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HHV-6と薬剤性過敏症症候群

(IASR Vol.41 p218-219: 2020年12月号)

はじめに

 薬疹は投与された薬剤によるアレルギー反応と考えられてきたが, その発症にウイルス感染が影響をおよぼしている可能性を示すデータが集積しつつある。古くは, EBウイルスによる伝染性単核症にアンピシリンを投与すると, しばしば薬疹が出現することが知られており, この現象は「アンピシリン疹」として有名である。近年, 多臓器障害を伴う重症薬疹の1つである薬剤性過敏症症候群(drug-induced hypersensitivity syndrome: DIHS)において, ヒトヘルペスウイルス6(human herpesvirus 6: HHV-6)の再活性化がみられることが明らかとなってきた1,2)。ここではDIHSに焦点をあてて, HHV-6の再活性化機序ならびにHHV-6の再活性化と病態とのかかわりについて解説を試みる。

DIHSとは

 DIHSとは, 抗けいれん薬などの比較的限られた薬剤により引き起こされ, 発熱や多臓器障害を伴う重症型薬疹の1つである()。薬剤投与開始から3週間以上経って遅発性に発症し, 皮疹は紅斑丘疹型(時に多形紅斑型)に始まって紅皮症となることが多い。皮疹だけでなく, リンパ節腫脹, 発熱, 異型リンパ球の出現, 好酸球増多, 肝障害, 腎障害などの症状を認め, 原因薬剤中止後も, しばしば皮疹や臓器障害が遷延する。近年, 発症後2~4週後にHHV-6の再活性化を生じることが判明し, 薬剤アレルギーとウイルス感染症の複合した新たな病態として認識されている(図11,2)

DIHSの病態におけるHHV-6の役割

 DIHSの経過中にみられるHHV-6の再活性化が, DIHSの病態に実際にどのようにかかわっているのかについては, いまだ不明な点が多いが, いくつかの報告がみられる。

 Tohyamaらは, DIHSの原因薬剤により全身症状を伴う薬疹を発症した100症例について, HHV-6再活性化群(62症例)とHHV-6非再活性化群(38症例)に分けて比較検討した3)。その結果, 再活性化群では, 発熱期間が有意に延長し, リンパ節腫脹, 白血球増多, 異型リンパ球出現, 重篤な肝機能障害が高頻度にみられることが明らかになった。さらに, 腎機能障害を伴った10症例, 生命予後不良であった5症例は, 全例がHHV-6再活性化群に属していた。これらの結果は, HHV-6の再活性化がDIHSの臨床症状の遅延化, 重症化に密接に関連することを示している。また, DIHSの経過中に腎不全を発症した症例についての検討で, 尿細管上皮へのHHV-6の感染が明らかとなり, DIHSにおける腎障害にHHV-6が直接関与している可能性が示されている4)

DIHSにおけるHHV-6再活性化機序

 1)HHV-6再活性化とTARC

 DIHSでは, HHV-6の再活性化に先行してTh2型ケモカインのTARCが急性期の血清中で著しく高値となることが知られている5,6)。そこで臨床的にDIHSが疑われた41症例について, HHV-6再活性化を伴った群(30症例)とHHV-6再活性化を伴わなかった群(11症例)に分けて, 急性期のTARC値を比較したところ, HHV-6再活性化群においてTARCが有意に高いことが判明した(図26)。この結果はTARCの上昇とHHV-6再活性化との間に何らかの関連がある可能性を示唆している。現時点では推測の域を出ないが, TARCの上昇によりTh2細胞やTregが誘導され, その結果生じた免疫変調がHHV-6再活性化を誘発する可能性や, HHV-6遺伝子がヒトのケモカインレセプターホモログをコードしていることから7), ウイルス由来のケモカインレセプターにTARCが作用して再活性化の引き金となっている可能性などが考えられている。

 2)DIHSにおけるHHV-6レセプターの発現

 生体内ではHHV-6は, 単球や骨髄前駆細胞などに潜伏感染し, 再活性化に伴いCD4+T細胞に感染して増殖することが知られている。近年, Moriらのグループは, CD4+T細胞上のCD134がHHV-6の細胞内侵入を媒介する受容体であることを明らかにした8)。そこで, DIHS患者のCD4+T細胞におけるCD134の発現動態を経時的に解析した結果, DIHS急性期にCD134の発現が有意に亢進することが判明した。このCD134の発現亢進がDIHS急性期におけるHHV-6の生体内での感染拡大にかかわっているものと考えられている。

 おわりに

 1990年代にHHV-6の再活性化を伴う重症薬疹としてDIHSという新しい疾患概念が提唱されたことは記憶に新しい。この発見がブレイクスルーとなり, 古くから推測されていた「薬疹とヘルペスウイルスとのかかわり」が改めてクローズアップされるようになった。しかし, DIHSにおけるHHV-6の再活性化機構や, HHV-6がDIHSの病態形成に果たす役割についてはいまだ不明な点が多く, 今後解明すべき課題である。

 

参考文献
  1. Suzuki Y, et al., Arch Dermatol 134: 1108-1112, 1998
  2. Tohyama M, et al., Arch Dermatol 134: 1113-1117, 1998
  3. Tohyama M, et al., Br J Dermatol 157: 934-940, 2007
  4. Miyashita K, et al., Acta Derm Venereol 96: 114-115, 2016
  5. Ogawa K, et al., J Dermatol Sci 69: 38-43, 2013
  6. Ogawa K, et al., Br J Dermatol 171: 425-427, 2014
  7. Lusso P, J Clin Virol 37 Suppl 1: S4-10, 2006
  8. Tang H, et al., Proc Natl Acad Sci USA 110: 9096-9099, 2013

 
奈良県立医科大学皮膚科
 浅田秀夫 

 

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