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アデノウイルスによる感染性胃腸炎

(IASR Vol. 42 p75-76: 2021年4月号)

 

 アデノウイルス(Ad)は呼吸器疾患, 眼科疾患の病原体として知られるが, 小児における感染性胃腸炎の主要な病原体でもある。本稿の目的はAdによる感染性胃腸炎について概説することである。

 世界的にノロウイルス, ロタウイルスとともにAdは小児の感染性胃腸炎患者からの検出が多い。Adによる感染性胃腸炎の特徴としては, 6歳以下の小児の割合が多いこと, 食品を介する事例が少ないこと, 他のウイルス性胃腸炎と比較して下痢の期間が長いことが挙げられる。潜伏期間は約3~10日である1)。発熱, 嘔吐, 下痢といった消化器症状が主要な症状である。

 2008~2020年に感染性胃腸炎患者から検出されたAdは3,751件(本号69ページ特集表2)であり, 咽頭結膜熱患者からの検出3,597件より多かった。

 Adの種のうち感染性胃腸炎を引き起こすのは主に腸管Adと呼ばれるF種(40および41型)である。F種の2つの型のうち, 41型が996件(27%)を占め, 40型の報告は1件のみであり, 同じ表(本号69ページ特集表2)で40/41型と報告された534件はF種を選択的に検出するELISAキットによる報告と推定される。これらの534件も近年の検出状況から, 41型が大多数を占めると推定された。近年に米国で網羅的な病原体の検討が行われ, 5歳以下の感染性胃腸炎患者1,556件の糞便検体からのアデノウイルス40/41型とノロウイルスの検出率はほぼ同等であったことが報告されている2)

 A種の31型は感染性胃腸炎の病原体として知られており, 143件(3.8%)が検出されている。B種(3型など)も感染性胃腸炎を起こすことがあり, 3型が202件報告されている(本号69ページ特集表2)。

 C種(1, 2, 5および6型)は1,356件が感染性胃腸炎患者から検出された(本号69ページ特集表2)。しかし, C種は扁桃に持続感染し3,4), 小児の糞便中に間欠的に排出されることが知られており, C種が感染性胃腸炎患者から検出された場合には疾患との因果関係は明確ではない。迅速診断キット(イムノクロマト法)で感染性胃腸炎患者の糞便からAdが検出された場合にC種を検出してもF種やA種と区別できないので, 疾患との因果関係が不明瞭なことがあることに留意が必要である。

 Adによる感染性胃腸炎は長期間にわたって下痢が続き, ウイルスの排出期間が長い。そのため, 患者に接触した後の手洗いやマスク着用が重要となる。Adはエンベロープを持たず, アルコール性消毒剤や界面活性剤への抵抗が強い。次亜塩素ナトリウムによる消毒が有効である。近年では, より安全性が高く, 金属への腐食性が低いペルオキシ一硫酸カリウム消毒剤や5), Adに効力があるアルコール性の製剤6)等も開発・市販されている。2020年以降, 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の流行に伴って感染性胃腸炎を含むAd感染症の患者数が減少している。この結果は, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として実施されている手洗いなどの手指衛生, 環境消毒および飛沫感染防止の徹底がAd感染対策に有効であることを強く示唆している。

 

参考文献
  1. RED BOOK 31st Edition, American Academy of Pediatrics, 206-208, 2018
  2. Buss SN, et al., J Clin Microbiol 53: 915-25, 2015
  3. Gernett CT, et al., Journal of Virology 76: 10608-10616, 2002
  4. Gernett CT, et al., Journal of Virology 83: 2417-2428, 2009
  5. Hashizume M, et al., Eur J Opthalmol 9: 1120672119891408, 2019
  6. Hanaoka N, et al., Jpn J Infect Dis 73: 349-353, 2020

 
国立感染症研究所感染症危機管理研究センター  
 藤本嗣人 花岡 希 野尻直未 小長谷昌未 高橋健一郎   
小林小児科          
 小林正明

 

 

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