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2021年度感染症流行予測調査におけるインフルエンザ予防接種状況および抗体保有状況

(IASR Vol. 43 p252-255: 2022年11月号)
 
はじめに

 感染症流行予測調査事業は厚生労働省健康局結核感染症課が実施主体となり, 毎年度, 健康局長通知に基づいて全国の都道府県と国立感染症研究所が協力して実施している, 予防接種法に基づいた事業である1)。本稿では, 本調査におけるインフルエンザ予防接種状況と抗体保有状況の2021年度調査結果について報告する。

方 法

 2021年度の感染症流行予測調査は, 46の都道府県の参加で計画された。そのうち2021年度のインフルエンザ感受性調査は, 当初16都道府県での実施を予定していたが, 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)流行の影響により15都道府県(北海道, 山形県, 茨城県, 群馬県, 東京都, 神奈川県, 新潟県, 山梨県, 長野県, 静岡県, 愛知県, 三重県, 京都府, 愛媛県, 高知県)に縮小して実施された。対象は2021年7~9月(2021/22インフルエンザ流行シーズン前かつワクチン接種前)の期間に採取された血清(3,448検体)を用いて, 各都道府県衛生研究所において赤血球凝集抑制試験(HI法)により測定が行われた。2021年度の調査株は下記に示した2021/22シーズンのインフルエンザワクチン株で, 各インフルエンザウイルスの卵増殖株由来のHA抗原を測定抗原として用いた。

 2021/22シーズンのインフルエンザワクチン株

 ・A/Victoria(ビクトリア)/1/2020(IVR-217)[A(H1N1)pdm09亜型]

 ・A/Tasmania(タスマニア)/503/2020(IVR-221)[A(H3N2)亜型]

 ・B/Phuket(プーケット)/3073/2013[B型(山形系統)]

 ・B/Victoria(ビクトリア)/705/2018(BVR-11)[B型(Victoria系統)]

 予防接種歴は上記の15都道府県に富山県, 大阪府, 山口県を加えた18都道府県において, 前シーズン(2020/21シーズン)における接種状況を調査した。

結 果

 I. 2020/21シーズンにおけるインフルエンザ予防接種状況図1, 上段: 接種歴不明者を含まない, 下段: 接種歴不明者を含む

 4,858名の予防接種歴が得られた。ほとんどの年齢群で接種歴不明者が10-40%程度の割合で存在した。1回以上接種者の割合は接種歴不明を含む全体で42%, 1歳未満児では接種者は確認されず, 1歳児で39%(161名中62名), 2~12歳では55%(766名中424名, 各年齢群48-65%), 13歳以上では40%(3,841名中1,546名, 各年齢群26-53%), 65歳以上は50%(65歳以上183名中91名)であった。2回接種が推奨されている13歳未満の年齢群では, 接種者の74%(486名中361名)が2回接種者であった。

 II. インフルエンザ抗体保有状況図2-1: A型および図2-2: B型

 3,448名についてHI抗体価の測定が実施された(暫定結果)。対象者数はそれぞれ0~4歳368名, 5~9歳221名, 10~14歳255名, 15~19歳252名, 20~24歳250名, 25~29歳356名, 30~34歳299名, 35~39歳251名, 40~44歳183名, 45~49歳255名, 50~54歳242名, 55~59歳184名, 60~64歳183名, 65~69歳89名, 70歳以上60名であった。本稿では感染リスクを50%に抑える目安と考えられているHI抗体価1: 40以上の抗体保有割合について, 2021年度の調査結果と過去3年度の合計4年度の状況を示す。B型(山形系統)は2015年度の調査から同一調査株(ワクチン株)であり, B型(Victoria系統)は前年度と同じ株であった。A型はH1, H3ともに過去3年間のワクチン株が異なるため, 異なる株で調査が行われている。

 A/Victoria(ビクトリア)/1/2020[A(H1N1)pdm09亜型]に対する抗体保有割合(図2-1上段)は直近3年間と比べ, 全体的に抗体保有割合が低く, 最も保有割合の高い年齢群は10~14歳群で38%, 次いで5~9歳群と15~19歳群の34%であった。30~60歳未満の年齢群では他の年齢群よりもさらに抗体保有割合は低く, 10-18%であった。

 A/Tasmania(タスマニア)/503/2020[A(H3N2)亜型]に対する抗体保有割合(図2-1下段)も直近3年間と比べて低い傾向にあり, 20~24歳群で最も高く(54%), 30歳以上では35%以下の抗体保有割合であった。ワクチンの2回接種が推奨されている小児では, 5~9歳群において最も高かったが41%の保有割合しかなく, 10代の抗体保有割合も同等かそれ以下にとどまっている。

 B型(山形系統)に対する抗体保有割合(図2-2上段)はSARS-CoV-2流行前の2018および2019年度と比較しても全体的に他の年度と同等もしくは高い割合の保有状況であった。年齢群別では30~34歳群(75%)で最も高く, 20~39歳の各年齢群でおおむね60%以上であった。一方で, 70歳以上の年齢群では18%以下であった。

 B型(Victoria系統)に対する抗体保有割合(図2-2下段)はSARS-CoV-2流行前の2018, 2019年度と比較すると全体的に低かった。年齢群別では45~49歳群の45%をピークに40~54歳が他の年齢群に比べ抗体保有割合が高く40%以上であった。20~24歳群を除き39歳以下と60歳以上で約20%以下と低い保有割合であった。

まとめと考察

 インフルエンザワクチンは2001年から65歳以上の高齢者等を対象に定期接種(毎シーズン1回)が実施されている。また, 生後6か月から任意接種として接種が可能で, 13歳未満の小児においては2~4週間の間隔をおいて毎シーズン2回の接種が推奨されている。

 接種歴調査の結果では, 1歳未満児での接種は認められず, 接種歴不明者を除くと2~12歳の接種割合が他の年齢群に比べて高く, かつ2回接種の割合が高かった。これは過去の各シーズンと同様の傾向であった。一方, 13歳以上の1回以上接種割合は接種歴不明者を除くと48%であり, 65歳以上を含めて2020/21シーズンに比べやや高かった2)

 インフルエンザ抗体保有割合は, それぞれの亜型・系統でピークの年齢層が異なり, A(H1N1)pdm09亜型では5~29歳, A(H3N2)亜型では15~29歳, B型(山形系統)では20~39歳, B型(Victoria系統)では40~54歳の抗体保有割合が他の年齢層と比較して高い傾向がみられた。一方で, 0~4歳群における抗体保有割合はすべての亜型で山形系統を除き10-20%前後, また, 65歳以上の年齢群でA(H3N2)亜型を除き20%前後と低い傾向であった。

 B型(山形系統)を除き, SARS-CoV-2流行前の調査と比較し全年齢層において2021/22シーズン前の抗体保有割合は, 2021/22シーズンのインフルエンザワクチン株に対して低めであった。抗体保有調査を行った直前のシーズン(2020/21シーズン)のインフルエンザウイルスの流行状況は非常に抑制されており, インフルエンザ病原体サーベイランスによる, 分離・検出された亜型別報告数は, シーズンを通して6株〔A(H1N1)pdm09亜型(2件, 33%), A(H3N2)亜型(4件, 67%)〕であった3)。例年インフルエンザの流行にともなう自然罹患による抗体保有者も抗体保有割合にある程度影響をしていると考えられるが, 2020/21シーズン前の調査ではこの影響が非常に小さかったと推測される。

 一方, B型(山形系統)は過去3シーズンともに非常に近似した抗体保有パターンを示しており, 他の亜型に比べ高い保有割合が維持されている。B型(山形系統)は2015年度以降, 同一の株がワクチン株として選択されており, 同一株が繰り返し免疫されたことが抗体保有割合に影響した可能性がある。

 謝辞: 本調査にご協力いただいた都道府県, 都道府県衛生研究所, 保健所, 医療機関等, 関係者の皆様に深謝いたします。

 *①65歳以上の者, および②60歳以上65歳未満の者であって, 心臓, 腎臓または呼吸器の機能に自己の身辺の日常生活活動が極度に制限される程度の障害を有する者およびヒト免疫不全ウイルスにより免疫の機能に日常生活がほとんど不可能な程度の障害を有する者

 
参考文献
  1. 厚生労働省健康局結核感染症課, 令和3(2021)年度感染症流行予測調査実施要領
    https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/yosoku/AnnReport/2021-99.pdf
  2. 国立感染症研究所感染症疫学センター, 感染症流行予測調査グラフ, 予防接種状況
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/667-yosoku-graph.html
  3. 国立感染症研究所, 厚生労働省結核感染症課, 今冬のインフルエンザについて(2020/21シーズン)
    https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoko2021.pdf

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