IASR-logo

鳥・ブタインフルエンザウイルスのヒト感染事例の状況について

(IASR Vol. 42 p257-258: 2021年11月号)

 
鳥インフルエンザウイルス

 A/H5亜型ウイルス

 近年は, N7を除くN1-N9 NA亜型の高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)を引き起こすA/H5亜型ウイルスが世界各地の家禽や野鳥(以下, 愛玩鳥等含む)に蔓延し, 2020年9月以降, アジア3カ国・欧州14カ国・アフリカ9カ国でA(H5N1)ウイルス, 台湾でA(H5N2)ウイルス, 欧州6カ国でA(H5N3)ウイルス, 欧州4カ国でA(H5N4)ウイルス, 台湾と欧州15カ国でA(H5N5)ウイルス, 中国とベトナムでA(H5N6)ウイルス, 日本を含むアジア13カ国・欧州29カ国・アフリカ2カ国でA(H5N8)ウイルス, この他にアジア2カ国・欧州10カ国・アフリカ3カ国でNA亜型不明のA/H5亜型ウイルスが家禽または野鳥から検出され, 2016/17シーズン以来の大流行となった(2021年9月28日現在)1)。これらのウイルスでヒト感染例の報告があるのはHPAIのA(H5N1), A(H5N6), A(H5N8)ウイルスである。A(H5N1)ウイルスのヒト感染例は, 2003年以降, 中東, アフリカ, アジアなど17カ国で死亡456例を含む863例が, これまでに確認されている。2020年9月以降では, 2020年10月にラオスで1例, 2021年6月にインドで初となる1例のヒト感染例が確認された(2021年8月8日現在)2)。A(H5N6)ウイルスは2014年以降, 主に中国などで49例のヒト感染例が確認されている。2020年9月以降は, 中国で13例(直近では2021年7月に四川省で4例, 重慶市, 広西チワン族自治区でそれぞれ1例), ラオスでは初となる1例のヒト感染例が2021年2月に確認された。また, A(H5N8)ウイルスでは初となる7例のヒト感染例が, 2020年12月にロシアで確認された(2021年8月8日現在) 2)

 日本では2020年10月~2021年3月までの間に, 全国の野鳥や家禽でA(H5N8)ウイルスによるHPAIが発生し, 家禽では18県52例, 野鳥では18道県58例が確認された3,4)。またこの間, 低病原性鳥インフルエンザ(LPAI)のA(H5N2)ウイルスが英国と南アフリカで, A(H5N3)ウイルスが英国とフランスで, A(H5N9)ウイルスが韓国で, 家禽または野鳥から検出されている1,5)

 A/H7亜型ウイルス

 2013年3月にLPAI A(H7N9)ウイルスの初のヒト感染例が中国で報告され, 第5波(2016年10月~2017年9月)以降は, 家禽に対して高病原性を示すように変異したHPAI A(H7N9)ウイルスのヒト感染例も報告されるようになり, 2013年以降で1,568例のヒト感染例, 616例の死亡例が確認されている。2019年3月に中国内モンゴル自治区で確認されたのを最後に, それ以降の確認はない(2021年9月8日現在)6,7)。他のA/H7亜型ウイルスについては, 2020年10月以降, リトアニアでHPAI A(H7N7)ウイルスが野鳥から, イタリアでLPAI A(H7N7)ウイルスが, 南アフリカでLPAI A/H7亜型ウイルスが家禽から検出されているが1), ヒト感染例は確認されていない。

 A/H9亜型ウイルス

鳥インフルエンザA(H9N2)ウイルスのヒト感染例は, 2020年10月以降, 中国では22例(直近では2021年9月に1例), 2021年2月にカンボジアでは初となる1例のヒト感染例が確認され, いずれも症状は軽症で死亡例の報告はない6)。これまでにエジプト, バングラデシュ, インド, セネガル, オマーンでもヒト感染例が確認されており, 1998年以降のヒト感染例は82例となった6)。A(H9N2)ウイルスはアフリカ, アジア, 中東の家禽の中で定着し, ウイルス感染した家禽との接触によりヒトに感染するが, 接触歴がない感染例も散見されている。

 その他亜型ウイルス

 中国江蘇省では2021年4月にA(H10N3)ウイルスのヒト感染例が初めて確認された。41歳の男性患者は集中治療室に入院したものの回復している。明らかな鳥との接触歴は認められなかったが, 患者の居住地周辺の家禽からはA(H10N3)ウイルスが検出された1)

 世界各地の家禽や野鳥の間で様々な鳥インフルエンザが流行し, 日本の周辺国では散発的なヒト感染例も報告されている。ウイルス流行の拡大とともにヒト感染リスクは高まるため, 引き続きこれらのウイルスを注視していく必要がある。

ブタインフルエンザウイルス

 ブタは鳥・ヒトインフルエンザウイルスの両方に感染するため, 交雑宿主となって遺伝子再集合した新たなウイルスを排出する可能性がある。ブタの間では様々な遺伝的背景を持つA(H1N1), A(H1N2), A(H3N2)ウイルスが循環し, 散発的なヒト感染例も確認されている8)

 北米大陸では1990年代後半から, ブタの間で循環していたclassical-swine系統のA(H1N1)ウイルスが鳥・ヒトインフルエンザウイルスと遺伝子再集合したtriple reassortantウイルスと総称されるA(H1N1), A(H1N2), A(H3N2)ウイルスが循環していた9)。2009年にパンデミックを引き起こしたA(H1N1)pdm09ウイルスは, triple reassortantウイルスとユーラシア大陸のブタで流行していたEurasian avian-like swine系統のA(H1N1)ウイルスとの遺伝子再集合により出現したウイルスである10)。その後, A(H1N1)pdm09ウイルスは, ブタに再侵入し, パンデミック以前から流行していたブタインフルエンザウイルスとの間で遺伝子再集合が世界各地で起こっており, ブタインフルエンザウイルスの遺伝的背景は複雑化している8)

 米国では農業フェアでのブタとの接触等により, 2010年9月以降, A(H3N2)v, A(H1N1)v, A(H1N2)vウイルス〔ヒト感染したブタインフルエンザウイルスは “variant(v)virus”と総称される〕のヒト感染例がそれぞれ433例, 15例, 28例報告されている。直近の2020/21シーズンでは, 米国でそれぞれ2例, 5例, 3例, カナダでそれぞれ1例, 1例, 2例のヒト感染例が確認されている(2021年9月28日現在) 6,11)。また北米大陸以外でも2020年10月以降, オーストラリアで1例のA(H3N2)vウイルス, 中国, オランダ, デンマーク, ドイツで合計10例のA(H1N1)vウイルス, ブラジル, 台湾, フランスでそれぞれ1例のA(H1N2)vウイルスのヒト感染例が報告されている6,12)

 日本では1970年代後半からclassical-swine系統のA(H1N1)ウイルスがブタの間で循環しはじめ13), その後ヒトA(H3N2)ウイルスと遺伝子再集合したA(H1N2)ウイルスも出現し14), 2009年以降はA(H1N1)pdm09ウイルスと遺伝子再集合したA(H1N2)ウイルスやA(H3N2)ウイルスが流行している15,16)。日本でヒト感染例の報告はまだないが, 引き続きブタインフルエンザウイルスの発生状況を注視していく必要がある。

 

参考文献
  1. OIE, Avian Influenza
    https://www.oie.int/en/disease/avian-influenza/
  2. WHO, Global Influenza Programme, Monthly risk assessment summary
    https://www.who.int/teams/global-influenza-programme/avian-influenza/monthly-risk-assessment-summary
  3. 環境省, 高病原性鳥インフルエンザに関する情報
    https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/bird_flu/
  4. 農林水産省, 令和2年度高病原性鳥インフルエンザ国内発生事例について
    https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/tori/r2_hpai_kokunai.html
  5. WHO, Antigenic and genetic characteristics of zoonotic influenza A viruses and development of candidate vaccine viruses for pandemic preparedness
    https://cdn.who.int/media/docs/default-source/influenza/who-influenza-recommendations/vcm-southern-hemisphere-recommendation-2022/202110_zoonotic_vaccinevirusupdate.pdf?sfvrsn=8f87a5f1_1
  6. 農林水産省, 鳥インフルエンザに関する情報
    https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/tori/index.html
  7. FAO, H7N9 situation update
    http://www.fao.org/ag/againfo/programmes/en/empres/H7N9/situation_update.html
  8. Ma W, Virus Res, doi: 10.1016/j.virusres.2020.198118, 2020
  9. Lorusso A, et al., Curr Top Microbiol Immunol 370: 113-132, 2013
  10. Garten RJ, et al., Science 325(5937): 197-201, 2009
  11. CDC, FluView Interactive
    https://www.cdc.gov/flu/weekly/fluviewinteractive.htm
  12. Santé publique France
    https://www.santepubliquefrance.fr/les-actualites/2021/suspicion-de-cas-de-grippe-humaine-par-un-virus-influenza-a-h1n2-v-clade-1c.2.4-d-origine-porcine-en-bretagne
  13. Sugimura T, et al., Arch Virol 66: 271-274, 1980
  14. Nerome K, et al., J Gen Virol 64(Pt 12): 2611-2620, 1983
  15. Kobayashi M, et al., Emerg Infect Dis 19(12): 1972-1974, 2013
  16. Mine J, et al., J Virol 94(14): e02169-19, 2020

国立感染症研究所感染症危機管理研究センター
 影山 努 竹前喜洋 百瀬文隆 Doan Hai Yen 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan