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鳥・ブタインフルエンザウイルスのヒト感染事例の状況について

(IASR Vol. 41 p206-207: 2020年11月号)

鳥インフルエンザウイルス

A(H5)亜型ウイルス:高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)A(H5N1)ウイルスのヒト感染は, 2003年以降, 中東, アフリカ, アジアなど17カ国で死亡455例を含む861例が確認されている。2019年3月にネパールで確認されて以降, ヒト感染は確認されていない(2020年7月10日現在)1)。家禽では, 2019年10月以降, HPAI A(H5N1)ウイルスが中国, ベトナム, インド, ナイジェリア, ネパールで流行している(2020年9月30日現在)2)

近年は, NA亜型がN2, N5, N6, N8のHPAI A(H5)亜型ウイルスも世界各地の家禽や野鳥で蔓延し, 2019年10月以降, 中国, ベトナム, ナイジェリア, フィリピンでA(H5N6)ウイルス, ブルガリア, チェコ, スロバキア, ドイツ, ハンガリー, ポーランド, ルーマニア, ロシア, ナイジェリア, 南アフリカ, イスラエル, イラク, サウジアラビアでA(H5N8)ウイルス, 台湾でA(H5N2)ならびにA(H5N5)ウイルスが家禽で流行している2)。これらのウイルスでヒト感染の報告があるのはA(H5N6)ウイルスだけで, 中国では2014年以降2019年8月までに24例のヒト感染が確認された。それ以降のヒト感染は確認されていない(2020年9月30日現在)3,4)。日本では野鳥や家禽からのHPAI A(H5N8)ウイルス検出例がおよそ2年半ぶりとなる2020年10月以降に相次いで報告されている(2020年11月10日現在)。今後, 国内での感染拡大に警戒が必要である。

A(H7)亜型ウイルス:2013年3月に低病原性鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスの初のヒト感染が中国で報告され, 第5波(2016年10月~2017年9月)以降は, 家禽に対して高病原性を示すように変異したHPAI A(H7N9)ウイルスのヒト感染も報告されるようになったが, 2019年3月の中国内モンゴル自治区での確認以降, ヒト感染は確認されていない3-5)。2013年以降のヒト感染は1,568例, 死亡例は616例である(2020年10月12日現在)5)。他のHPAI A(H7)亜型ウイルスについては, 2019年10月以降, 米国とメキシコでA(H7N3)ウイルス, オーストラリアでA(H7N7)ウイルスが家禽から検出されたが, ヒト感染は確認されていない2)

A(H9)亜型ウイルス:鳥インフルエンザA(H9N2)ウイルスのヒト感染が中国, エジプト, バングラデシュ, インド, セネガル, オマーンで確認され, 1998年以降のヒト感染は57例となった4)。2019年10月以降, 中国では8例(直近では2020年8月に広東省で1例)のヒト感染が確認され, 2013年12月以降の中国でのヒト感染は33例となった3,4,6)。いずれも鳥との接触歴があり, 症状は軽症で死亡例の報告はない。ウイルス遺伝子配列が確定できた直近の4例は, 分子系統解析からY280/G9系統に分類された4)。A(H9N2)ウイルスはアフリカ, アジア, 中東の家禽の中で定着し, ウイルス感染した家禽との接触によりヒトに感染するが, 接触歴がない感染例も散見される。

また上記以外に, 中国湖南省で2019年1~2月に16人(死亡4例を含め11例が重症)からA(H9N2)ウイルスを検出したとする論文が2020年7月に発表された7)。現在, 中国当局による情報収集と詳細解析が行われている4)

世界各地の家禽や野鳥の間で鳥インフルエンザが蔓延し, 日本の周辺国では散発的なヒト感染も報告されている。ウイルスの拡がりとともにヒト感染リスクも高まるため, 引き続きこのウイルスを注視していく必要がある。

ブタインフルエンザウイルス

ブタは鳥・ヒトインフルエンザウイルスの両方に感染するため, 交雑宿主となって遺伝子再集合した新たなウイルスを排出する可能性がある。ブタの間では様々な遺伝的背景を持つA(H1N1), A(H1N2), A(H3N2)ウイルスが循環し, 散発的なヒト感染も確認されている8)

北米大陸では1990年代後半から, ブタの間で循環していたclassical-swine系統のA(H1N1)ウイルスが鳥・ヒトインフルエンザウイルスと遺伝子再集合したtriple reassortantウイルスと総称されるA(H1N1), A(H1N2), A(H3N2)ウイルスが循環していた9)。2009年にパンデミックを引き起こしたA(H1N1)pdm09ウイルスは, triple reassortantウイルスとEurasian avian-like swine系統のA(H1N1)ウイルスとの遺伝子再集合により出現したウイルスである10)。その後, ヒト季節性A(H3N2)ウイルスとの間でも遺伝子再集合が起き8), ブタインフルエンザウイルスの遺伝的背景は複雑化している。米国では農業フェアでのブタとの接触等により, 2010年9月以降, A(H3N2)v, A(H1N1)v, A(H1N2)vウイルス〔ヒト感染したブタインフルエンザウイルスは“variant(v)virus”と総称される〕のヒト感染がそれぞれ431, 10, 10例報告されている〔直近の2019/20シーズンは, A(H3N2)vウイルスの1例〕4,11)。また北米大陸以外でも2019年10月以降, 中国とドイツで1例ずつのA(H1N1)vウイルス, ブラジルで1例のA(H1N2)vウイルスのヒト感染が報告されている3,4)

日本では1970年代後半からclassical-swine系統のA(H1N1)ウイルスがブタの間で循環しはじめ12), その後ヒトA(H3N2)ウイルスと遺伝子再集合したA(H1N2)ウイルスが出現し13), 2009年以降はA(H1N1)pdm09ウイルスとの遺伝子再集合も確認されている14,15)。日本でヒト感染の報告はまだないが, 引き続きブタインフルエンザウイルスの発生状況を注視していく必要がある。

 

参考文献
  1. WHO, Cumulative number of confirmed human cases of avian influenza A(H5N1) reported to WHO
    http://www.who.int/influenza/human_animal_interface/H5N1_cumulative_table_archives/en/
  2. OIE, Animal health in the World, Avian Influenza Portal
    http://www.oie.int/animal-health-in-the-world/update-on-avian-influenza/2020/
  3. WHO, Monthly Risk Assessment Summary
    http://www.who.int/influenza/human_animal_interface/HAI_Risk_Assessment/en/
  4. WHO, Antigenic and genetic characteristics of zoonotic influenza viruses and candidate vaccine viruses developed for potential use in human vaccines
    https://www.who.int/influenza/vaccines/virus/characteristics_virus_vaccines/en/
  5. FAO, H7N9 situation update
    http://www.fao.org/ag/againfo/programmes/en/empres/H7N9/situation_update.html
  6. WHO Western Pacific Region, Avian Influenza Weekly Update
    https://iris.wpro.who.int/handle/10665.1/14460
  7. Dong X, et al., Virol Sin, doi: 10.1007/s12250-020-00248-9, 2020
  8. Ma W, Virus Res, doi: 10.1016/j.virusres.2020.198118, 2020
  9. Lorusso A, et al., Curr Top Microbiol Immunol 370: 113-132, 2013
  10. Garten RJ, et al., Science 325 (5937): 197-201, 2009
  11. CDC, FluView Interactive
    https://www.cdc.gov/flu/weekly/fluviewinteractive.htm
  12. Sugimura T, et al., Arch Virol 66: 271-274, 1980
  13. Nerome K, et al., J Gen Virol 64 (Pt 12): 2611-2620, 1983
  14. Kobayashi M, et al., Emerg Infect Dis 19 (12): 1972-1974, 2013
  15. Kanehara K, et al., Microbiol Immunol 58 (6): 327-341, 2014
 
 
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