国立感染症研究所

IASR-logo

突発性発疹のウイルス学的な検査法

(IASR Vol.41 p214-215: 2020年12月号)

 突発性発疹の診断は, 基本的に罹患年齢およびその特徴的な臨床症状のみで行われる。感染症法に基づく届出基準にも, ウイルス学的な検査診断は必要とされていない。脳炎・脳症等の重症合併症を来した場合や, 他疾患との鑑別が必要となる場合(本号3ページ)にウイルス学的な診断を求められることがある。突発性発疹の病原ウイルスであるHHV-6BおよびHHV-7のウイルス学的検査法としては, 他のウイルス疾患と同様にウイルス分離, 血清診断, PCR法によるウイルスDNAの検出などがある。コマーシャルラボにおいて, 間接蛍光抗体法(indirect immunofluorescence assay: IFA)による抗HHV-6B IgGおよびIgMの検出, 定性および定量PCRによるHHV-6BおよびHHV-7 DNAの検出が可能であるが, 現在のところいずれも健康保険適応ではない。本項では, HHV-6BおよびHHV-7のウイルス学的検査法に関して述べる。なお詳細な方法に関しては, 国立感染症研究所が出している, 病原体検査マニュアル1)が参考となる。

ウイルスDNA検出

 HHV-6BおよびHHV-7 DNAの定性的および定量的(real-time PCR)検出は, 簡便, 迅速であり, 現在広く用いられている方法である2,3)。HHV-6AおよびHHV-6Bの区別も可能である4)。これまで多くのラボで, 様々な方法で行われているため, PCRによる検査結果のstandardizationが必要であり, 2017年に英国National Institute for Biological Standards and Control(NIBSC)によりHHV-6Bのinternational standardが制定された。また, 病院検査室レベルでのウイルスDNA検出を可能にする方法として, loop-mediated isothermal amplification(LAMP)法を用いたHHV-6B DNAの検出法も報告されている5)。突発性発疹の診断において, HHV-6BおよびHHV-7は, 末梢血単核球(HHV-6B:単球や骨髄前駆細胞, HHV-7:CD4+T細胞)や唾液腺に潜伏および持続感染するため, 一般的には, 潜状および持続感染したウイルスが存在しない血漿や髄液などからのDNA検出が求められる。脳炎・脳症と診断する場合には, 髄液中にウイルスDNAが検出されることが必要である。ただし, 初感染時(突発性発疹)における脳炎・脳症では, 髄液中のウイルスDNAの検出率は低く, その量も極めて少ないことが報告されている6)。また, 近年, HHV-6AおよびHHV-6Bゲノムが宿主染色体に組み込まれ生殖細胞系を介して垂直伝播するchromosomally integrated HHV-6(ciHHV-6)が注目されており(本号10ページ), 日本においては, 約0.2および0.6%の頻度で認められると報告されている7,8)。ciHHV-6保有者は, 血液中あるいは髄液中からも高コピー(1×105コピー/mL以上)のDNAが検出され9), HHV-6B感染の偽陽性の原因となるため, 診断には注意が必要である。ciHHV-6保有者では, 血液や髄液以外からもDNAが検出されることから, ciHHV-6が疑われた際は, 毛根等を用いてHHV-6B DNAが存在するかを調べる必要がある。または, RT-PCRを行うことにより, 活性化したウイルスと区別することができる10)

血清学的検査

 血清学的診断には, IFA, 酵素結合免疫吸着測定法(ELISA), 中和活性測定およびイムノブロット等があり, 中でもIFA法が一般的に用いられる。HHV-6Bに関してはIFAによるIgGおよびIgM抗体の測定がコマーシャルラボにて可能である。IFAは, HHV-6BまたはHHV-7感染細胞をスライドガラスに固定したものを用いる。診断は, 急性期のウイルス特異的IgM抗体の存在, または急性期と回復期のペア血清で抗体陽転あるいは抗体価4倍以上の有意上昇を証明することが必要となる。急性期は少なくとも発症後1週間以内, 回復期は少なくとも発症後10日以上経過してからの検体でないと診断を誤る場合がある。また, HHV-7抗体との交差反応があるので, 結果の解釈には留意が必要である。HHV-6AとHHV-6B感染の判別はできない。ELISAは他の方法より検出感度が高く, 感染細胞の粗溶解物または細胞培養上清から得られた精製ウイルスのいずれかを抗原として使用するいくつかのELISA法が報告11,12), および商品化されているが, それらは特異性の問題が繰り返し提起されている。中和活性測定法も確立されているが, 研究ベースでの使用のみとなっている13)。特異性はイムノブロット法が高く, HHV-6の発現タンパク質を用いて, HHV-6AとHHV-6Bの特異的抗体を検出する系の構築も試みられている14)

ウイルス分離

 ウイルス分離は, 通常患児の末梢血単核球(PBMC)を検体とし, IL-2やphytohemagglutininなどのリンパ球を活性化する試薬を加えて, 単独培養または臍帯血リンパ球を用いた共培養により行う15)。HHV-7は唾液腺からの分離も可能である16)。ウイルス分離法は, 手技的にやや煩雑で, 分離までに7~14日間を要すため, 迅速性に欠ける。また分離を行える施設も限られているため, 日常的な診断に用いることは難しい。発熱期に検査が行われれば90%以上分離可能であるが, 発疹期に至ると分離率は40%程度に下降し, 発疹が消失するとほぼ分離されてこない17,18)。また, 潜伏感染しているウイルスにも留意する必要がある。HHV-6Bの糖タンパク質に対する特異的抗体を用いて, PBMCでのHHV-6B抗原を定量的に検出することにより, ヒトサイトメガロウイルスのアンチゲネミア法のように, HHV-6Bの活動性感染の指標となりうる定量的HHV-6B抗原血症検出系の構築も試みられている19)。 


参考文献
  1. 国立感染症研究所, 病原体検査マニュアル 突発性発疹, 平成27(2015)年8月3日
  2. Fernandez C, et al., J Virol Methods 106(1): 11-16, 2002
  3. Caserta MT, et al., J Clin Virol 48: 55-57, 2010
  4. Boutolleau D, et al., J Clin Virol 35(3): 257-263, 2006
  5. Ihira M, et al., J Clin Microbiol 42: 140-145, 2004
  6. Kawamura Y, et al., J Clin Virol 51(1): 12-19, 2011
  7. Tanaka-Taya K, et al., J Med Virol 73(3): 465-473, 2004
  8. Miura H, et al., J Med Virol 90(10): 1636-1642, 2018
  9. Clark DA, et al., J Infect Dis 193: 912-916, 2006
  10. Yoshikawa T, et al., J Med Virol 70: 267-272, 2003
  11. Nielsen L, et al., J Clin Virol 25: 145-154, 2002
  12. Parker A C, et al., J Virol Methods 41(3): 265-275, 1993
  13. Tsukazaki T, et al., J Virol Methods 73: 141-149, 1998
  14. Higashimoto, et al., J Clin Microbiol 50(4): 1245-1251, 2012
  15. Asano Y, et al., J Pediatr 114(4 Pt1): 535-539, 1989
  16. Ihira M, et al., J Infect Dis 188: 1352-1354, 2003
  17. Yamanishi K, et al., Lancet 1: 1065-1067, 1988
  18. Chua KB, et al., Med J Malaysia 53: 296-301, 1998
  19. Loginov R, et al., Eur J Clin Microbiol Infect Dis 29(7): 881-886, 2010

 
国立感染症研究所ウイルス第一部
 山田壮一 福士秀悦 西條政幸

 

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version