
2019年度感染症流行予測調査におけるインフルエンザ予防接種状況および抗体保有状況
(IASR Vol. 41 p201-204: 2020年11月号)
はじめに
感染症流行予測調査事業は厚生労働省健康局結核感染症課が実施主体となり, 毎年度健康局長通知に基づいて全国の都道府県と国立感染症研究所が協力して実施している予防接種法に基づいた事業である1)。本稿では, 本調査におけるインフルエンザ予防接種状況と抗体保有状況の2019年度調査結果について報告する。
方 法
2019年度のインフルエンザ感受性調査は北海道, 山形県, 福島県, 茨城県, 栃木県, 群馬県, 千葉県, 東京都, 神奈川県, 新潟県, 富山県, 福井県, 山梨県, 長野県, 静岡県, 愛知県, 三重県, 京都府, 愛媛県, 高知県, 佐賀県の21都道府県において実施された。2019年7~9月(インフルエンザ流行シーズン前かつワクチン接種前)の期間に採取された血清(予定対象者数:各都道府県198名, 計4,158名)を用いて, 各都道府県衛生研究所において赤血球凝集抑制試験(HI法)により測定が行われた。2019年度の調査株は下記に示した2019/20シーズンのインフルエンザワクチン株で, 各インフルエンザウイルスの卵増殖株由来のHA抗原を測定抗原として用いた。
予防接種歴調査は上記の都道府県に大阪府, 山口県を加えた23都道府県において, 前シーズン(2018/19シーズン)における接種状況を聴取した。
・A/Brisbane/02/2018(IVR-190)[A(H1N1)pdm09亜型]
・A/Kansas/14/2017(X-327)[A(H3N2)亜型]
・B/Phuket/3073/2013[B型(山形系統)]
・B/Maryland/15/2016[B型(Victoria系統)]
結 果
Ⅰ. 2018/19シーズンにおけるインフルエンザ予防接種状況(図1, 上段:接種歴不明者を含まない, 下段:接種歴不明者を含む)
6,708名の予防接種歴が得られた。ほとんどの年齢群で接種歴不明者が10-20%程度の割合で存在した。接種歴1回以上接種者の割合は全体で38%, 1歳未満児で0.7%(140名中1名), 1歳児で30%(247名中73名), 2~12歳では48%(各年齢群40-54%), 13歳以上では37%(各年齢群22-41%)であった。2回接種が推奨されている13歳未満の年齢群では接種者の73%が2回接種者であった。
Ⅱ. インフルエンザ抗体保有状況(図2)
5,446名についてHI抗体価の測定が実施された。対象者数はそれぞれ0~4歳573名, 5~9歳442名, 10~14歳555名, 15~19歳390名, 20~24歳366名, 25~29歳503名, 30~34歳456名, 35~39歳390名, 40~44歳284名, 45~49歳415名, 50~54歳362名, 55~59歳302名, 60~64歳203名, 65~69歳110名, 70歳以上95名であった。本稿では感染リスクを50%に抑える目安と考えられているHI抗体価1:40以上の抗体保有割合について示す。B型(山形系統), B型(Victoria系統)は2018年度と同一調査株であり, 図2中に昨年度の結果も併せて示した。
A/H1pdm09亜型に対する抗体保有割合は10~14歳群で最も高く(60%), 5~24歳の各年齢群で55%以上(57-60%)であった。一方で, 0~4歳群, および40歳以上の各年齢群では30%未満で, 特に65歳以上の年齢群は20%未満と低かった。
AH3亜型に対する抗体保有割合は15~19歳で最も高く(53%), 5~24歳の各年齢群は40%以上(40-53%)であったが, 70歳以上群を除くその他の各年齢群では30%未満で, 60~64歳群で最も低かった(21%)。
B型(山形系統)に対する抗体保有割合は25~29歳群(70%)で最も高く, 15~39歳の各年齢群で60%以上であった。一方で, 0~4歳群および65歳以上の各年齢群では30%未満であった(19-25%)。2018年度と比較すると多くの年齢群でほぼ同等であったが, 65歳以上の年齢群ではおよそ20ポイント低下していた。
B型(Victoria系統)に対する抗体保有割合は40~49歳(51-52%)で最も高く, 35~59歳で概ね40-50%, 10~34歳群で30-40%前後で, 0~9歳および60歳以上の各年齢群では20%前後であった。2018年度に比べ0~29歳では多くが5-9ポイント抗体保有割合が増加した(10~14歳群は1ポイント増)。一方, 70歳以上群では10ポイント低下した。
まとめと考察
インフルエンザワクチンは2001年から65歳以上の高齢者等*を対象に定期接種(毎シーズン1回)が実施されている。また, 生後6か月から任意接種として接種が可能で, 13歳未満の小児においては2~4週間の間隔をおいて毎シーズン2回の接種が推奨されている。
接種歴調査の結果では, 1歳未満児での接種率は低く, 2~12歳の接種割合が他の年齢群に比べて高く, かつ2回接種の割合が高かった。これは過去の各シーズンと同様の傾向であった。一方, 13歳以上の1回以上接種割合は37%であり, 65歳以上を含めて過去2シーズンに比べやや低かった(2017年45%, 2018年44%2))。
インフルエンザ抗体保有割合は, それぞれの亜型・系統でピークの年齢層が異なり, A(H1N1)pdm09亜型, A(H3N2)亜型では5~24歳, B型(山形系統)では15~39歳, B型(Victoria系統)では40~49歳の抗体保有率が他の年齢層と比較して高い傾向がみられた。一方で, 0~4歳群および65歳以上の年齢群における抗体保有率はいずれの亜型・系統でも20%前後と低かった。
B型(山形系統)は2015年度以降, B型(Victoria系統)は2018年度から同一調査株を用いて測定された。B型(山形系統)は2015~2018年度まで経年的に全体の抗体保有割合が増加していたが3), 2019年度は多くの年齢で2018年度とほぼ同等であった。一方, B型(Victoria系統)は小児から若年成人において抗体保有割合がやや増加(10ポイント以内)した。ただし, どちらの系統もそれぞれ65歳以上, 70歳以上の年齢群で2018年度と比較して抗体保有割合が10-21ポイント低下していた。なお, インフルエンザ病原体サーベイランスにおいて2018/19シーズンに分離・検出された亜型別報告数は, 多い順にAH3亜型(4,734件, 56%), AH1pdm09亜型(3,081件, 36%), B型(Victoria系統)(605件, 7%)であった4)。
謝辞:本調査にご協力いただいた都道府県, 都道府県衛生研究所, 保健所, 医療機関等, 関係者の皆様に深謝いたします。
*①65歳以上の者,および②60歳以上65歳未満の者であって, 心臓, 腎臓または呼吸器の機能に自己の身辺の日常請託活動が極度に制限される程度の障害を有する者およびヒト免疫不全ウイルスにより免疫の機能に日常生活がほとんど不可能な程度の障害を有する者
参考文献
- 厚生労働省健康局結核感染症課, 令和元年度感染症流行予測調査実施要領
https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/yosoku/AnnReport/2019-99.pdf - 国立感染症研究所感染症疫学センター, 感染症流行予測調査グラフ, 予防接種状況
https://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/667-yosoku-graph.html - 国立感染症研究所感染症疫学センター, 年齢群別のインフルエンザ抗体保有状況の年度比較
https://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/8798-flu-yosoku-year2019.html - 国立感染症研究所, 厚生労働省結核感染症課, 今冬のインフルエンザについて(2019/20シーズン)
https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoco1920.pdf