2020/21シーズンにおける山形県のインフルエンザ集団発生
(IASR Vol. 42 p246-247: 2021年11月号)
はじめに
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下において, インフルエンザ(Flu)患者の報告数は南半球の2020シーズン, 北半球の2020/21シーズンともに著しく少なかった1)。日本では2020/21シーズンのFlu症例報告数は全国で1,326件(2020年第36週~2021年第33週の定点医療機関報告数)であり2-4), 前シーズンの約100万件のおよそ800分の1であった。そのような少ない患者報告数にあっても, 都道府県別報告数を俯瞰すると, 山形県において突出したピークが観察される(図1)。そこで今回我々は, 当該ピークの主因たる2020/21シーズンの山形県におけるFlu集団発生の概要について報告する。
事例の概要と山形県の流行状況
2021年2月8日, 山形県南部のA小学校(全校児童402人)でFluの集団発生が確認された。2月8日時点で1学級の25人が罹患, うち14人が欠席し, 9日, 10日と学級閉鎖の措置が取られた。
2020/21シーズンの山形県のFlu症例報告数によれば, 置賜地域では2021年第4~7週にそれぞれ1, 44, 15, 1例, 計61例の報告があり, すべてA型であった(図2A)。置賜地域の患者年齢分布は14歳以下が56人, 20歳以上が5人であった(図2B)。
ウイルス学的検査の結果
当所では2021年第6週にFlu患者2名から採取された咽頭ぬぐい液検体について, 国立感染症研究所(感染研)のインフルエンザ診断マニュアル(第4版)に従いウイルスの検出を試みた。リアルタイムPCR法では2検体ともにA型のM遺伝子, ならびにH3亜型のHA(ヘマグルチニン)遺伝子が検出された。MDCK細胞での分離培養で細胞変性効果を認めたため, 培養2代目の培養液を回収し, 赤血球凝集(HA)試験ならびに赤血球凝集阻止(HI)試験に用いた。1%モルモット血球でのHA価は2検体とも16倍であった。HI試験には2020/21サーベイランスキットを用いた。A(H1N1), A(H3N2), B型山形系統, B型Victoria系統いずれの血清も10倍未満と判定されたが, A(H3N2)は10倍で弱い凝集がみられた。
国の感染症発生動向調査(NESID)における地方衛生研究所(地衛研)等からのFluウイルス病原体検出報告数は, 2020年第36週~2021年第33週の間で7件(A/H1pdm09亜型: 2件, A/H3亜型:4件, C型:1件)のみであった5)。
考 察
2020/21シーズンはFlu症例の絶対数が少なかったものの, 全国(石川県を除く)から患者が報告されていた(図1)。この点については, COVID-19パンデミック下での厳格な感染予防対策がFlu感染伝播の抑止という好影響を及ぼし, 結果として散発的な患者発生にとどまった可能性が示唆される。しかし, それらFlu散発例が火種となり, 少しのきっかけで大きな流行を起こしうることが本県の集団発生事例から推測される。
地衛研等からのFluウイルス検出報告が極めて少ない状況の中, 当所に搬入された検体は非常に貴重な試料であったといえる。本県の検体は遺伝子検査では検出できたものの, 2020/21サーベイランスキットの血清では亜型の同定ができなかったことから, 通常の予測から外れた抗原性を持つ株が流行した可能性が考えられた。解析対象となるFlu陽性検体は世界的にも少ないと推測されるため, 感染研インフルエンザ・呼吸器系ウイルス研究センターに分与した山形県の検体の解析結果が, 次のFluシーズンに備えた対策を講じるために役立つことを願いたい。
最後に, 本県のFlu集団発生事例からの教訓として, 2021/22シーズンにはCOVID-19に加えFluも流行する可能性があることを念頭に置き, COVID-19だけにとらわれない総合的な感染症対策への意識を高めるよう啓発を進めていくべきと考える。
謝辞:本事例でご対応いただいた置賜保健所と関係医療機関の皆様に深謝致します。
参考文献
- Zipfel CM, et al., Vaccine 39(28): 3645-3648, 2021
- 国立感染症研究所, IDWR 2019年第52週 21(52), 2019
- 国立感染症研究所, IDWR 2020年第52・53週 22(52・53), 2020
- 国立感染症研究所, IDWR 2021年第33週 23(33), 2021
- 感染症サーベイランスシステム(NESID)病原体検出情報,(2021年9月2日アクセス)