国立感染症研究所

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2014/15シーズンにおける超過死亡の評価

(IASR Vol. 36 p. 213-214: 2015年11月号)

インフルエンザの社会的インパクトを評価するにあたって、インフルエンザによる患者数も重要であるが重症化の指標として死亡者数が重要である。世界保健機関(WHO)はインフルエンザの流行によってもたらされた死亡の増加を、インフルエンザの「社会的インパクト」の指標とする「超過死亡(excess death, excess mortality)」の概念1)を提唱している。これは直接的、間接的を問わず、インフルエンザ流行がなければ回避できたであろう死亡者数を意味する。わが国においては、日本の現状に応じたモデルとして2種類、全国と大都市(特別区および政令指定都市)で把握され、http://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/a/flu.html内「インフルエンザ関連死亡迅速把握システム」にて公表されている2-4)

全国における超過死亡の推定は、総死亡(死亡理由を問わない)のみで、死亡から50日後に厚生労働省統計情報部から公表される速報値に基づいて確率的フロンティア推定法5)を用いて推定され公表されている。

他方、大都市のみにおける超過死亡の推定は、1999年度から厚生労働省健康局結核感染症課によって実施されている「インフルエンザ疾患関連死亡者数迅速把握」事業で行われている。死亡届の数段階ある死因のいずれかにインフルエンザあるいは肺炎の記載がある死亡者数が概ね週に一度、保健所の協力を得て感染症サーベイランスシステム(NESID)に登録され、その情報から超過死亡の推定、公開がなされている。概ね死亡日から2週間でHP上に公開されている。本迅速把握システムは毎シーズン12月~3月までの事業であり、4月~11月のデータは欠損している。また、実際には報告遅れが生じていることに留意されたい。

いずれの推定においても、「超過死亡」数は実際の死亡者数が、ベースライン(確率的フロンティア推定法における推定値、つまりインフルエンザ流行がなかった場合に予想される死亡者数)の95%信頼区間の上限である閾値を上回っている週(月)における、実際の死亡者数と閾値との差、として定義される。

全国と大都市の2つの超過死亡の推定方法は、それぞれ長所・短所がある。流行中の超過死亡の把握という意味では、全国が50日後、大都市が2週間後公開であるので、大都市が圧倒的に有利である。他方、死亡の概念からは、全国は総死亡であるために網羅的で死因の定義の影響を受けないが、大都市はインフルエンザあるいは肺炎死亡であるため限定的になる可能性がある。地域性においても全国の方が優れている。したがって、両者を相補的に活用することが肝要であると思われる。また、両者は死亡の定義が異なるため、単純な比較はできず、互いに包含関係にはないことに留意が必要であると思われる。

では全国でのシーズンごとの超過死亡者数をまとめている。シーズン中一度も総死亡者数が閾値を上回らなければ超過死亡者数は0となる。これによると1998/99シーズンで超過死亡者数は35,000人を超えているが、2004/05シーズン以降1万人を超えることはなかった。2014/15シーズンは1月に総死亡者数が閾値を上回り、5,000人程度の超過死亡が発生した。直近5シーズンでは3番目と、特別に大きな超過死亡が発生したわけではなかった。

他方で大都市では、実際の死亡者数は、2015年第3週に約680人と突出しており、過去8シーズンの中でも最も多かったが、閾値を上回った週は観察されなかったため、21大都市合計では超過死亡の発生はなかった(上記URL参照)。

一方、都市別では、仙台市で2015年第5~6週・第13週、さいたま市で2015年第1週、東京都特別区で2014年第49~52週・2015年第2・3・5週、横浜市で2015年第1・3・5週、広島市で2015年第3週、北九州市で2014年第52週・2015年第3週にそれぞれ超過死亡が発生した。たとえば東京都特別区では2015年第3週に2007/08シーズン以来最大である50人弱の超過死亡が発生した。

以上から、2014/15シーズンは全国的には平均的な超過死亡が発生したシーズンであったが、都市別では多くの超過死亡が発生した大都市もあった、とまとめられよう。



参考文献
  1. Assad F, et al., Bull WHO 1973; 49: 219-233
  2. 大日康史, 他, IASR 24(11): 288-289, 2003
  3. 大日康史, 他, IASR 25(11): 285-286, 2004
  4. 大日康史, 他, IASR 26(11): 293-295, 2005
  5. 大日康史, 健康経済学, 東洋経済新報社 2003, 86-91


国立感染症研究所感染症疫学センター         
  大日康史 菅原民枝 砂川富正

 

 

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