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2019/20シーズンのインフルエンザウイルスの流行について―沖縄県

(IASR Vol. 41 p194-195: 2020年11月号)

沖縄県における2019/20シーズン(2019年第36週/9月~2020年第35週/8月)は, 2018/19シーズンに発令された夏季の注意報が継続したまま開始し1), 2008/09シーズン以来となる夏季の警報発令に至った2)。また, シーズン中にAH1pdm09亜型のH275Yオセルタミビル耐性株を3株ウイルス分離したことから, その概要を報告する。なお沖縄県ではインフルエンザの県全体の注意報発令基準を定点当たり患者報告数10人以上, 警報発令基準を同30人以上, 警報解除基準は同10人未満と定めている。

患者発生状況

2019/20シーズンにおけるインフルエンザ流行は, 2018/19シーズン第32週(8/5~8/12)に注意報が発令された後も増加を続け1), 2019/20シーズン第36週(9/2~9/8)に定点当たり患者報告数が34.10人に達したことで, 2008/09シーズン以来の夏季の警報発令に至った(1)。その後, 第38週(9/16~9/22)の52.22人をピークに減少し, 第43週(10/21~10/27)には8.69人となり警報解除となったが, 第46週(11/11~11/17)には増加に転じ, 第52週(12/23~12/29)に11.17人となり注意報発令に至った。しかし, 第1週(12/30~1/5)の22.84人をピークに減少し, 第8週(2/17~2/23)には7.76人となり注意報解除となった。冬季に警報発令基準を超えなかったのは, 2016/17シーズン以来であった3)。その後も患者報告数は減少を続け, 第13週(3/24~3/30)以降は0.16~0.92人と, 1.0人を下回ったままシーズンを終えた。

患者の年齢群は, 20歳未満の患者が2019年9月~2020年1月まで患者全体の50%以上を占め, 2020年2月および3月は60%以上を占めた。

病原体検出状況

患者から採取された咽頭ぬぐい液を検査材料とし, リアルタイムRT-PCR法によりインフルエンザウイルスの遺伝子検出およびMDCK細胞によるウイルス分離を実施した。

2019/20シーズンは, 検査を実施した153例中, 133例(86.9%)がPCR陽性であった。遺伝子型は, AH1pdm09亜型108例, AH3亜型7例, B型Victoria系統18例であった。また, PCR陽性133例のうち78例(58.6%)でウイルスが分離された。2018/19シーズン第32週に夏季の注意報発令に至って以降, 流行の主流はAH1pdm09亜型であり, AH3亜型も一部検出されたが, 第49週以降は, AH1pdm09亜型, B型Victoria系統の2種類のウイルスが流行の主流であった()。

抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランスにおいては, 2019/20シーズンにウイルス分離された60例のAH1pdm09亜型について, H275Yオセルタミビル(タミフル)耐性マーカーの有無をAllele-specific RT-PCR法にて検索したところ, 3株が耐性を, 57株が感受性を示し, 耐性率は5%であった。

まとめ

2019/20シーズンは, 2018/19シーズンの注意報発令が継続したまま夏季の警報発令へと至った2)。7週間の警報発令中は, AH1pdm09, AH3亜型の2種類のインフルエンザウイルスが検出され, 流行の主体は20歳未満の若年層であった。2009/10シーズンの流行は, 前シーズンからの警報が継続したまま開始したが, その警報は冬季まで継続した2)。一方で, 2019/20シーズンと同様に冬季に警報が発令されなかった2016/17シーズンは, 夏季に注意報が発令されている3)。夏季の流行が冬季の流行状況にどのように影響するのか, 流行株や主要な患者年齢群など, 詳細な検討が必要と考えられた。

2019/20シーズンに検出された3株のオセルタミビル耐性株のうち, 2株の患者は医療従事者でオセルタミビルの予防投薬を受けていた。そのうち1株については, 国立感染症研究所に依頼した抗インフルエンザ薬剤感受性試験の結果, ペラミビル(ラピアクタ)に対しても耐性であった。残り1株の患者は4歳の男児で, 東京への家族旅行の2~3日後に発症した。本症例はオセルタミビルによる治療および予防投薬歴はなく, 家族に医療従事者はいなかった。また, 本症例が発症した後に同居家族が発症しインフルエンザと診断されているが, 患者家族は定点医療機関を受診しておらず, 本所にて検査は実施していないため耐性株が伝播したかは不明である。インフルエンザは病原体定点の対象疾病であるが, 耐性株が検出された地域については, 地域での流行状況を把握するために適時, 定点医療機関の採取検体数の拡充等の追加調査が必要と考えられた。

本県においては, ほぼ通年で患者報告数が1.0人/定点以上となるが, 2019/20シーズンは第13週以降, 1.0人/定点を下回ったままシーズンを終えた。第13週以降, インフルエンザ疑いの患者検体の搬入もなかったことから, 当該期間のインフルエンザ流行の実態は不明な点が多い。2019/20シーズン中に世界的な新型コロナウイルス感染症の流行が発生し, その流行に対する感染予防策等がインフルエンザの発生動向に影響した可能性が考えられる。インフルエンザが流行する冬季を迎えるにあたって, その発生動向についてはより注視する必要がある。

 

参考文献
 
 
沖縄県衛生環境研究所       
 眞榮城徳之 仁平 稔 久場由真仁 大山み乃り 柿田徹也 久手堅剛
 喜屋武向子           
沖縄県感染症情報センター     
 宮城綾乃 山内美幸

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan