国立感染症研究所

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細菌性赤痢の輸入症例の発生状況, 2009~2021年

(IASR Vol. 43 p28-29: 2022年2月号)

 

 細菌性赤痢は感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)で3類感染症として分類され, 赤痢菌(Shigella dysenteriae, S. flexneri, S. boydii, S. sonnei)の経口感染で起こる急性大腸炎と定義されている。潜伏期は1~5日(大多数は3日以内)で, 臨床症状としては発熱, 下痢, 腹痛を伴うテネスムス(tenesmus:しぶり腹-便意は強いがなかなか排便できないこと), 膿・粘血便の排泄, などが挙げられる1)

 2009年以降, 国内における細菌性赤痢の発生動向についてまとめた報告はあまりない。また, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な大流行(パンデミック)発生前後における細菌性赤痢の輸入症例の発生状況について検討した報告もあまりない。そこで, 本報告では感染症法により届出された細菌性赤痢の輸入症例を, 2009~2019年までに診断された症例と2020年および2021年に診断された症例に分けて, 発生状況と症例の属性等について感染症発生動向調査(NESID)を基に比較した。

細菌性赤痢輸入例の発生状況

 NESIDに感染地域(確定・推定)が国外として届け出された細菌性赤痢症例(輸入症例)は2009~2019年までの間, 年間64-163例で推移した()。このうち, 2010年が163例と最も多く, 次いで2011年が140例であった。一方, COVID-19パンデミック発生後の輸入症例の届出数は2020年が15例で, 2021年が2例であった。COVID-19パンデミック発生後に, 世界各国で空港等における水際対策が強化され, 出入国の制限を課す国が多数ある2, 3)。わが国の出入国在留管理庁の報告によると, 外国人入国者等総数は2019年には約3,615万人であったが, 2020年には約523万人と大きく減少した4)。また, 日本人の出国者数は2019年には約2,008万人であったが, 2020年には約317万人と大きく減少している。これらのことから, 細菌性赤痢の輸入症例の減少は, COVID-19のパンデミック発生による検疫体制の強化によって入国者数が制限されたことから, 海外から細菌性赤痢感染者が日本へ入国する機会が減少したことによって細菌性赤痢の輸入例の減少に影響した可能性が考えられた。

 表1は2009~2021年までに届出された上位10カ国の輸入症例数を推定感染地域別に示した。輸入症例の推定感染地域は, アジアが多く, 国別ではインド(300例), インドネシア(203例), フィリピン(115例)の順に多かった。インドからの輸入症例は2010年の47例をピークに減少傾向であった。

細菌性赤痢輸入例の属性の特徴
表2

 2009~2019年に届出された輸入症例数は1,236例であり, 2020~2021年に届出された輸入症例数は17例であった。輸入症例の属性はCOVID-19パンデミック発生前(2009~2019年)に女性が632例(51%)で, 年齢中央値が35歳(四分位範囲:26-50歳), 年齢階級別では20代が361例(29%), 30代が273例(22%)の順に多く, 症状ありが1,149例(93%), 菌種はS. sonnei(D群)が896例(72%), S. flexneri(B群)が290例(23%)の順に多く, 職業属性は職場関連(飲食店・食品・医療・介護以外)が560例(45%), 無職が205例(17%)の順に多かった。

 COVID-19のパンデミック発生後(2020~2021年)に届出された輸入症例の属性は女性が11例(65%), 年齢中央値は35歳(四分位範囲:22-42)で, 年齢階級別では40代が6例(35%), 20代が4例(24%)の順に多く, 症状ありは14例(82%), 菌株はS. sonnei(D群)が9例(53%), S. flexneri(B群)が8例(47%)の順に多く, 職業属性は職場関連(飲食店・食品・医療・介護以外)が4例(24%), 飲食店・食品関連が3例(18%)の順に多かった。パンデミック発生後の輸入症例数が少ないために単純な比較は難しいが, 性別, 年齢階級別の分布, 菌種, 職業等の割合の分布はパンデミック発生前と異なる分布であった。COVID-19パンデミック発生は, 細菌性赤痢輸入例の発生動向に影響を及ぼした可能性があると考えられた。

 

参考文献
  1. 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律に基づく医師及び獣医師の届出について
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/kekkaku-kansenshou11/01.html
  2. 外務省, 新型コロナウイルスに係る日本からの渡航者・日本人に対する各国・地域の入国制限措置及び入国に際しての条件・行動制限措置
    https://www.anzen.mofa.go.jp/covid19/pdfhistory_world.html
  3. 厚生労働省, 水際対策に係る新たな措置について
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00209.html
  4. 日本観光局(JNTO), 出入国在留管理庁
    https://www.moj.go.jp/isa/content/001356733.pdf

国立感染症研究所     
 実地疫学専門家養成コース
  嶌田嵩久       
 実地疫学研究センター  
  八幡裕一郎 

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