
2018年度感染症流行予測調査におけるインフルエンザ予防接種状況および抗体保有状況
(IASR Vol. 40 p188-190:2019年11月号)
はじめに
厚生労働省健康局結核感染症課を実施主体とする感染症流行予測調査事業においてインフルエンザ予防接種状況と抗体保有状況について毎年度調査し, わが国におけるインフルエンザに対する感受性者の把握を行っている。本稿では, 2018年度調査結果(2019年5月時点の暫定値)について報告する。
方 法
本調査に参加した北海道, 山形県, 福島県, 茨城県, 栃木県, 群馬県, 千葉県, 東京都, 神奈川県, 新潟県, 富山県, 福井県, 山梨県, 長野県, 静岡県, 愛知県, 三重県, 京都府, 愛媛県, 高知県, 佐賀県, 宮崎県, 沖縄県の23都道府県において各都道府県につき198名を予定対象数とし, 2018年7~9月の期間に採取された血清を用いて, 赤血球凝集抑制試験(HI法)により, 型・亜型別の抗インフルエンザ抗体価測定を行った。測定抗原は2018/19シーズンのワクチン株である下記4株とした。予防接種歴は前シーズン(2017/18シーズン)の接種状況を聴取した1)。被験者の選定は調査都道府県が実施した。
・A/Singapore/GP1908/2015(H1N1)pdm09
・A/Singapore/INFIMH-16-0019/2016(H3N2)
・B/Phuket/3073/2013(山形系統)
・B/Maryland/15/2016(ビクトリア系統)
結 果
Ⅰ 予防接種状況(2017/18シーズン)
8,354名の接種歴が得られた。接種歴不明者の割合は, ほぼすべての年齢群で10~20%を占めた。1回以上接種者の割合は1歳未満児で約4%(187名中8名), 1歳児で27%(302名中81名), 2歳以降の年齢群ではおおむね40~50%であった。2回の接種が推奨されている13歳未満の年齢群において, 接種者に占める2回接種者の割合は69%であった(図1)。
Ⅱ 抗体保有状況
6,569名について抗体価測定が実施された。本稿では感染リスクを50%に抑える目安と考えられているHI抗体価1:40以上の抗体保有割合について示す。
A/H1pdm09亜型に対する抗体保有割合は20~24歳群で最も高く(71%), 10代~20代の年齢群で60%以上(61~71%)であった(図2)。最も低いのは0~4歳群の24%であり, 成人では40代~60代前半の群で28~33%と低かった(図2)。AH3亜型に対する抗体保有割合は10~14歳で最も高く(82%), 5歳~10代の年齢群で70%以上であった(71~82%)。最も低いのは0~4歳群の25%であり, 成人では50代~60代前半の群で40~41%と低かった。B型(山形系統)に対する抗体保有割合は20代後半で最も高く(70%), 20代~30代前半の年齢群で65%以上(66~70%)であった。最も低いのは0~4歳群(25%)であった。B型(ビクトリア系統) に対する抗体保有割合は40代で最も高く, 40~44歳群が57%, 45~49歳群が52%であった。B型(ビクトリア系統)に対する抗体保有割合は多くの年齢群で30%以下であり, 最も低いのは0~4歳群(9%)であった。
考 察
インフルエンザワクチンは2001年の予防接種法改正以降, 高齢者を対象に定期接種となり, 予防接種実施者数が公表されている2)。生後6か月以降, 任意接種として接種が可能であるが, 全国の任意接種に関する状況については十分把握されていない。感染症流行予測調査では, 毎年, 全国の各都道府県において約8,000人の予防接種歴が調査されており, 特に任意接種世代の予防接種実施状況の把握に関して有用である。
2017/18シーズンの2歳以上の接種割合は45%であり, 各年代でおおむね同等であった。2歳未満の接種状況はその他の年代に比較して低く, 特に1歳未満児で低かった(図1)。この年齢による接種状況の違いは過去3シーズンにおいても同様の傾向がみられた3)。
インフルエンザの血清疫学調査は, 新型インフルエンザの出現時に有用と考えられる。無症候や軽症の者も含めた感染者数が把握できるため, 他のサーベイランス情報とあわせて発症率等を評価できる4,5)。流行早期に調査結果が得られれば, シーズン中の対策に役立てることも可能である4)。一方, 季節性インフルエンザについては, 抗体陽性となった時期が明確でないこと, 感染による抗体上昇とワクチン接種によるそれとの区別がつかないこと等から結果の解釈が難しい4)。
インフルエンザ病原体サーベイランスにおいて2017/18シーズンに分離・検出された亜型別報告数は多い順にB/山形系統(4,422件, 43%), A/H3(3,315件, 32%), A/H1pdm09(2,330件, 23%)であった6)。2017年度と2018年度で同じ調査株を用いているB型(山形系統)とA/H1pdm09亜型についてみると, 2018年度調査における両者に対する抗体保有割合は, 2017年度と比較して多くの年齢群で増加し, 特に65歳以上群において増加した7)。
本調査においてNESID(national epidemiological surveillance of infectious diseases)システムに登録される被験者の背景情報は都道府県, 年齢, 性別のみであり, 被験者の特性については十分評価できない。
謝 辞
本調査にご協力いただいた都道府県, 都道府県衛生研究所, 保健所, 医療機関等関係者の皆様に深謝いたします。
参考文献
- 厚生労働省健康局結核感染症課, 平成30年度感染症流行予測調査実施要領
https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/yosoku/AnnReport/2018-99.pdf - 厚生労働省, 定期の予防接種実施者数
https://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/other/5.html - 国立感染症研究所感染症疫学センター, 感染症流行予測調査グラフ, 予防接種状況
https://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/667-yosoku-graph.html - de Lusignan S, et al., BMJ open 9(3): e024285, 2019
- Goh EH, et al., an official publication of the In-fectious Diseases Society of America 65(11): 1905-1913, 2017
- 国立感染症研究所, 厚生労働省結核感染症課, 今冬のインフルエンザについて (2018/19シーズン)
https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoco1819.pdf - 国立感染症研究所感染症疫学センター, 年齢群別のインフルエンザ抗体保有状況の年度比較
https://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/8251-flu-yosoku-year2017.html