小児病院での重症の百日咳菌感染症
(IASR Vol. 40 p5-6: 2019年1月号)
百日咳菌による呼吸器感染症は, 長引く咳嗽や連続性咳嗽, 吸気性笛声などを特徴とする。ワクチンで予防可能な疾患 (vaccine preventable diseases: VPDs) の一つであるが, 国内外でワクチン導入後も年長児や成人を含んだアウトブレイクが報告されている1-3)。ワクチンは重症化や死亡の予防に有効であり, ワクチン未接種の早期乳児は重症化のリスクが高い4)。ときに無呼吸やチアノーゼなどから全身管理を要し, 死亡例も報告されている5)。
東京都立小児総合医療センターは, 東京都西部の多摩地区450万人を診療圏とする小児病院 (561床, 救急外来患者数3万7千人/年) である。LAMP法とPCR法を導入し, 積極的に百日咳の確定診断を行っている。2010年3月~2018年11月に当院で診療した百日咳菌感染症の中から重症例を検討した。百日咳菌感染症の診断は, 基準 (表) を満たした症例を組み入れた。また, 小児集中治療室に入室した症例を重症例とした。
症例は131例で, 年齢の中央値は11か月 〔四分位範囲(IQR):2~92か月〕 であった。
外来治療は58例 (44.3%), 入院症例は73例 (55.7%), そのうち重症例は42例 (32.1%) であった。
重症例の年齢中央値は3か月 (IQR:1~9か月) で, 6か月未満の乳児が28例 (66.7%) を占めていた (図)。ワクチン接種回数が不足していたのは6~11か月児で3例 (37.5%, 3/8), 1歳以降で5例 (83.3%, 5/6) であった (図)。
人工呼吸管理を要した患者は34例 (81.0%) で, 体外式膜型人工肺 (extra-corporeal membrane oxygenation: ECMO) 管理を要したのは6例 (14.3%), 白血球除去療法を施行したのは3例 (7.1%) であった。死亡例は3例 (7.1%) で, 3例とも肺高血圧症を合併し, 2例でECMO管理を行った。
家族が呼吸症状を有していたのは77.1% (27/35) で, うち同胞が71.4% (25/35) で最多であった。次いで母親22.9% (8/35), 父親17.1% (6/35), 祖父母2.9% (1/35) であった (重複あり)。
届出られた全乳児の百日咳の致命率は0.68%6)と報告されているが, 早期乳児ほど重症になりやすく4), 生後90日未満の乳児の百日咳の患者に限ると致命率は1.3%という報告がある3)。当院での外来治療例 (4例) も含んだすべての百日咳診断のついた生後90日未満の乳児での致命率は8.3% (3/36) と高値であった。小児専門の三次医療施設として重症例が集約されたことが考えられ, 前述の既報の致命率との比較には注意を要するが, 小児病院で集学的治療を行っても予後が悪く, 予防が重要と考えられる。疑われた感染源は, 家庭内で同胞が呼吸症状を有している症例が多い。定期のワクチン接種者であっても, 4~7歳における抗百日咳菌毒素抗体価 (PT-IgG) の保有率は減衰して26~38%と報告されている7)。2018年8月, 日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュールが改訂され, 就学前の5~6歳児に対してDtaP 3種混合ワクチンの任意接種が追加された。また諸外国では, 生後6週からワクチン接種を始めるところもあり, 日本でも月齢3か月からの前倒しや妊婦へのワクチン接種を検討すべきかもしれない。また, 医療者からの感染が疑われた事例もあり, 医療従事者も百日咳のワクチン接種を考慮すべきである。当院は, 2011年より医療職員への百日咳のワクチン接種を行っている。
参考文献
- 長谷川範幸ら, IASR 29: 71-73, 2008
- 新橋玲子ら, IASR 38: 28-30, 2017
- Winter K, et al, J Pediatr 161: 1091-1096, 2012
- 松平 慶ら, 小児感染免疫 29(4): 336-344, 2018
- 国立感染症研究所 「百日せきワクチンファクトシート」 平成29 (2017) 年2月10日
- Clark TA, J Infect Dis 209(7): 978-981, 2014
- 佐藤 弘ら, IASR 38: 31-33, 2017