東京2020大会聖火リレー関連新型コロナウイルス感染症(COVID-19)事例
(IASR Vol. 43 p163-164: 2022年7月号)
2021年3月25日~7月23日にかけて, 全国47都道府県で東京2020オリンピック聖火リレーおよび関連したセレモニー(以下, 聖火リレー)が開催された。同年7月11日, 国立感染症研究所(感染研) Emergency Operations Center (EOC)において, 聖火リレーに関連した複数の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性者が, 複数の自治体で発生していることを報道から探知した。さらなる感染拡大の可能性も懸念されたため, 同日, 感染研EOCでモニタリングを開始した。聖火リレーの開催地と症例の居住地や滞在地が一致しない症例が複数あり, 新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)への登録内容のみでは症例の同定, 感染源や感染経路を含めた詳細な全体像の把握は困難であった。感染研EOCでは, 関係自治体に協力を依頼し, 関係自治体からの情報収集, HER-SYSを活用した症例探索を行い, 関係自治体間の情報共有のために合同リモート会議を主催した。
これらの情報を活用し, 症例定義を, 2021年6月21日(初発例の発症日から2週間前)~8月6日(聖火リレー終了日である7月23日から2週間後)までの期間に発症もしくは検査陽性となったSARS-CoV-2陽性者で, かつ, 聖火リレーに参加した者および運営にかかわった者とし, HER-SYSおよびメディア情報を基に症例探索を行った。具体的には, ①HER-SYS上で「聖火リレー」, 「聖火」, 「リレー」のキーワード検索で探知した症例, ②報道内容(性別, 年齢, 居住地, 届出保健所, 発症日, 診断日等)を基にHER-SYS上で探索された症例, ③報道内容を基に自治体へ照会し, 情報が得られた症例, を対象とした。
対象期間に, 4都県で計8症例が確認された(図)。8例は全例が男性で, 探知時有症状者は7例(88%)であった。ワクチン接種歴については, 8例中未接種の症例が6例(75%)と最も多く, その他, 聖火リレー参加後に1回目を接種した症例が1例(13%), 接種歴不明の症例が1例(13%)であった。一部の症例では, 聖火リレーに関連した車両の同乗や, 同一宿泊施設の滞在があった。自治体等の関係者間で合同リモート会議が開催され(7月25日), 情報のまとめや知見が共有された。この会議で共有・議論された情報は, その後の本件に対する公衆衛生対応の参考となり, 陽性者の接触者に対する検査や健康観察等で一定程度標準化された対応がなされた。8月6日時点で, 聖火リレー終了日以降に新たな症例の探知はなく, さらなる症例発生の可能性は低いと考えられたことから, 同日, 感染研EOCにおけるモニタリングを終了した。
各陽性者の感染経路は, 当時の国内のCOVID-19発生状況を考慮すると, 聖火リレーに関連した機会での曝露であったかどうかは断定できなかった。さらには事例発生時には疫学情報とゲノム解析の結果の突合ができなかったこともあり, 家庭等, 聖火リレー関連以外の機会での感染が否定できなかったと結論付けられた。
今回の事例で, 複数自治体が関係するような感染症が発生した時は, 保健所の積極的疫学調査によって得られた情報のHER-SYS (COVID-19以外の届出疾患では感染症発生動向調査システム)への適時の入力, HER-SYSを活用した症例探索の他, 関係者間での事例の把握や情報共有, 陽性者の疫学的関連を明確にするための速やかな疫学情報とゲノム解析との突合, の重要性が高いことがあらためて認識された。複数の自治体で発生する感染症の広域事例では, 関係自治体間の担当者会議の開催を主導する仕組みを整えること, その周知を自治体へ向けて行うことが今後も重要であると考えられた。
謝辞:本事例にかかわる問い合わせへの対応や情報共有にご協力を賜りました関係自治体の皆様に深謝いたします。