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鳥・ブタインフルエンザウイルスのヒト感染事例の状況について

(IASR Vol. 43 p257-258: 2022年11月号)
 
鳥インフルエンザウイルス

 A/H5亜型ウイルス

 2021年7月~2022年9月の間には, 家禽または野鳥(以下, 愛玩鳥等含む)でのA/H5亜型ウイルス(N4とN7を除くN1-N8 NA亜型)による高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の発生がアフリカ, 北米, アジア, 欧州から報告されている。亜型別ではH5N1がアフリカ14カ国, 北米2カ国, アジア10カ国, 欧州36カ国で, H5N2が台湾および欧州3カ国で, H5N3がドイツ, H5N5が台湾, イラン, ノルウェーで, H5N6がベトナム, H5N8がアジア9カ国と欧州14カ国で, それぞれ検出されている(2022年9月20日時点)1,2)。このうちヒト感染の報告があったのはH5N1, H5N6, H5N8亜型である。A(H5N1)ウイルスについては2003年以降, アジア, アフリカを中心に世界20カ国で, 死亡456例を含む865例のヒト感染が確認され, 2021年7月以降は, 2022年1月に英国, 2022年4月に米国で, それぞれ初となる1例のヒト感染が確認されている(2022年8月30日時点)3)。H5N6は2014年以降, 主に中国で81例のヒト感染が確認され4), 2021年9月以降は, 中国で36例(直近では2022年4~8月に広西チワン族自治区で2例, 江西省で1例)のヒト感染が確認されている(2022年9月20日現在)3)

 日本では2021年11月~2022年5月までの間, A(H5N1)もしくはA(H5N8)ウイルスによるHPAIの発生が, 家禽で25事例(12道県), 野鳥(環境試料含む)で107事例(1道1府6県)確認されている(2022年9月20日時点)5,6)。北海道では国内初となる野生哺乳動物(キタキツネ, タヌキ)からのA/H5 HPAIウイルス分離も報告されている5)

 また, 2021年7月~2022年9月の間は, 世界では家禽または野鳥でA/H5亜型ウイルスによる低病原性鳥インフルエンザ(LPAI)の発生も報告され, 亜型別ではH5N1がイタリア, H5N2が南アフリカ, 韓国, メキシコ, H5N3が日本, 韓国, 米国, H5N8が韓国でそれぞれ検出されている1,2)

 A/H7亜型ウイルス

 2013年3月にLPAI A(H7N9)ウイルスの初のヒト感染が中国で報告され, 第5波(2016年10月~2017年9月)以降は, 家禽に対して高病原性を示すように変異したHPAI A(H7N9)ウイルスのヒト感染も報告された。2013年以降で1,568例のヒト感染例, 616例の死亡例が確認されたが, 家禽へのワクチン接種開始による鳥インフルエンザ発生数の減少にともない, 2017年9月以降のヒト感染例の報告数は激減した7)。2019年3月の中国内モンゴル自治区におけるヒト感染例を最後に, 以降のヒト感染例は報告されていない(2022年9月20日現在)8)

 その他のA/H7ウイルスについては2021年以降, 亜型別ではHPAIのH7N3がメキシコ, H7N7がリトアニアでそれぞれ家禽から, H7N7がフランスで野鳥から検出されている1)。また, LPAIのH7N7がイタリアで家禽から, 日本と韓国で野鳥から, H7N9(先に中国で流行したウイルスとは異なる系統)が韓国で野鳥からそれぞれ検出されている1)。なお, これらA/H7ウイルスのヒト感染は確認されていない。

 A/H9亜型ウイルス

 A(H9N2)ウイルスのヒト感染は2021年9月以降, 中国で21例が確認されており, 直近では2022年4月に湖南省と四川省で1例ずつ, 5月に貴州省で1例, 8月に広東省で1例が報告されている3)。ほとんどは軽症例であったが, 基礎疾患を有する患者で2例の死亡例が報告されている9)。これまでにエジプト, バングラデシュ, インド, セネガル, オマーン, カンボジアでもヒト感染が確認されており, 1998年以降ヒト感染は100例以上確認されている3,10,11)。家禽では, 現在もアジア, アフリカなどで流行していることが確認されている3)

 その他亜型ウイルス

 2022年4月に中国河南省にて重度の肺炎を呈する4歳児のA(H3N8)ウイルス感染が, 世界で初めて報告された3)。家族が飼育する家禽が感染源として疑われ, ヒト-ヒト感染は認められていない。同年5月にも, 同国河南省の5歳児からA(H3N8)ウイルスが分離されたが, 軽症であったことが報告されている3)

 世界各地では家禽や野鳥から様々な亜型の鳥インフルエンザウイルスが検出され, 日本の周辺国では散発的なヒト感染も報告されている。ウイルス流行の拡大とともにヒト感染リスクは高まるため, 引き続きこれらのウイルスを注視していく必要がある。

ブタインフルエンザウイルス

 ブタは, ブタインフルエンザウイルスのみならず, 鳥やヒト由来のインフルエンザウイルスにも感染するため, ブタの体内で遺伝子再集合した新たなウイルスが出現する可能性がある。ブタの間では様々な遺伝的背景をもつA(H1N1), A(H1N2), A(H3N2)ウイルスが循環し, 散発的なヒト感染も確認されている12)

 北米大陸では, ブタの間で循環していたclassical-swine系統のA(H1N1)ウイルスと鳥およびヒトインフルエンザウイルスの少なくとも3種類のウイルスが遺伝子再集合したtriple reassortantウイルスと総称されるA(H1N1), A(H1N2), A(H3N2)ウイルスが1990年代後半からブタで循環していた13)。2009年にパンデミックを引き起こしたA(H1N1)pdm09ウイルスは, triple reassortantウイルスとユーラシア大陸のブタで流行していたEurasian avian-like swine系統のA(H1N1)ウイルスとの遺伝子再集合により出現したウイルスである14)。その後, A(H1N1)pdm09ウイルスは, ブタに再侵入し, パンデミック以前から世界各地で流行していたブタインフルエンザウイルスとの間で遺伝子再集合が起こり, ブタインフルエンザウイルスの遺伝的背景は地域ごとに複雑化している12)

 2021年8月以降は, 農業フェア等におけるブタとの接触などにより, 米国ではA(H1N1)v, A(H1N2)v, A(H3N2)v, A/H1v(NA亜型不明)ウイルス〔ヒト感染したブタインフルエンザウイルスは“variant(v)virus”と総称され, 亜型の後ろにvが追記される〕のヒト感染が, それぞれ5例, 6例, 5例, 1例(2010年9月以降は, それぞれ18例, 35例, 437例, 1例15)), カナダではA(H1N2)vウイルスのヒト感染が1例報告されている3)。北米大陸以外でも, 中国で5例(発症は2021年3月以前), デンマークとドイツでそれぞれ1例のA(H1N1)vウイルスのヒト感染が, オーストリアとフランスでそれぞれ1例のA(H1N2)vウイルスのヒト感染が確認されている(2022年9月20日時点)3,15)

 日本では1970年代後半からclassical-swine系統のA(H1N1)ウイルスがブタの間で循環し始め16), その後ヒトA(H3N2)ウイルスと遺伝子再集合したA(H1N2)ウイルスも出現し17), 2009年以降はA(H1N1)pdm09ウイルスと遺伝子再集合したA(H1N2)ウイルスやA(H3N2)ウイルスが流行している18,19)。A(H1N1)pdm09ウイルスのブタ-ヒト間の感染を疑う事例も2019年に確認され20), 引き続きブタインフルエンザウイルスを注視していく必要がある。

 

参考文献
  1. 農林水産省, 鳥インフルエンザに関する情報
    https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/tori/
  2. WOAH, World Animal Health Information System
    https://wahis.woah.org/#/home
  3. WHO, Global Influenza Programme: Human-animal interface
    https://www.who.int/teams/global-influenza-programme/avian-influenza
  4. The Government of the Hong Kong Special Administrative Region, Avian Influenza Report: 18(38), 2022
  5. 環境省, 高病原性鳥インフルエンザに関する情報
    https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/bird_flu/
  6. 農林水産省, 2021年~2022年シーズンにおける高病原性鳥インフルエンザの発生に係る疫学調査報告書
    https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/tori/attach/pdf/r3_hpai_kokunai-199.pdf
  7. Shi J, et al., Cell Host Microbe 24: 558-568.e7
  8. WHO, Antigenic and genetic characteristics of zoonotic influenza A viruses and development of candidate vaccine viruses for pandemic preparedness, February 2022
    https://cdn.who.int/media/docs/default-source/influenza/who-influenza-recommendations/vcm-northern-hemisphere-recommendation-2022-2023/202203_zoonotic_vaccinevirusupdate.pdf?sfvrsn=29b24f50_12
  9. WHO Western Pacific Region, Avian Influeza Weekly Update Number 862, 2022
  10. WHO, Antigenic and genetic characteristics of zoonotic influenza A viruses and development of candidate vaccine viruses for pandemic preparedness, September 2021
    https://cdn.who.int/media/docs/default-source/influenza/who-influenza-recommendations/vcm-southern-hemisphere-recommendation-2022/202110_zoonotic_vaccinevirusupdate.pdf?sfvrsn=8f87a5f1_11
  11. Cáceres CJ, et al., Viruses 13: 1919, 2021
  12. Ma W, Virus Res 288: 198118, 2020
  13. Lorusso A, et al., Curr Top Microbiol Immunol 370: 113-132, 2013
  14. Garten RJ, et al., Science 325: 197-201, 2009
  15. CDC, FluView Interactive
    https://www.cdc.gov/flu/weekly/fluviewinteractive.htm
  16. Sugimura T, et al., Arch Virol 66: 271-274, 1980
  17. Nerome K, et al., J Gen Virol 64(Pt 12): 2611-2620, 1983
  18. Kobayashi M, et al., Emerg Infect Dis 19(12): 1972-1974, 2013
  19. Mine J, et al., J Virol 94(14): e02169-19, 2020
  20. Kuroda M, et al., Zoonoses Public Health 69: 721-728, 2022

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