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日本における新型コロナウイルス感染症の流行波ごとの性別・年齢的特徴の疫学的検討

(IASR Vol. 43 p273-275: 2022年12月号)
 
背 景

 日本では, 現在までに2,000万人を超える新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の症例が報告されている(2022年10月現在)。COVID-19の重症例, 死亡例は男性かつ高齢者が多いと報告されているが1), 感染例に関しては男女でほぼ等しい2)とされてきた一方で, 各国の報告や研究ではばらつきがある3)。本研究では日本で報告されたCOVID-19症例の性別・年齢的特徴を記述することを目的とした。

方 法

 対象期間は第1例目の症例が報告された2020年第3週~2022年第26週とした。新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)の運用が2020年5月末より開始されたが, システムが安定するまでの時期を考慮して2020年第40週までは自治体が日ごとに公表するCOVID-19関連情報を集計したデータ4), それ以降はHER-SYSに報告されたデータを用いてデータベースを構築した。症例数は診断日を基準として集計した。流行波の期間は, 診断週ごとの流行曲線を基に, 各流行波の定義は, 開始週は「3週以上にわたって増加かつピークの10%以上または2週連続で前週比1.5以上」となった週, 終了週は「3週以上にわたって減少かつピークの10%以下(次の波が始まる前まで)」となった週とした。人口当たりの報告数は2020年および2021年10月の各人口推計を用い, 各波の比較に際して2020年の国勢調査を基準人口とした年齢調整を行った。

結 果

 対象期間に報告された9,299,477例のうち, 99%以上で性別と年齢層が判明していた()。全体では, 性別は男性50.5%, 女性49.2%, 年齢別では20代が17.6%で最も多く, 次いで30代, 40代となっていた。流行波別にみると, 全体の81.5%が第6波に含まれていた。

 流行波ごとに年齢調整性比(女性に対する男性の比, 1を超えると男性の方が多い)をみると, 第1波(2020年第13週~2020年第20週), 第2波(2020年第26週~2020年第39週), 第3波(2020年第44週~2021年第8週)では, それぞれ1.22, 1.30, 1.13, アルファが流行した第4波(2021年第9週~2021年第24週)で1.16, デルタが流行した第5波(2021年第28週~2021年第38週)で1.24であったが, オミクロンが流行した第6波(2021年第51週~2022年第24週)では0.99であった。年齢群別にみても, 30~60代では第5波まで男性症例の割合が常に50%を上回っていたが(54-62%), 第6波では50%を下回った(47-49%)。

 年齢群別にみると, 50代以下では波を追うごとに増加したが, 70歳以上では第3波をピークに第4, 5波では減少した。割合は, 第1波では20~30代が31.9%であったが第2波では48.4%に増加し, 第5波まで最も高い割合を占めていた。一方で, 70歳以上をみると, 第1波では20.1%と高かったが, 第2波から第5波では低下し, 特に第5波では3.8%と大きく減少した。10歳未満および10代が占める割合は, 第1波で最も低く, それぞれ1.6%, 2.5%であったが, 徐々にその割合は増加した。第6波で特に大きな増加がみられ, 10歳未満で16.8%, 10代で15.9%となった。第5波まで多かった20~30代は31.8%に減少し, 70歳以上は6.8%と低かった。

人口10万人当たりの症例数でみると, 第1波の12人から経過とともに増加していき, 第6波では5,822人となった。最も変動が大きかったのは10歳未満で, 人口10万人当たり3人から13,033人へと大幅に上昇した。

考 察

 COVID-19症例の性別, 年齢の疫学的特徴は流行波で変化がみられ, 特に第6波ではそれまでの属性と異なっていた。

 70歳以上の高齢者の割合は第1波で最も高く, 第4, 5波では人口当たりの報告数も第3波より低くなった。高齢者における重症化リスクの認知, 接触機会の低減などの公衆衛生対応, 医療機関や高齢者施設での対策強化, 第4波期間中から始まったワクチン接種, などにより, 高齢者での感染が徐々に抑制された可能性があげられる。第2波から第5波では20~50代が相対的に大きく増加し, 高い割合を占めた。第6波では0~19歳が急増し, 最も多い年齢群となった。ワクチン接種の対象とならなかった年齢層が相対的に増加したことや, 検査体制の変化によって無症状や軽症が多い若年層の報告数が増加したこと, 第6波では諸外国でも小児の増加がみられたことから, オミクロンの特徴であったことが考えられた。

 第5波までの症例では, 男性の割合が高かった。女性の方がウイルスに対する免疫反応が高いことや5), 男性の方がウイルス感染にかかわるレセプターの発現が多い6)といった生理学的要因と, 接触パターンの性同調性7)と同性間の二次感染頻度が高い8)という社会学的要因が考えられる。一方, 第6波では女性の症例が増え, 10代以下では男性割合が継続して高かったものの, 症例全体での性差がほぼなくなった。オミクロンでは, アンドロゲン応答性遺伝子であるTMPRSS2依存性経路からエンドサイトーシス依存性経路に感染指向性が変化した9)ことで感染確率の男女差が小さくなった可能性や, 小児症例の増加によって子供と接する機会が多い女性の感染機会が増加した可能性があげられる。全人口の既感染率は非常に低いため10), 第5波までに男性の既感染者が多かったことで男性の感受性人口が少なくなったという可能性は低い。

 

参考文献
  1. Peckham H, et al., Nat Commun 11: 6317, 2020
  2. Bechmann N, et al., Lancet Diabetes Endocrinol 10(3): 221-230, 2022
  3. Alwani M, et al., Rev Med Virol 31(6): e2223, 2021
  4. Ninomiya K, et al., West Pacific Surveill response J WPSAR 13(1), 2022
  5. Taslem Mourosi J, et al., Infect Genet Evol 103: 105338, 2020
  6. Song H, et al., Eur Urol 78(2): 296-298, 2020
  7. Horton KC, et al., Emerg Infect Dis 26(5): 910-919, 2020
  8. Ko YK, et al., Int J Infect 116: 365-373, 2022
  9. Meng B, et al., Nature 603: 706-714, 2022
  10. 国立感染症研究所, 2021年度新型コロナウイルス感染症に対する血清疫学調査報告
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/11118-covid19-79.html

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