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島根県でのつつが虫病の発生状況について

(IASR Vol. 43 p182-183: 2022年8月号)

 
はじめに

 島根県では感染症法施行後の1999~2016年までの期間に, 72例(県外での感染例を除く)のつつが虫病患者発生が確認されている。本県で発生した患者から検出されるOrientia tsutsugamushiはKarp型が最も多く, 次いでGilliam型が確認されている1)。また, 患者推定感染地域は不明であるが, Shimokoshi型も1例報告されている2)。2017~2021年までの期間に発生した21例のつつが虫病患者の中には, 新たにShimokoshi型の4例を確認した。本稿では, これまでの島根県でのつつが虫病患者の発生状況と, 発生が稀であるとされているShimokoshi型感染例を複数確認するようになった経緯について報告する。

つつが虫病患者の発生状況

 島根県の年別の患者報告数は, 1999~2001年の期間に, 毎年10例前後であったが, 近年は2-7例にとどまっている(図1)。患者発生地域は, 雲南圏域(雲南市, 飯南町, 奥出雲町)での発生55例が最も多く, 次いで出雲圏域(出雲市)で11例, 県央圏域(美郷町, 邑南町)で9例, 松江圏域(松江市, 安来市)で6例, 隠岐圏域(海士町, 知夫村)で5例, 益田圏域(益田市, 津和野町)で4例, 浜田圏域(浜田市)で3例と, 県内で広く確認されている(図2)。

 患者発症月は, 11~12月および3~5月に多く, 秋~初冬・春の二峰性であり, 本県での優勢種であるフトゲツツガムシの幼虫の活動期間と一致する。二峰性のピークは春の方が高い。

検査方法とShimokoshi型つつが虫病患者確認の経緯

 2016年まで島根県保健環境科学研究所(当所)では, O. tsutsugamushiの56kDaの型特異的抗原領域のnested PCR3)を実施し, 特異的遺伝子の検出を確認していた。

 2017年に, Kawamoriら4)の紅斑熱群リケッチアとO. tsutsugamushiの16SrDNA領域を増幅するDuplexリアルタイムPCR法でスクリーニング検査を実施試行後, Satoらの56kDaの型特異的抗原領域のnested PCR変法5)を行う方法に変更し, ダイレクトシーケンス法により塩基配列を決定し, O. tsutsugamushiの型の確認を行った。結果, 2017年以降の県内21例のうち, 県東部の雲南圏域で9例中3例および県西部の益田圏域で1例中1例の計4例のShimokoshi型つつが虫病患者を確認した。雲南圏域3例のうち2例は4月に, 1例は5月に, 益田圏域の1例は11月に発症し, 春および秋の発生であった。

 また, 2017年に発生した2例では, Shimokoshi型抗原も含めて, 急性期および回復期血清の抗体検査を実施した結果, Shimokoshi型抗原に対して最も高い抗体上昇が認められた()。

まとめ

 島根県では, 隠岐圏域を含めた県内のほぼ全域でつつが虫病患者が発生している。その多くは, Karp型による感染であったが, 遺伝子検査法を変更した2017~2021年の期間に4例のShimokoshi型つつが虫病患者の発生を確認した。同型の患者発生は離れた圏域(県東部および県西部)で確認されていることから, Shimokoshi型は県内に広く分布する可能性が示唆された。2017~2021年の期間に発生したつつが虫病患者21例のうち, 4例(19.0%)がShimokoshi型であったことから, 本県では稀な型でない可能性がある。

 今回, Shimokoshi型つつが虫病患者の発生を確認できた経緯として, Shimokoshi型も検出できる遺伝子検査法の選択によるものと考えられた。また, 抗体検査ではShimokoshi型は他の血清型と交差反応が少ないことが報告されているため5), Shimokoshi型抗原も含めた抗体検査を日常的に行うことで, つつが虫病患者の見落としを防ぐ必要もあると考える。

 今後, 保管検体の遡及的調査や患者発生動向の注視を継続し, 媒介ツツガムシの種類も含め, 島根県内のO. tsutsugamushiの浸淫状況を把握する必要がある。

 

参考文献
  1. Tabara K, et al., J Vet Med Assoc 65: 535-541, 2012
  2. Niihara H, et al., Jpn J Dermatol 126: 2117-2126, 2016
  3. 国立感染症研究所, リケッチア感染症診断マニュアル, 平成12(2000)年発行
  4. Kawamori F, et al., Jpn J Infect Dis 71: 267-273, 2018
  5. Sato H, et al., Med Entomol Zool 65: 183-188, 2014
  6. しまね統計情報データベース, 令和4(2022)年3月25日更新版
    https://pref.shimane-toukei.jp/index.php?view=3830

島根県保健環境科学研究所       
 藤澤直輝 川瀬 遵         
島根県健康福祉部           
 田原研司              
北福島医療センター・リケッチア症研究所
 藤田博己

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan