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札幌市におけるHIV感染症の発生動向と検査
~新型コロナウイルス感染症流行時の状況~

(IASR Vol. 44 p155-157: 2023年10月号)
 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行以降, 様々な感染症の発生動向が変化している1)。札幌市でも, 2020年は例年流行するインフルエンザやヘルパンギーナ等, 複数の感染症の流行がみられず, 2021年にはRSウイルス感染症が例年より早期に大流行するなど, 感染症の流行状況に変化が認められている。

そこで, 主たる感染経路がCOVID-19と異なるHIV感染症について, COVID-19流行前後の発生動向を調査したので概要を報告する。

併せて, 2018年から札幌市におけるHIV検査に付随して梅毒検査を実施しているので, この結果も報告する。

1. 感染症発生動向調査におけるHIV/AIDS報告数の推移について

2007~2022年までのHIV/AIDS報告数の推移(感染症発生動向調査の2023年7月20日現在の登録数)をに示した。札幌市で初めてCOVID-19患者が確認された2020年2月~2022年までは, HIV/AIDS報告数の推移に一定の傾向は見受けられなかった。

2. HIVおよび梅毒検査について

札幌市におけるHIV検査は, 札幌市保健所が企画し, 匿名で無料, 事前予約制で実施している。検査日は平日(市内全10区, 各月2回, 通常検査), 土曜日(毎週, 通常検査), 休日〔年3回, うち1回はMSM(men who have sex with men)対象, 即日検査〕, 夜間(月1回, 即日検査)に設定し, いずれも定員を定めている(https://www.city.sapporo.jp/hokenjo/f1kansen/f04aids/f04_220kensa.html)。外部に委託している土曜日以外は, 採血を市内各区の保健センターが, HIV検査を札幌市衛生研究所が担当している。

2018~2022年度の検体数および結果をに示した。平日のHIV検査は, 粒子凝集(PA)法, 休日および夜間はイムノクロマト(IC)法で実施しており, 陽性の場合は確認検査(ウエスタンブロット法)を外部に委託している。梅毒検査は, 平日はTreponema pallidum抗原(TPHA)法および脂質(カルジオリピン)抗原(RPR)法で実施し, いずれかが陽性の場合は陽性と判断している。休日および夜間はTPHA法のみを実施している。2020~2021年度はCOVID-19の流行により検査を休止または縮小していたこともあり, 検体数は減少していた。

HIV検査については, 2020~2022年度は陽性率について他の年と比較して大幅な変化は確認されなかった。しかし, 検査体制が通常どおりに戻った2022年度の陽性率が対象期間で最も高かったこと, 次に陽性率が高かったのは検体数が最も少なかった2020年度であったことを踏まえると, 今後の推移を注視する必要がある。

梅毒検査については, 梅毒検査を新たに行うことで一定数の陽性者を確認することができ, 早期発見に有効であった。2022年から札幌市の梅毒報告数が急増しているが, 全国的にも, 札幌市においても, COVID-19流行前から梅毒が増加傾向となっており2), 2022年以降の梅毒の急増がCOVID-19の流行と関係があるのかは判断が難しい。

HIV感染症は早期発見, 早期治療により, AIDSの発症を抑えながら感染前とほぼ同じ生活をすることが可能となり, 梅毒は完治することができる。感染の早期発見, 早期治療により予後が大きく変わるとともに, 他者への感染予防が可能な疾患であることからも, これからも地域の感染症の発生動向や検査結果について的確に把握し, 市民への情報提供等を行っていくことが重要である。

 

参考文献
  1. 三﨑貴子, 臨床と微生物49: 105-112, 2022
  2. 感染症週報(IDWR)注目すべき感染症: 梅毒
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/syphilis-m/syphilis-idwrc.html
札幌市衛生研究所        
 扇谷陽子 小野香保里 菊地正幸 三上 篤 伊藤 智      
札幌市保健所          
 大市美希 菊地亜弥 伊達直子 寺田健作 葛岡修二 山口 亮

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