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突発性発疹 2000~2020年

(IASR Vol.41 p211-212: 2020年12月号)

突発性発疹(Exanthema Subitum: ES)は, 乳幼児期に3日間前後の発熱および解熱とともに出現する発疹を特徴とする, 一般的に予後良好な発熱発疹性疾患である。急性期には軟便/下痢, 大泉門の膨隆, 眼瞼浮腫, リンパ節腫脹などを認める。病初期に永山斑(口蓋垂の両側に出現する斑状発赤)を認めることもある。

ESの原因は長らく不明であったが, 1988年に, 初めてESがヒトヘルペスウイルス6(human herpesvirus 6:HHV-6)によることが明らかにされた。その後, 1994年には, ヒトヘルペスウイルス7(HHV-7)もESの原因となることが報告された。ESは感染症法に基づく感染症発生動向調査(NESID)では5類感染症定点把握疾患で, 全国約3,000カ所の小児科定点から毎週, 年齢群別に患者数が報告される(届出基準:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-22.html)。小児科定点報告情報を基に, ESの流行状況をまとめた。病原微生物検出情報(IASR)の特集にESを取り上げるのは初めてである。

感染症発生動向調査:ESの報告数は, 0歳児人口の減少とともに, 年々減少している(図1)。2000年には年間126,785人が小児科定点より報告されていたが, 2019年には64,519人(暫定値)となった。また, 年齢分布に変化が認められ, 2000年には77.1%を占めていた1歳未満の割合が年々減少し, 2020年には31.3%になった(図2)。

ESの報告数に明らかな特徴的流行性は認められないものの, 冬期に比べると夏期にやや多い(https://www.niid.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1651-08subit.html)。ESの報告は特徴的な臨床症状に基づいて行われるため, 病原体の検索が行われていない例が多い。夏季にESの報告数が増加するのは, HHV-6, HHV-7以外によるES様の発熱発疹性症状を呈した患者, 例えばエンテロウイルス感染症患者等, が含まれている可能性が考えられる。なお, ESは年ごとの報告数の変動が小さいことから, 小児科定点報告が安定的に運用されていることを示す指標とみなされる。2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行下において, 他の小児科定点把握疾患の報告は減少したが, ESは一定の報告があり(https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/idwr/IDWR2020/idwr2020-44.pdf), 感染症発生動向調査の精度が一定程度維持されていたことを示唆する。

HHV-6およびHHV-7:HHV-6は従来HHV-6AとHHV-6Bの2種類の亜種(variant)に分類されてきたが, 2012年の国際ウイルス分類委員会において, それぞれ異なる種として再分類された。HHV-6A, HHV-6B, HHV-7はいずれもヘルペスウイルス科βヘルペスウイルス亜科に分類され, これらのウイルスがヒトに感染すると生涯にわたって体内に潜伏する。HHV-6Bに感染する月齢は, HHV-7に感染する月齢より一般に若いことが知られている。乳幼児が2回ESを発症した場合, 2回目のESはHHV-7によることが多い。HHV-6BおよびHHV-7がESの原因であることが報告されている一方で, HHV-6Aの疾患との関連については不明な点が多い(本号4ページ)。HHV-6BおよびHHV-7は主に唾液を介して感染伝播すると考えられている。HHV-6Bは, ウイルス粒子表面に発現するglycoprotein H(gH)/gL/gQ1/gQ2複合体と呼ばれる膜タンパク質と活性化T細胞の表面に発現するCD134(OX40)の結合を介してT細胞に感染する(本号6ページ)。また, 一部の人ではHHV-6AあるいはHHV-6Bはヒト染色体に挿入されていることがあり(chromosomally integrated HHV-6:ciHHV-6), 親から子に顕性遺伝する(本号10ページ)。HHV-6に関連する疾患として, 多臓器障害を伴う重症薬疹の1つである薬剤性過敏症症候群(DIHS)がある。DIHSでは発症2~3週間後にHHV-6が再活性化されていることがある(本号8ページ)。また, 造血幹細胞移植患者では, 潜伏感染しているHHV-6Bが再活性化して脳炎を発症することがあると報告されている(本号3ページ)。

病原体検査:ESは一般的に予後良好な疾患であり, HHV-6BやHHV-7のウイルス遺伝子増幅検査や抗体検査は健康保険適応となっていない。一度HHV-6BやHHV-7に感染した者の唾液中にはウイルスが持続的に排出されるため, 唾液や咽頭スワブからこれらのウイルス遺伝子が検出されても, それをもってESと診断することはできない。ウイルス学的にHHV-6BやHHV-7によるESと診断するためには, 末梢血単核球からのウイルス分離, 細胞成分を含まない血漿/血清成分からのウイルス遺伝子の検出, 急性期と回復期のペア血清でHHV-6BあるいはHHV-7に対する抗体価の有意上昇のいずれかを確認する必要がある。

臨床的にESと疑われる患者について, 一部の地方衛生研究所(地衛研)ではウイルス学的な検査が行われている(本号5ページ)。地衛研から病原微生物検出情報に報告された, ESと診断された患者から検出された病原体と検査に用いた検体を示す()。HHV-6が最も多く検出され, HHV-7がそれに続いた。その他にもエンテロウイルス等のいわゆるウイルス性発疹症の原因となる病原体も検出されている。ESと診断された患者の中にはHHV-6BやHHV-7以外の病原体によるES様患者が含まれていることを示している。

今後の課題:ESは発熱時に熱性けいれんを伴うことが比較的多く, 稀に脳炎・脳症, 血小板減少性紫斑病, 劇症肝炎を合併することが報告されている。改めて, 国内におけるES患者の疫学的特徴を明らかにすること, その上でHHV-6BやHHV-7に対する今後の検査体制や, 将来的なワクチン開発の必要性や接種のあり方を検討する必要がある。

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