国立感染症研究所

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旭川市における新型コロナウイルス感染症大規模クラスター複数発生に至るまでの疫学的特徴(暫定報告:2020年11~12月)

(IASR Vol. 42 p39-40: 2021年2月号)

 

 北海道旭川市は人口約33万人の中核市である。同市では, 2020年2月22日に市内で初めて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)症例(症例)が報告されたが(https://www.city.asahikawa.hokkaido.jp/kurashi/135/136/150/d072303.html), その後, 市内では散発的な報告を認めるに留まっていた。

 2020年11月以降, 市内では3つの医療機関で, それぞれ100人以上の症例が報告される大規模クラスターが発生した。本稿では, 同市において3つの大規模クラスターが発生するまでの市内の症例発生の疫学的特徴と, 得られた課題について暫定的に報告する。なお市内で発生した3つの医療機関における大規模クラスターについては, 12月31日時点で保健所や外部機関による調査支援継続中のため, 本稿では施設内での拡大についての詳細な言及は行わない。

 2020年2月以降, 12月31日時点までに医療機関等から旭川市保健所に届け出られた症例は, 939例であった。このうち疫学調査により発症日の判明している743例について, 推定感染場所を中心とした特徴を時系列的に以下に記す。8月末までに報告された症例は17例であり, 推定感染場所は市外で感染し市内に持ち込んだと思われる症例(市外からの持ち込み)が6例(35%)であった。このうち3例に札幌市への訪問歴があった。次いで家庭が2例(12%), 感染経路不明が9例(53%)であった。9月中に報告された症例は5例であり, 推定感染場所は市外からの持ち込みが4例(80%)であった。うち3例に札幌市への訪問歴があった。次いで家庭が1例(20%)であった。10月中に報告された症例は20例であり, 推定感染場所は家庭が6例(30%), 次いで市外からの持ち込みが4例(20%)(いずれも札幌市への訪問歴あり), 会食が3例(15%)であった。11月中に報告された症例は373例であり, 推定感染場所は医療施設が285例(76%), 家庭が30例(8%), 社会福祉施設が9例(2%)であった。なお, 11月中には3つの医療機関における大規模クラスターが探知され, 以降12月中にも同医療機関から多数の症例が報告された。12月中に報告された症例は328例であり, 推定感染場所は医療施設が280例(85%), 家庭が22例(7%), 社会福祉施設が7例(2%)であった(, )。

 9月以降, 市外からの持ち込み症例は散発的に15例認めており, 20代が6例と最も多く, 次いで50代が4例, 10代が3例だった。このうち9例(60%)に札幌市への訪問歴を認めた。これらの症例からの旭川市内での二次感染は家庭を中心に8例を認めた。なお, 10月になって札幌市で症例発生の急激な増加を認めていた(https://www.city.sapporo.jp/hokenjo/f1kansen/2019n-covhassei_toukei.html#kansenkeirobetsu)。

 これまでCOVID-19の国内地方都市での感染拡大の特徴として, ①大都市の繁華街から地方都市の繁華街への感染の流入, ②会食等による感染の増加, ③家庭・職場における感染の増加, ④医療介護施設関連の感染の増加という段階的な拡がりがみられることが多かった(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/corona19.pdf)。一方で2020年9月以降の旭川市における感染拡大の状況としては, 主に札幌市などの結びつきの強い大都市からの感染の流入の後に少数の家庭や職場での二次感染を認めたが, そこから大きな感染拡大は認めなかった。また, この時期に市中における会食等で感染したと考えられる症例の増加も認めなかった。このような状況で11月になり, 3つの医療機関での大規模クラスターやいくつかの社会福祉施設での少数クラスターが発生した。直前で市中における明らかな症例増加がなく, 旭川市ではこれまで医療介護施設関連のクラスターの発生もなかったため, 医療介護施設においては, COVID-19が施設内に持ち込まれることに対しての対策は取っていたものの, 十分とは言い切れず, また地域としても対応するための支援体制が準備できていなかった可能性があった。なお, 3つの医療機関の大規模クラスターについては, いずれも院内への感染の侵入経路は現時点で明らかになっていない。

 旭川市内では市中の症例が増加していない状況で複数の医療機関への感染拡大が発生した。この点については, 市中での感染拡大が十分に探知されていなかった可能性がある。一方で, 旭川市内の検査数は, 9月:15件/日, 10月:44件/日(いずれも平均, 積極的疫学調査等や陰性確認を除く医師の判断で実施されたと思われるもの)であった。ある程度の検査が実施されており, 症例の発生状況からも市中での症例の明らかな増加はなかった可能性が高いと考えられた。

 本事例を通してわかったことは, COVID-19は一般的に繁華街, 職場, 家庭等での感染機会の増加後に, 医療介護施設等の重症化のリスクの高い施設へ感染伝播をしていくことが考えられているが, このような地方都市では市中感染の増加がみられなくとも(探知されていなくとも), 経済的, 人的結びつきの強い大都市での感染増加が認められている場合に, 突如として医療介護施設等の重症化リスクの高い施設における感染拡大が発生し得るということである。このため, 特に感染症部局・福祉部局などの行政や, 医療介護施設の関係者は, 結びつきの強い他都市での症例発生の状況を注視しておくことが必要である。地域で感染拡大が起きていなくとも, 結びつきの強い都市で感染拡大が起きている場合には, 突然の医療介護施設への感染の侵入や, クラスター発生を考え, 各施設での基本的な感染管理体制の構築や, 発生初期段階での施設への支援体制などの準備をしておくことが重要と考えられる。

 謝辞:本稿の執筆にあたり, 旭川市保健所の皆さまからの多大なるご協力, ご助言をいただいたことに深謝します。


 
国立感染症研究所感染症疫学センター
 小林祐介 砂川富正       
同実地疫学専門家養成コース(FETP)
 笠松亜由 鵜飼友彦 中下愛実 門倉圭佑

 

 

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