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東京都新宿東口検査・相談室の現状とCOVID-19流行の影響

(IASR Vol. 44 p154-155: 2023年10月号)
 
はじめに

国連合同エイズ計画(UNAIDS)は, 2025年へ向けたケアカスケードを95-95-95として取り組んでいる。最初の95=「HIV感染者の95%が自らの感染を知る」を担っているのがHIV検査・相談事業である。

東京都新宿東口検査・相談室(以下, 当室)は, 1993(平成5)年9月に東京都南新宿検査・相談室として開設された。2021(令和3)年3月に新宿区歌舞伎町のビルに移転し, 名称も所在地に合わせ新宿東口検査・相談室と変更された。

東京都は, 都内保健所で取り組んでいるHIV検査に関し, 夜間の検査ニーズに対応するため, 東京都医師会へ委託して平日夜間の検査を開始した。2003(平成15)年4月からは土・日曜日午後の検査も開始し, 業務は年末年始と祝日を除き毎日行っている。

業務内容の紹介

申し込みから受付は, 電話もしくはwebで予約した検査日時に受付を行う。当室では通常検査のため, 結果は検査日の1週間後以降に伝えている。

検査日は, 受付後, 待合室で検査申込書に記入したのち, 看護師によるガイダンスを受ける。これが, 検査・相談事業と称するゆえんである。ガイダンスでは, HIV検査の意味を説明する。また, 検査結果の陽性(+)・陰性(-)の意味の確認も重要である。検査が初めての方や不安の強い利用者には, カウンセリングの利用を勧める。

ガイダンスの後, 看護師が採血を行う。希望者はカウンセリングを利用し終了となる。

結果日は, 約束した日時に検査申込書の控えを受付に提示し, 待合室で待機。結果告知室で担当医師から検査結果を聞く。

検査結果が陽性(+)の場合や, 質問などがある利用者は, 隣室で結果相談担当医師と面談する。HIV検査陽性の場合は, 利用者の同意を得てカウンセラーも同席する。結果相談担当医師は, 利用者のHIV感染症の認識度合に応じて疾病の説明を簡潔に行い, 治療の進歩から医療機関受診の必要性を確認する。利用者が通院しやすいHIV診療拠点病院等を選択してもらい, 紹介状を作成する(紹介状は検査番号を記載しており, 匿名で紹介できるよう東京都と拠点病院で取り決められている)。カウンセラーは, 利用者からの質問に対応し, 不安の軽減を図る。質問の多くは, 医療費のことや会社など周りの人との対応に関する今後の生活についての不安などである1)

当室での事業実施状況

検査件数は2003(平成15)年から土・日曜日検査を始めたこともあり, 9,000件を超え, 2004(平成16)年から年間1万件前後で推移した。2018(平成30)年からは12,000件を超えた(図12)。その要因は, 予約件数枠を1日50名に拡大したことによると思われる。2020(令和2)年からの減少は, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行によるものだが, 詳細は後述する。

利用者の男女割合は, 2012年以降は男性が60%台から70%台に上昇している(図1)。HIV対策で掲げられているMSM(men who have sex with men)が利用しやすい検査機関3)としての認知の広がった結果ではないかと自負している。なお, エイズ動向委員会報告では, 保健所等での検査件数となっているが, 等の意味は, 当室のような特設検査機関やイベントで行われる検査のことである。

HIV陽性件数は, 多い時で年間100件を超える年もあったが, 90件台から80件前後へと漸減していき, 2018(平成30)年は58件と急減した。原因は不明だが, 全国的にも減少傾向であった。2020(令和2)年以降は増加した(図2)。

COVID-19流行下でのHIV検査

日本でのCOVID-19流行は, 2020(令和2)年から始まった。都内の多くの保健所は, COVID-19対応に追われ, 第2四半期(4月)からHIV検査を中止することになった。当室は, 東京都の要請があり, 感染対策を徹底しながら職員の理解・協力を得て業務を継続した。COVID-19流行中の2021(令和3)年の移転にあたっては, 待合室の座席をパーテーションで区切る形式にして感染症予防とプライバシー保護に配慮したものとした。
また, 人の集中を避けるため, 検査定員を削減した。2020(令和2)年以降の検査件数の減少はそのためである。

当室の検査件数も減少したが, 多くの保健所が検査を休止したため, 都内保健所等の検査件数に対する当室の割合は60-70%に上昇した。また, 減少傾向にあったHIV陽性件数と陽性率も急増した。このことは, HIV感染リスクの高い方がCOVID-19の流行にもかかわらず検査を受けに来室したことによるためと思われ, 当室が検査を継続した意義だと考えている。

今後のHIV検査のことなど

COVID-19の流行は, HIV検査体制にも大きな影響を与えた。保健所直営の検査の多くが休止に追い込まれたが, 当室のような特設機関は何とか検査を継続し, 感染把握への影響を食い止めた。

また, 検査方法として郵送検査の活用も検討されている。

HIV感染者が多様な検査機会を得ることは非常に重要であり, 自己検査も含め柔軟な検査方法の拡大が期待される。

一方, 当室のような特設検査場も有用であるが, 確認検査の実施や感染者の高齢化への対応など, 地域でのHIV感染症対策全般を担う保健所の機能維持・強化の重要性は確認しておく必要がある。それは, 政策決定にかかわる行政職員の育成にも関係している。公衆衛生-感染症対策の前線基地である保健所とともに, 当室は今後もHIV感染症対策の一端を担っていきたい。

 

参考文献
  1. 東京都南新宿検査・相談室におけるHIV検査相談の取り組みについて, 第31回日本エイズ学会総会, 口演04-030, 2017
  2. 東京都福祉保健局, エイズニューズレター 181, 2023
  3. 厚生労働省, 後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針, 平成30(2018)年1月18日
東京都新宿東口検査・相談室
 城所敏英

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan