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新型コロナウイルス感染症流行下の国内百日咳の疫学のまとめ

(IASR Vol. 42 p113-114: 2021年6月号)

 

 百日咳は2018年1月1日から, 感染症法上の5類感染症定点把握対象疾患から5類全数把握対象疾患に変更された。感染症発生動向調査(NESID)への届出数のうち, 「感染症法に基づく医師届出ガイドライン(初版)(届出ガイドライン)」1)において示された基準の考え方に合致するとみなされた患者は, 2018年が11,190例(94%), 2019年が15,972例(95%), 2020年が2,671例(91%)であった(図1)。各年別の疫学情報については「全数報告サーベイランスによる国内の百日咳報告患者の疫学」として国立感染症研究所ホームページに公開されている(https://www.niid.go.jp/niid/ja/pertussis-m/pertussis-idwrs.html)。

 2018~19年の百日咳患者の年齢分布は, 5~9歳で最も患者届出数が多く, 次いで重症化しやすいとされる6か月未満児, さらに30代後半~40代にかけての成人で患者の集積が認められた。また, 学童期の患者の80%近くが定期接種で定められている4回の三種混合ワクチン(破傷風・ジフテリア・百日せき)接種を完了しており, 乳児の感染源としての学童期の患者を減らす新たな対策が必要であることが示された(本号2ページ図3参照)。

 一方, 2020年は新型コロナウイルス感染症の対策として, 「人と人の距離の確保」, 「マスクの着用」, 「手洗い等の手指衛生」などの感染対策の実施が推進された。また, 感染拡大防止のため小中学校等の一斉臨時休校や新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成24年法律第31号)第32条第1項の規定に基づく緊急事態宣言がなされ, 感染予防策の徹底や外出自粛等で国民の行動が変化したことにより, 百日咳の届出数は大幅に減少した(図1)。

 2020年に届出ガイドラインの基準を満たした2,671例の年齢分布は, 診断週第1~20週までの2,222例においては, 重症化リスクが高い6か月未満児の患者が136例(6.1%), 6か月以上15歳以下の患者が1,399例(63%), 16歳以上の患者が687例(31%)であった。ところが, 診断週第21週以降の449例では, 6か月未満児の患者が5例(1.1%), 6か月以上15歳以下の患者が186例(41%), 16歳以上の患者が258例(57%)と, 第21週以降は15歳以下の報告数が顕著に減少し, 6か月未満児の患者数も減少していた(図2)。

 2020年の特に15歳以下の患者の減少は, 行動制限や飛沫感染対策の強化など新型コロナウイルス感染症対策の影響が強いと推測される。ワクチンの効果が減弱した学童・成人層の百日咳患者が乳幼児の感染源になることが指摘されている2)が, 今回, 6か月未満児以外の年齢層の患者が減少することにより, 6か月未満児の患者の減少が確認されたことから, 改めて学童・成人層の百日咳予防対策が重症化しやすい乳児を百日咳から守るための重要な戦略であることが示された。

 

参考文献
  1. 百日咳 感染症法に基づく医師届出ガイドライン(初版)
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/id/610-disease-based/ha/pertussis/idsc/7994-pertussis-guideline-180425.html
  2. von Konig CH, et al., Lancet Infect Dis 2: 744-750, 2002

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