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鳥・ブタインフルエンザウイルスのヒト感染事例の状況について

(IASR Vol. 40 p190-192:2019年11月号)

鳥インフルエンザウイルス

A(H5)亜型ウイルス:高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスのヒト感染事例は, 2003年以降, 中東, アフリカ, アジアなど17カ国で861例が確認されており, そのうち455例が死亡例である(2019年9月27日現在)1)。2017年9月にインドネシアにてヒト感染事例の報告があったのを最後に, 2019年3月にネパールでは初めてとなるヒト感染事例が確認されるまで, およそ1年半の間, ヒト感染事例の報告はなかった。それ以降, このウイルスによるヒト感染事例は確認されていない(2019年10月8日現在)。ウイルス遺伝子の分子系統解析からネパールで検出されたA(H5N1)ウイルスのヘマグルチニン(HA)遺伝子はclade2.3.2.1aに分類される2)。家禽では, 2019年1月以降, 高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスの流行が, ブータン, 中国, ネパール, インド, ナイジェリア, トーゴ, ベトナムで確認されている3)

近年は, ノイラミニダーゼ(NA)亜型がN2, N5, N6, N8であるA(H5)亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスも世界各地の家禽や野鳥の間で蔓延している。家禽では2019年1月以降, A(H5N6)ウイルスは中国, ベトナム。A(H5N8)ウイルスは南アフリカ, ロシア, パキスタン, ナイジェリア, イスラエル, イラク, イラン, コンゴ, ブルガリア。A(H5N2)ウイルスは台湾, エジプト。A(H5N5)ウイルスは台湾で流行が確認されている(2019年9月27日現在)3)。日本国内では, 2017年11月~2018年4月の間に野鳥や家禽からのA(H5N6)ウイルス検出例が報告されたが, それ以降, A(H5)亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスの検出例の報告はない(2019年10月9日現在)。A(H5) 亜型ウイルスのうち, A(H5N1)ウイルス以外でヒトへの感染が確認されているのはA(H5N6)ウイルスだけであり, 2014年以降, 中国では24例のヒト感染事例が確認されている(2019年9月27日現在)4)。直近では中国で2019年3月と8月にそれぞれ1例のヒト感染事例が確認されている4)。ウイルス遺伝子の分子系統解析から, これらA(H5N6)ウイルスのHA遺伝子はclade2.3.4.4hに分類される2)。中国以外の国で, このウイルスによるヒト感染事例は確認されていない。現時点では, ヒトに感染しやすくなるような遺伝子変異は確認されていない1)

A(H7) 亜型ウイルス:2013年3月に低病原性鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスのヒト感染事例が初めて中国で報告され, 第5波(2016年10月~2017年9月)以降は, 家禽に対して高病原性を示すように変異した高病原性鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスのヒト感染事例も報告されるようになった。2013年以降のヒト感染事例は1,568例, 死亡例は616例である(2019年9月27日現在)4)。第5波では766例のヒト感染事例が報告されたが, 2017年10月以降, 中国内モンゴル自治区で2019年3月に高病原性鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスのヒト感染事例が確認されるまでのおよそ1年半の間, ヒト感染事例の報告は3例であった。2019年4月以降, このウイルスによるヒト感染事例は報告されていない4)。中国では家禽に対して高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスおよびA(H7N9)ウイルスのワクチンを2017年より使用しているが, 現在も家禽や野鳥からの高病原性鳥インフルエンザA(H5)亜型ウイルスおよびA(H7N9)ウイルスの検出報告がある4,5)。なお, 中国以外の国において, 中国で流行していたA(H7N9)ウイルスが家禽や野鳥から検出された事例の報告はない。2019年1月以降, 他のA(H7)亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスについては, A(H7N3)ウイルスがメキシコの家禽の間で流行しているが, このウイルスによるヒト感染事例は報告されていない3)

A(H9)亜型ウイルス:これまでの鳥インフルエンザA(H9N2)ウイルスのヒト感染事例は中国およびエジプト, バングラデシュで散発的に報告されており, 2018年10月以降, 中国では5例(直近では2019年3月に江蘇省で1例)のヒト感染事例が確認され, 2013年12月以降の中国国内でのヒト感染事例は25例となった(2019年9月27日現在)4)。近年の中国のヒト感染事例のA(H9N2)ウイルスのHA遺伝子はウイルス遺伝子の分子系統解析からY280/G9系統に分類される2)。また, 2019年4月にオマーンでは初めてとなるヒト感染事例1例が確認された4)。このA(H9N2)ウイルスのHA遺伝子はウイルス遺伝子の分子系統解析からG1系統に分類される2)。いずれも症状は軽症であり, 死亡例の報告はない。A(H9N2)ウイルスはアフリカ, アジア, 中東では家禽の中で定着しており, このウイルスに感染した家禽との接触により感染したと考えられているが, 直接, 鳥と接触した履歴がなくてもこのウイルスに感染した事例も報告されている。

日本国内ではいまだ, 鳥インフルエンザウイルスのヒト感染事例は報告されていないが, 周辺国では散発的にヒト感染事例が報告されている。世界各地の家禽や野鳥の間で鳥インフルエンザは蔓延しており, それらのウイルスがヒトに感染する可能性は十分に考えられるため, 引き続き注視していく必要がある。

ブタインフルエンザウイルス

ブタは鳥・ヒトインフルエンザウイルスの両方に感染するため, ブタが交雑宿主となって遺伝子再集合により新たなウイルスを排出する可能性がある。現在世界的には, ブタの間で様々な遺伝的背景を持つA(H1N1), A(H1N2), A(H3N2)ウイルスが循環しており, これまでにも散発的にブタからヒトへの感染例が確認されてきた6)。ヒトに感染したブタインフルエンザウイルスは, ヒトの季節性インフルエンザウイルスと区別するために “variant(v)viruses” と総称される。

北米大陸では1990年代後半から, それまでブタの間で循環していたclassical-swine系統のA(H1N1)ウイルスと, 鳥とヒト由来のインフルエンザウイルスとの間で遺伝子再集合が起こり, triple reassortantウイルスと総称されるA(H1N1), A(H1N2), A(H3N2)ウイルスが循環するようになった7)。2009年にパンデミックを引き起こしたA(H1N1)pdm09ウイルスは, このtriple reassortantウイルスとEurasian avian-like swine系統のA(H1N1)ウイルスとの遺伝子再集合により出現したウイルスで8), 2009年以降はA(H1N1)pdm09ウイルスがブタの間でも循環して, さらなる遺伝子再集合が起こっている9)。また2010/11シーズンのヒトの季節性A(H3N2)ウイルスと, ブタインフルエンザウイルスとの間で遺伝子再集合が起こっており10), 北米大陸のブタの間で循環するインフルエンザウイルスの遺伝的背景は複雑化している。米国において, 2011年1月以降2019年10月までに, 主に農業フェアなどにおけるブタとの接触をきっかけとした427例のA(H3N2)vウイルス, 10例のA(H1N1)vウイルス, 25例のA(H1N2)vウイルスのヒト感染事例が報告されている11)。2019年は5月に1例のA(H1N1)vウイルスのヒト感染事例が報告された。ウイルス遺伝子の分子系統解析から, このウイルスのHA遺伝子とNA遺伝子は, 季節性インフルエンザA(H1N1)pdm09に近縁だが, その他のウイルス遺伝子は近年米国のブタの間で循環するウイルスと近縁であった2,4)。それ以降, ブタインフルエンザウイルスのヒト感染事例の報告はない(2019年10月8日現在)。これまでに, variant virusesの感染患者との濃厚接触による限定的なヒトからヒトへの感染事例はあるが, 継続的なヒトからヒトへの感染事例は報告されていない11)

日本では1970年代後半からclassical-swine系統のA(H1N1)ウイルスがブタの間で循環しはじめ12), その後ヒトのA(H3N2)ウイルスとの遺伝子再集合により出現したA(H1N2)ウイルスが循環していたが13), 2009年以降は, A(H1N1)pdm09ウイルスとの間で遺伝子再集合が起きていることが明らかとなっている14,15)。日本ではこれまでブタインフルエンザウイルスのヒト感染事例は報告されていないが, ブタインフルエンザウイルスの発生状況を引き続き注視していく必要がある。

 

参考文献
  1. WHO. Cumulative number of confirmed human cases of avian influenza A(H5N1) reported to WHO.
    http://www.who.int/influenza/human_animal_interface/H5N1_cumulative_table_archives/en/
  2. WHO. Antigenic and genetic characteristics of zoonotic influenza viruses and candidate vaccine viruses developed for potential use in human vaccines.
    https://www.who.int/influenza/vaccines/virus/characteristics_virus_vaccines/en/
  3. OIE. Animal health in the World. Avian Influenza Portal.
    http://www.oie.int/animal-health-in-the-world/update-on-avian-influenza/2019/
  4. WHO. Monthly Risk Assessment Summary.
    http://www.who.int/influenza/human_animal_interface/HAI_Risk_Assessment/en/
  5. FAO. H7N9 situation update
    http://www.fao.org/ag/againfo/programmes/en/empres/h7n9/Situation_update.html
  6. Lei Zhou, et al., WPSAR, doi: 10.5365/wpsar.2017. 8.1.001, 2017
  7. Lorusso A, et al., Curr Top Microbiol Immunol 370: 113-132, 2013
  8. Garten RJ, et al., Science 325(5937): 197-201, 2009
  9. Nelson MI, et al., J Infect Dis 213(2): 173-182, 2016
  10. Raj~ao DS, et al., J Virol 89(22): 11213-11222, 2015
  11. CDC. Reported Infections with Variant Influenza Viruses in the United States.
    http://www.cdc.gov/flu/swineflu/variant-cases-us.htm
  12. Sugimura T, et al., Arch Virol 66: 271-274, 1980
  13. Nerome K, et al., J Gen Virol 64(Pt 12): 2611-2620, 1983
  14. Kobayashi M, et al., Emerg Infect Dis 19: 1972-1974, 2013
  15. Kanehara K, et al., Microbiol Immunol 58: 327-341, 2014

 

国立感染症研究所
インフルエンザウイルス研究センター
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