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E型肝炎の診断法

(IASR Vol. 42 p275-276: 2021年12月号)

 
はじめに

 E型肝炎はE型肝炎ウイルス(hepatitis E virus: HEV)の感染により引き起こされる急性肝炎であり, 劇症化し死に至ることもある。衛生環境が整っていない発展途上国では, 水系を介した糞口感染による流行性および散発性のE型肝炎が発生している。一方, わが国も含めた先進諸国でも, 原因不明とされていた急性肝炎患者や家畜ブタ, 野生のイノシシやシカなどから, 発展途上国等の流行地域に分布している遺伝子型(1型や2型)とは異なる遺伝子型(3型や4型)のHEV株が分離された。先進諸国にも固有のHEV株が常在し, 散発性急性肝炎や劇症肝炎の原因となっていること, ブタなどがHEVのリザーバーとなり, その肉や内臓を喫食したヒトに感染する人獣共通感染症であること, が明らかになった。また近年, 免疫抑制状態の易感染性宿主ではHEV感染が高率に慢性化し, 肝硬変や肝不全に至る症例もあることが注目されている。

E型肝炎の血清学的診断

 血清学的診断とは, 感染に対する免疫応答として患者の血清中に産生される抗体を検出することにより感染症を診断する方法である。HEV感染者の血清中には, HEVゲノムのopen reading frame 2にコードされるカプシド抗原に対する抗体が産生される。各免疫グロブリンクラスのHEV抗体のうち, IgGクラスの抗体は長期に陽性が持続するため, HEV感染既往を示すマーカーとして疫学研究などに応用される。一方, IgMおよびIgAクラスの抗体はHEV感染の急性期に上昇し, 回復期から治癒期にかけて低下・陰性化する。E型肝炎の診断では, この急性期血清中のIgMクラスまたはIgAクラスのHEV抗体を検出する()。我々はカイコの蛹で発現させたHEVカプシド抗原を用いた酵素免疫測定法によるIgAクラスHEV抗体測定系を開発し, IgMクラスHEV抗体測定系よりも特異性が高く, E型肝炎の診断に有用であることを明らかにした1)。これに基づくIgAクラスHEV抗体検出試薬「イムニス® IgA anti-HEV EIA」は体外診断用医薬品として認可され, 保険収載されたわが国で唯一のE型肝炎診断薬であり, 医師は検査センターに測定を依頼することができる。

E型肝炎のウイルス学的診断

 1. HEV RNAの検出

 遺伝子型1-4型のHEV株間で遺伝子の塩基配列の保存性が高い領域に設定されたプライマーを用いたRT-PCR法2,3)により, 患者の血清中または糞便中のHEV RNAを検出する。この検査は非常に高感度で特異性が高く, 保険収載はされていないが, 地方衛生研究所, 国立感染症研究所あるいはE型肝炎を研究している大学研究室などの研究機関や検査センターで検査することが可能である。血中のHEV量は通常発症前にピークに達し, その後は急速に低下して陰性化するので, HEV RNAを検出するためには初診時など発症からできるだけ短い時期の検体を確保することが重要である()。

 2. HEVの遺伝子型解析

 PCRの増幅産物の塩基配列を解析することにより, 原因HEVの遺伝子型を特定することができる2)。わが国に常在しているHEVの遺伝子型は3型および4型であるが, 4型の感染患者は3型の患者よりも重症化し易く, 劇症化率も高いことより4), 遺伝子型解析はE型肝炎の予後を推測するための一助となる。

 3. 免疫能低下宿主でのE型肝炎の診断

 免疫能が正常な宿主にHEVが感染した場合は, 免疫応答によりHEV感染は一過性で終息する。しかしながら, 移植後の免疫抑制剤投与, がんや血液疾患の化学療法, 自己免疫性疾患に対するステロイド剤投与, ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染などにより免疫能が低下した易感染性宿主においては, HEVが排除されず感染が持続し, E型慢性肝炎の病態となることがある。しかしながら, このような場合においては, 免疫能の低下によりHEV抗体が産生されにくい, あるいは非定型的な経過をたどることにより, 保険収載されたE型肝炎診断法であるIgAクラスHEV抗体の検出では偽陰性になってしまい, HEVの持続感染を見落としてしまうことがある5)。E型慢性肝炎症例の中には速やかに肝硬変を発症し, 肝不全に至る症例もあるため, リバビリンを用いた抗ウイルス療法によるHEVの排除を考慮する必要がある。したがって, 免疫能が低下している症例において, 他の原因ウイルスが否定的でHEV感染の可能性を排除できない場合には, 積極的にRT-PCR法によるHEV RNAの検出を試みるべきである。また, E型慢性肝炎症例の経過や抗ウイルス療法の効果をフォローする際には, 肝機能や凝固能の検査とともにリアルタイムRT-PCR法6)によりHEV RNA titerを定量的に評価することも有効である。

結 語

 2021年第41週までのE型肝炎症例の報告数は348例であるのに対して, A型肝炎は59例, A型およびE型以外のウイルス性肝炎は155例であった7)。A型肝炎が流行した2018年は例外として, 2016年以降, E型肝炎の報告数は他のウイルス性肝炎を上回っており, 今やわが国の急性ウイルス性肝炎の主たる原因はHEVである。急性肝炎の鑑別診断のためには, A型, B型およびC型肝炎の検査のみならず, E型についても同時に検査を実施することが重要である。また, 免疫能が低下している症例の場合, HEV抗体検査のみではHEV感染を見落とす可能性があるため, PCR法によるHEV RNA検出を併用することが推奨される。

 

参考文献
  1. Takahashi M, et al., J Clin Microbiol 43: 49-56, 2005
  2. Mizuo H, et al., J Clin Microbiol 40: 3209-3218, 2002
  3. Inoue J, et al., J Virol Methods 137: 325-333, 2006
  4. Takahashi M, Okamoto H, Hepatol Res 44: 43-58, 2014
  5. Owada Y, et al., Transplantation 104: 437-444, 2020
  6. Takahashi M, et al., Archives of Virology 153: 1703-1713, 2008
  7. https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/idwr/IDWR2021/idwr2021-41.pdf

自治医科大学医学部感染・免疫学講座ウイルス学部門  
 高橋雅春  

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan