国立感染症研究所

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In-house HIV-1核酸増幅検査法精度管理

(IASR Vol. 41 p179-180: 2020年10月号)

HIV検査は, スクリーニング検査と, スクリーニング検査陽性検体に対して実施される確認検査からなる1)。即日検査に使用されるイムノクロマト法を原理とする診断薬を含め, 現在市販されているほとんどのHIVスクリーニング検査用診断薬は, 抗HIV-1/2抗体に加えHIV-1抗原を検出することができる1)

抗体確認検査用として, ウイルスタンパクに特異的な抗体を検出するウエスタンブロット法を原理とする診断薬が市販されている1)。抗原抗体同時検出診断薬陽性で抗体確認検査が陰性の場合, あるいはイムノクロマト法診断薬で抗原のみ陽性でHIV-1感染急性期が疑われる場合には, 核酸増幅検査法(NAT)を実施する必要があるが1), 現在市販されているHIV-1 NAT診断薬は専用の高価な反応・測定機器が必要なため, 外注あるいはin-house NATで対応している施設もある。外注では高度な精度管理のもとで測定された結果を得ることが期待できるが, 結果報告までに日にちを要する。in-house NATは, 試薬のキット化や機器の進歩に伴い, 導入が容易な方法になってきている一方, 高感度であるがゆえに, 試験方法が標準化されていることと, 精度管理が適切に行われていることが強く求められる。

地方衛生研究所(地衛研)では, 保健所や医療機関から依頼を受けた検体のHIVスクリーニング・確認検査に加え, 即日検査において陽性判定の検体(要確認検査検体)の確認検査が業務の1つとなっている。しかしながら導入およびランニングコストの問題で, 市販のHIV-1 NAT診断薬採用は難しく, in-house NATで対応する施設も多い。

これまで地衛研におけるHIV-1 NATについては統一的な評価は行われていなかった。そこで2018(平成30)~2019(令和元)年度にかけ, 定量値や検出下限の検討に資する目的で, 不活化HIV-1株をHIV陰性血漿にスパイクして作製したHIV-1 NAT用標準物質「18-00」(3.81×106 copies/mL)を配布し, その希釈系列の測定を依頼するとともに, ブラインド検体を配布, 異なる日にちに同じ検体セットを3回測定した結果の提出をお願いした。これらの測定結果から, 各施設におけるin-house NATの精度管理評価を行った。

定性法で参加した3施設の標準物質「18-00」希釈系列測定結果から, 2施設の検出下限は3.81×102 copies/mLあるいはそれ以下であった。これらの施設はブラインド検体の判定結果もすべて一致しており, 非常によく管理された検査を行っていることが確認できた。残る1施設は, 測定間で結果は安定し, ブラインド検体の判定結果もすべて一致していたが, 標準物質希釈列作製のミスに由来すると思われる結果が示されたため, 検出下限の評価は保留とした。

定量法で参加した10施設すべてで, HIV-1陽性検体は特異的な増幅を検出, HIV陰性検体は検出されていなかった。HIV-1 RNAコピー数の定量結果については, 10施設中1施設はすべての測定において市販の診断薬と遜色ない結果が得られ, 別の4施設も測定間誤差が少なく比較的良好な定量値が得られていた。一方, 3施設では測定間の誤差が大きく, 2施設では検量線の傾き, 決定係数に問題がみられ, 試薬・機器・標準プロトコルについて原因を特定, 改善を図る必要があると考えられた。

以上の結果を報告書としてまとめ, 参加各施設にフィードバックした。

地衛研におけるHIV-1 NATの第一義的な目的は, 要確認検査検体の確認検査である。今回の外部精度管理評価ではブラインド検体の誤判定がみられなかったことから, 参加施設のNAT検査室の管理や基本的なPCRの技術に問題は無いと思われた。しかしながら定量法においては, 条件のわずかな変動が結果に大きな影響を及ぼすため, 定量値に問題が散見された。市販HIV-1 RNA定量診断薬の検出下限・定量下限は10から数10copies/mLである。この性能に近づけるため, 血漿(血清)中のウイルスや核酸を濃縮する工夫を行っている施設もみられたが, HIVスクリーニング検査用診断薬のHIV-1抗原検出下限をRNAコピー数で換算すると, 感度が良い製品でも104 copies/mL台であり, 要確認検査検体の確認検査を目的とする場合, 必ずしも市販の診断薬と同等の性能を目指す必要はない。特にNATの場合, 操作の無理な高度化・煩雑化は誤判定を招く可能性がある。2019年7月の衛生微生物技術協議会HIV関連レファレンス会議, および2019年12月に実施した地衛研HIV検査技術研修会において説明し, 技術的な問題, コントロール検体や定量スタンダード整備, 試薬や機器の精度管理を含めたコスト・労力等の事情も踏まえたうえで, 各施設で実施する検査法について検討をお願いした。

検査精度確保のために, 検査施設では以下の3項目の実施が望ましい。

1. 内部精度管理の実施

2. 外部精度管理調査への参加

3. 検査業務従事者への教育訓練

これら3項目への対応として, 引き続き以下の協力を行っている。

1. 各施設におけるHIV-1 NAT検査の精度管理・評価用検体として標準物質「18-00」の配布を継続。

2. 今回の精度管理評価研究に参加いただいた施設の改善状況の確認, 参加いただけなかった施設の精度管理評価のため, 2020(令和2)年度も引き続き外部精度管理評価研究を実施。

3. 技術研修や病原体検出マニュアルを通じて, 要確認検体確認検査用HIV-1 NATについて情報提供を行い, さらに実地訓練用の検体供与を開始。

すでにHIV-1 NATを実施している地衛研の精度管理に協力していくとともに, NAT導入を考えている施設とのコミュニケーションを確立し, 対応できる施設数を増やしていきたい。

謝辞:本研究は, 厚生労働科学研究費「国内の病原体サーベイランスに資する機能的なラボネットワークの強化に関する研究」(研究代表者 宮崎義継)の助成によって行われました。本研究に参加, 検体の測定にご協力いただきました地方衛生研究所の皆様に感謝いたします。

参加施設

新潟県保健環境科学研究所, 神奈川県衛生研究所, 静岡市環境保健研究所, 富山県衛生研究所, 名古屋市衛生研究所, 京都府保健環境研究所, 大阪健康安全基盤研究所, 堺市衛生研究所, 兵庫県立健康科学研究所, 姫路市環境衛生研究所, 福岡県保健環境研究所, 鹿児島県環境保健センター

 

参考文献
  1. 後天性免疫不全症候群(エイズ)/HIV感染症 病原体検出マニュアル
    https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/HIV20191122.pdf
 
 
国立感染症研究所       
エイズ研究センター      
 草川 茂 松岡佐織 立川 愛 俣野哲朗

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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