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2020シーズンの南半球温帯地方における冬のインフルエンザ

(IASR Vol. 41 p208-209: 2020年11月号)

北半球における2019/20シーズンのインフルエンザの流行が拡がり始めた2019年12月, 中華人民共和国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は, 短期間で世界中に拡がり, 世界保健機関(WHO)は2020年3月11日にCOVID-19のパンデミックを宣言した。COVID-19の世界中への拡がりとは反対に, 北半球におけるインフルエンザの流行は減少した。日本も例外ではなく, 2019/20シーズンの日本におけるインフルエンザの流行は本特集に書かれている通りである。本項では, 北半球の日本と季節が反対である南半球の温帯地方における, 2020シーズンを含めたインフルエンザの流行について概説する。

インフルエンザの蔓延を監視することを目的とした, WHOを中心とした国際的なインフルエンザ・サーベイランスネットワーク〔Global Influenza Surveillance and Response System (GISRS)〕には現在122の国が加盟しており, その多くは各国のインフルエンザ陽性・陰性数の報告を行っている。具体的には, WHOのホームページのデータリソース(https://apps.who.int/flumart/Default?ReportNo=12)において確認することができる。南半球のインフルエンザシーズンは, 北半球とは季節がほぼ反対のため, 例年おおよそ3~5月(第13~20週)から流行が始まり, 6月(第23~27週)にピークを迎え, その後減少し収束するというパターンが毎年繰り返される。例として, 南半球の温帯地方4カ国(オーストラリア, 南アフリカ, アルゼンチン, チリ)における2018~2020シーズンのインフルエンザ陽性・陰性数について, に示した。2018および2019シーズンでは, 調べられた検体数は国によって違いがあるものの, 例年のインフルエンザの流行のパターンであった。しかし, 2020シーズンについては, 例年のように流行の立ち上がりはみられたものの, その後の流行はみられなかった。インフルエンザの陽性数の減少は, COVID-19に対する検査に労力が割かれ, インフルエンザの検査数が減少したためという話しがあるが, 少なくともこの4カ国においてアルゼンチン以外では, 例年より検査数が極端に少ない訳ではなかった。また流行の立ち上がりの時期は, 北半球におけるインフルエンザの流行が急速に減少した頃と重なっており, それは, 世界的にCOVID-19に対する対策が取られ始めた頃である。実際この4カ国は, 国全体あるいは大都市においてロックダウンを実施しており, その中で学校の休校措置も執られていた。インフルエンザに罹る割合が多いのは子供であり, 子供が通う学校の閉鎖はインフルエンザの流行拡大の機会を奪うことになったため, インフルエンザの流行の減少の要因の1つになったと考えられる。

北半球では2020年9月より2020/21シーズンに入っている。例年この時期の北半球のインフルエンザ陽性数はもともと少ないが, おそらく世界的なCOVID-19に対する対策(マスク着用, 密を避ける, ソーシャルディスタンスなど)のためと思われるが, 2020/21シーズンのこの時期は, 例年よりも極端に少ない1)。直前(2020シーズン)の南半球のインフルエンザの流行状況を考えると, 2020/21シーズンの日本を含めた北半球の流行も大変小さいものになるのではないかと推察されるが, GISRSを通して世界の流行状況を捉えながら, 国内の流行状況を注視していく必要がある。

 

参考文献
 
 
国立感染症研究所           
インフルエンザウイルス研究センター  
第一室・WHOインフルエンザ協力センター
 渡邉真治 長谷川秀樹

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan