新型コロナウイルス陽性者の感染性ウイルス量と疫学について―宇都宮市
(IASR Vol. 42 p35-36: 2021年2月号)
はじめに
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染のリスクを正しく評価するためには, 患者検体中のウイルスの感染性の有無を証明することが必要である。
本市では2020年3月に初めて患者が確認され, 感染の拡大防止を図るため, PCR検査センターの設置など様々な取り組みを行ってきたが, 10月までに131人の陽性者が判明した。今回, これらの患者検体中の感染性ウイルス量を調査したことから, その結果を報告する。
感染拡大防止を図るための取り組みと検査状況(図1)
2020年2月に検査体制を整備(平日は2回, 土日祝日は1回実施)し, 結果は即日保健所に提供している。5月には市民の検査機会を確保するため, 医師会等との協力のもと, ドライブスルー方式のPCR検査センターを設置した。9月には事業所や学校等に出向き, サリベットコットンにより唾液を採取する出張PCR検査体制を確立した。検査件数は, 第1波の4月に431人に達した後減少したが, 7月に急増し, 通常検査288人, PCR検査センター503人を合わせ791人となった。陽性率は5月に2.6%となった後, いったん減少したが, 全国と同様に7月に接客を伴う飲食店などのクラスターの発生により4.7%となり, その後は10月まで減少傾向であった。
感染性ウイルスの定量方法
米国疾病予防管理センター(CDC)の報告によると, Ct値33-35では多くの検体でウイルス分離が不可能であったが, 分離可能な検体もあるとされていたため, Ct値36以下の79名(有症者:63名, 無症状病原体保有者:16名)の鼻咽頭ぬぐい液を用いた1)。48穴プレートに単層培養したVeroE6/TMPRSS2細胞に, 輸送培地にて10倍階段希釈した検体を1希釈につき0.1mLずつ2穴に接種し, 34℃で7日間培養後, 細胞変性効果(CPE)を指標に, 検体中のウイルス量をTCID50法で算出した。
結果および考察
ウイルス分離を試みた79名のうち52名の検体からウイルスが分離(Ct値13.9-29.2)できた。図2に示すように, 有症者の検体0.1mL中の感染性ウイルス量は第0病日で最大105.5TCID50であり, 第1~4病日では103.0TCID50以上のウイルスを排出する患者が第2波で多く認められた。第6病日までには排出量が減少し, 1名のみ第11病日に微量の排出が認められたものの, 患者の多くは第7病日以降ウイルスの排出を認めなかった。これらは発症6日目以降の接触者で感染した者はいなかったという台湾の報告と矛盾しないデータであると考えられた2)。一方, 図3に示すように, 濃厚接触者として患者と接触した日が明らかな無症状病原体保有者では, 接触後3~9日の間に16名中7名が有症者の第1~4病日と同程度の103.0TCID50以上のウイルスを排出していた。この7名のうち5名は, 7月に発生したクラスターの店舗従業員やその接触者であり, 無症状病原体保有者を含めた幅広な検査が重要であると考えられた。以上のことから, 有症者だけでなく, 積極的疫学調査により無症状病原体保有者を早期に探知し, 必要な策を講じることも本感染症の感染拡大防止には必要不可欠であると考えられた。
参考文献
- CDC, Symptom-Based Strategy to Discontinue Isolation for Persons with COVID-19
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/community/strategy-discontinue-isolation.html - Hao-Yuan Cheng, et al., JAMA Intern Med 180(9): 1156-1163, 2020