大阪府での新型コロナウイルス(COVID-19)週報配信活動について
(IASR Vol. 43 p284-285: 2022年12月号)背 景
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は新興感染症であり, ワクチンや治療薬も存在せず, したがって, COVID-19の臨床症状や感染様式等について未知の部分も多く, 感染症予防や対応に資する知見が少なかった。そのため, 行政の公衆衛生対応部門においては, 日々発生する症例の年齢, 性別, 基礎疾患の有無等の基礎情報に加え, 発症日前後の詳細な行動歴等の感染源や濃厚接触者の特定に必要な疫学情報の収集が行われた。また, 大阪府では, 2020年3月初めにライブハウスイベントにおけるCOVID-19の感染者集団(クラスター)が発生し(IASR 41: 110-111, 2020), その後, 関連感染者数が急速に増加したため, 保健所において感染者発生に付随する業務量(受診調整, 検査調整, 陽性告知, 届出, 入院等調整, 疫学調査等)が膨大となり, 感染者の発生状況の把握を行うことが困難な状況となった。大阪健康安全基盤研究所疫学調査チーム(O-FEIT)は, 大阪府内の保健所で収集された情報を保健所職員とともに解析し, 大阪のCOVID-19発生動向を大阪府内の保健所を中心とする公衆衛生対応機関へ定期的に発信, 府内情報の共有化を図ってきたのでその活動を報告する。
方 法
COVID-19届出症例に関する情報〔発生届, 疫学調査票, 新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)情報, 大阪府内保健所向け症例情報一覧, 大阪府報道提供情報〕の収集は, 時期により収集源を変更しながら対応した。収集情報から, 届出症例の年齢, 性別, 居住地, 職業, 行動歴, 感染リンクの有無(家族間, 集積事例), 集積事例情報, 検体採取日, 診断日, 保健所受理日, 等の情報を整理しラインリスト化したもの, 検査実施状況(大阪府報道提供情報), および死亡の状況(大阪府報道提供情報)を基に週報を作成し, メールにて配信した。
結果および考察
発生動向調査にかかわる基本構成要素等
<流行曲線>
保健所受理日別および発症日別: 発症日別流行曲線は有症状者の新規発生の時期を示すため, 罹患者の発生動向の評価に活用でき, 感染機会の推測にも有用である。一方, 直近の報告数が過小評価される場合が多い。診断日別や受理日別の流行曲線はそのような過小評価を受けにくく, 受理日別症例報告数からは保健所業務への負荷状況も把握できる。一方, 入力タイミング等のバイアスの影響を受けやすい。発症日別および, 診断日別または受理日別の流行曲線両者の長所・短所を踏まえ, ともに確認することが重要であると考えられた。
年齢階級別: 特に感染拡大に寄与する年齢階級, および重症化リスクの高い年齢階級の流行状況の把握を目的とした。感染の流行初期には特に20代で感染拡大が先行的にみられていたことから, 兆候の把握に有効であった。
属性別: 重症化リスクの高い集団(福祉施設利用者)および関係者である医療従事者, 福祉施設従事者の発生状況の把握に有効であった。
<検査実施状況>
検査数, および陽性割合(過去1週間の平均)推移: 検査数および検査陽性数は, できる限り検査目的種別に把握することが望ましいことから(IASR 41: 119-121, 2020), 週報の配信時期によって異なるが, ①医療機関等で実施される発症者や濃厚接触者を主に対象とする検査, ②症状はないが念のための無料検査(感染拡大傾向時の一般検査事業, ワクチン検査パッケージ・対象者全員検査等定着促進事業), ③自主有料検査, および④職域定期検査, に分けて報告した。また, 政策的介入による受診や, 検査体制の変更が実施された場合等, 検査目的種別によってはその影響を受ける可能性があることから, 日常的に複数の検査目的種別データを把握することが重要であると考えられた。大阪府は積極的に検査目的種別に検査数, 検査陽性者数を把握し公表してきたことから, 週報における検査目的種別の報告が可能となった。検査陽性数の情報のみで検査数の情報がない場合, 検査陽性数が増加または減少した際, それが検査数の変動に起因するのか, 真に感染状況の拡大・縮小を示しているのか評価できない。そのため, 検査数, 検査陽性数, 検査陽性割合の3つの指標をあわせて感染状況を評価することが重要と考えられた〔例: 3つの指標がすべて増加(減少)した際には, 発生動向の真の増加(減少)を示唆する〕。
<施設集積事例>
症例情報(年齢, 性別, 職業, 行動歴, 居住地等)から施設内(医療施設, 福祉施設, 職場, 保育園, 学校, 大学, 繁華街)における感染伝播が疑われる場合には, 集積事例と判断し, 施設種別に事例数を集計した。疫学情報内容の変化の影響を受ける指標であり, 医療施設や, 福祉施設以外の施設においては疫学調査重点化時, 特に過小評価になりやすい可能性があったが, 流行曲線, 検査陽性割合, とあわせ, 発生動向の把握に有用であったと考える。
<死亡例の状況>
死亡週別, 年齢階級別に症例の致命割合推移を把握した。ワクチンや治療薬の死亡リスク低減への効果把握に有用であると考えられた。
適宜週報で発信した情報
<地域別新規変異株検出状況>
感染性, 病原性, 免疫逃避能の増加が懸念されている新規変異株の感染拡大初期において, その拡がりを把握するため, 変異株PCRスクリーニング陽性者数を地域別に集計した。
別途適宜発信した情報
<ゲノム解析報告>
大阪健康安全基盤研究所で実施したゲノム解析結果, およびGISAID情報を基に, 所内のゲノム解析チームが系統樹, およびPopARTを用いたハプロタイプ・ネットワーク図を作成, 解析した。O-FEITはそれら分子疫学的情報と, 週報作成のために蓄積している疫学情報とを突合解析し, 特に変異株拡大初期には, 変異株症例間の感染リンク確認, 同一ゲノム配列によるクラスターが認められた株における疫学情報上の特徴の有無(地域, 年齢, 行動歴, 施設集積関連株, アミノ酸変異箇所等)を確認した。感染拡大後期~非流行期には, 感染力, 毒力, 免疫逃避能の増加につながるアミノ酸変異の有無を確認した。これらの情報はゲノム解析報告として適宜発信した。
効 果
週報の配信先からは, 次のような感想が寄せられた。
「五月雨式に情報が担当者に集まる中, 全体像の把握に有用であった」, 「店舗, 学校, 事業所など様々な場所で起こった集積事例の疫学情報を取りまとめ, 症例間の感染リンク図として提示され事例の全体像をより早く把握し, 濃厚接触者の範囲や検査すべき人を決定するのに有用であった」, 「年齢階級別症例数, 施設別集積事例数が, どの年齢層に対策を強化すべきか, どの施設の対策を優先すべきか, を判断するのに有用であった」, 「検査陽性割合推移が, 今後ピークアウトして減少局面に入るかどうかの判断に有用であった」, 「年齢階級別の致命割合は, 波を繰り返すたびに低下し, 年代別に疫学調査を簡略化・重点化することができ, 現場対応の変更に参考になった」。
これらの声を今後の情報発信活動に反映させていきたいと考える。
参考文献
- 国立感染症研究所, 新型コロナウイルス感染症サーベイランス週報: 発生動向の状況把握
https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/10754-2021-41-10-11-10-17-10-19.html