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三重県で発生した百日咳家族内感染事例

(IASR Vol. 42 p112-113: 2021年6月号)

 
はじめに

 感染症発生動向調査(NESID)のデータから百日咳は小学校低学年に届出数のピークがみられ, 乳幼児は家族内感染により罹患する場合が多いことが全国データから明らかになってきた1)。また, 百日咳は空気感染する疾患ではないにもかかわらず, 麻疹と同等の基本再生産数(R0=12-17)を有する疾患である2)。2019年6月に三重県T市において, 小学校低学年児童の百日咳感染を発端として, 同居家族全員が発症した家族内感染事例を経験したため報告する。

百日咳家族内発生事例の経過

 2019年6月某日, 5か月男児が夜間の発作性咳嗽, 顔色不良を主訴に夜間救急車にて当院を受診した。入院7日前より咳嗽を認めており, 入院時吸気性笛声(whoop)がみられた。入院時血液検査にて白血球数(WBC)35,460/μL(リンパ球 74.7%)と著明な白血球増多を認めていた。臨床経過より, 百日咳を強く疑い, 詳細な問診を行ったところ, 本人以外の6名の家族全員が咳嗽症状を認めていた()。入院患児を含めた家族7名全員の百日咳菌培養検査, 百日咳菌LAMP法, 血液検査(白血球数, 白血球分画, PT-IgG, 百日咳IgA, 百日咳IgM)を施行し, 併せて国立感染症研究所(感染研)に百日咳菌培養検査, 百日咳菌遺伝子検査を依頼した。本人, 祖母, 父, 長姉の4名は百日咳菌LAMP陽性であり, 母, 兄, 次姉はLAMP陰性であった。LAMP陰性であった母, 兄, 次姉も, 臨床経過, 他の検査結果から百日咳と診断した()。家族全員にクラリスロマイシン7日間の内服を指示した。乳児例を含め, 重症化は認めなかった。咳嗽出現が最も早かった兄が通う小学校では, 同時期に百日咳の診断で出席停止となった児童が複数名存在したという情報を得た。小学校で百日咳の流行があり, 小学校低学年の児が発端となり, 家族全員が罹患した事例と考えられた。感染研に依頼し, 培養検査が陽性となった両親, 長姉の検体の遺伝子型解析を施行したところ, 反復配列多型解析(MLVA)法にて3株ともMT27と判明した。百日咳菌のMLVA法による遺伝子型は国内では近年MT27が主流となっており, 今回検出された菌株も主流となっている株と一致した3)。

最後に

 今回われわれは三重県T市において, 小学校低学年の学童児が発端となり, 生後5か月の乳児を含む家族7名全員が発症した百日咳の家族例を経験した。

 2018年の百日咳全国データでは小学校低学年に発生数のピークを認めており1), 生後6か月未満の乳児の感染源の42%(222/530例)は同胞という結果であった4)。本症例のようなケースの予防には, 日本小児科学会が推奨する就学前の三種混合ワクチン(破傷風・ジフテリア・百日せき)のブースター接種が有用であると考えられる5)

 また今回, 乳児例の発症で百日咳の診断に至ったが, 兄, 次姉は気管支炎, 母は咳喘息とそれぞれ診断されており, 百日咳は疑われてはいなかった。成人の百日咳は典型的な症状を示すことが少なく, またLAMPでも検出率が高くないこと, ペア血清の採取が容易ではないことから診断が困難な場合が多い6,7)。地域の百日咳サーベイランスにより, 地域の内科, 小児科を持つ一次病院, 二次病院に迅速にアラートが発せられるシステムの構築も有用であると考えらえる。

 

参考文献
  1. 全数報告サーベイランスによる国内の百日咳報告患者の疫学(更新情報)-2018年疫学週第1週~52週-
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/id/1630-disease-based/ha/pertussis/idsc/idwr-sokuhou/8696-pertussis-190327.html
  2. Delamater PL, et al., Emerg Infect Dis 25(1): 1-4, 2019
  3. 蒲地一成ら, IASR 40: 3-4, 2019
  4. 2018年第1週から第52週までにNESIDに報告された百日咳患者のまとめ
    https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/pertussis/pertussis-190327.pdf
  5. 日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール(2020年10月改訂版)
    http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=138
  6. 岡田賢司ら, IASR 26: 66-67, 2005
  7. 岡田賢司, LAMP法による百日咳の診断, モダンメディア62巻9号, 2016

 
国立病院機構三重病院小児科
 杉浦勝美 武岡真美 菅田 健 篠木敏彦 菅 秀 谷口清州  

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