鑑別には、L-canavanine glycine bromothymol blue(CGB)培地を用いた簡易的同定法、またはリボゾームRNA遺伝子のITS領域、D1/D2領域、IGS領域の塩基配列解析による同定法を用いる。
5.クリプトコックスに対する免疫機構
クリプトコックスに対する免疫応答としては、結核菌などの細胞内寄生菌と同様に細胞性免疫、特に1型のヘルパーCD4T細胞(Th1細胞)による免疫応答が重要である。Th1細胞などによって産生されるinterferon-γ(IFN-γ)などのサイトカインにてマクロファージなどの食細胞が活性化されることにより、肉芽腫が形成され、真菌を封じ込めると考えられている5)。そのため、後天性免疫不全症候群(AIDS)症例では、CD4T細胞数の減少により真菌の増殖を抑制することができなくなり、脳髄膜炎などの播種性クリプトコックス症の発症率が高くなることが知られている。
参考文献
- 深在性真菌症のガイドライン編集委員会,深在性真菌症の診断・治療ガイドライン2014,共和企画,東京,2014
- 山口英世,病原真菌と真菌症 改訂4版,南山堂,東京,2007
- Galanis E, et al., Emerg Infect Dis 16: 251- 257, 2010
- Okamoto K, et al., Emerg Infect Dis 16: 1155-1157, 2010
- 石井恵子,川上和義,Medical Mycol J 55J: 107-114, 2014
国立感染症研究所真菌部
金城雄樹 梅山 隆 宮﨑義継
大阪市立大学大学院医学研究科細菌学
金子幸弘