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2020年の日本の伝播性薬剤耐性HIVの動向

(IASR Vol. 42 p221-222: 2021年10月号)   (2021年12月17日黄色部分改訂)

 

 抗HIV治療歴のないHIV感染者において, 薬剤耐性変異をもつHIVが検出される場合があり, これらの伝播性薬剤耐性および治療前薬剤耐性の動向は, 初回推奨抗HIV療法の選択や, 予防投与の選択に必要な基礎情報である。

 全国の医療機関の協力のもと, 2003年から研究班において新規未治療HIV感染者の伝播性薬剤耐性の動向調査を行っており1), 2020年(1~12月)は449例の新規登録例を解析した。これは, この期間にエイズ発生動向調査で報告されたHIV感染者とAIDS患者の合計を分母とすると約41.0%に相当する。

 2020年新規登録例のサブタイプ・CRFは, B : 79.0%, CRF01_AE : 12.4%, GまたはCRF02_AG : 1.6%, C : 1.4%, CRF07_BC : 1.2%, A : 0.2%, その他 : 4.1%であった。

 本邦での新規未治療HIV感染者の伝播性薬剤耐性変異の動向を図に示す。サーベイランスのための伝播性薬剤耐性変異のリストは, プロテアーゼ阻害薬(PI), 核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI), 非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)については2009年2)に, インテグラーゼ阻害薬(INSTI)については2019年3)に世界保健機関(WHO)のワーキンググループにより作成されたリストに従った。

 にはNRTI, NNRTI, PI, INSTIの4つのクラスの伝播性薬剤耐性変異の動向を, それぞれを色分けして示した。4クラスのいずれかの伝播性薬剤耐性変異を保有する率は2017年までは10%前後で推移し, 2018年4.9%, 2019年6.6%へと一時減少していたが, 2020年は9.2%へと再増加した。

 2020年(2019年から2020年へ改訂)の薬剤クラス別内訳ではNRTI 7.2%(31/433), NNRTI 1.6%(7/433), PI 0.7%(3/433), INSTI 0.2%(1/428)であった。2020年新規未治療HIV感染者から検出された伝播性薬剤耐性変異の内訳を表1に示す。比較的古い世代のPIに対する耐性変異のM46I, NRTIのジドブジン(AZT)などに対する耐性変異の復帰変異であるT215X, NNRTIのエファビレンツおよびネビラピンに対する耐性変異のK103Nなどは本邦で複数の伝播クラスタを形成して定着しているが, それらのうち, T215Xをもつ既存の複数の伝播クラスタに所属する新規報告例が2020年に再増加し, 伝播性薬剤耐性変異保有率増加の主因となった。その他, 表1にリストされていないpolymorphic mutationも含めたminor mutationを表2に示す。これらは単独で薬剤耐性に与える影響は限定的であるものの, 比較的頻度の高いものが含まれる。

 国内流行株の動向の変化とともに, B型肝炎ウイルス(HBV)先行治療の影響5), 抗HIV薬の使用動向等の影響を受け本邦の薬剤耐性動向は変化していく可能性があり, 引き続き注視する必要がある。

 本研究は日本医療研究開発機構 エイズ対策実用化研究事業「国内流行HIV及びその薬剤耐性株の長期的動向把握に関する研究」により行われた。

 

参考文献
  1. 薬剤耐性HIVインフォメーションセンター
    https://www.hiv-resistance.jp/
  2. Bennett, et al., PLOS ONE 4724, 2009
  3. Tzou, et al., J Antimicrob Chemother 75(1): 170-182, 2020
  4. Stanford University HIVDB Algorithm Version 9.0
    https://hivdb.stanford.edu/page/algorithm-updates/
  5. 蜂谷敦子, IASR 38: 181-182, 2017

国立感染症研究所エイズ研究センター
 菊地 正
薬剤耐性HIV調査ネットワーク  

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan