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2022/23シーズンの国内における家禽および野鳥由来A/H5亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスの解析

(IASR Vol. 44 p182-183: 2023年11月号)
(2024年2月2日改訂:当初18種類とされていた遺伝子型が17種類に変更になったため、黄色部分を改訂 ※遺伝子型の変更に関する詳細はこちらをご覧ください
 

国内の家禽における2022/23シーズンA/H5亜型高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の発生は, 2004年以降過去最も早く(2022年10月28日~2023年4月7日まで), 発生件数も過去最多である26道県において84事例が確認された。約1,771万羽が殺処分の対象となり, 鶏卵の価格の高騰等, 経済的な影響ももたらした1)。鶏以外の家禽では, あひる, エミュー, うずらおよびほろほろ鳥飼養農場での発生や, 動物園等での飼養鳥で6県10事例が報告された。また野鳥では, 家禽での発生の確認よりも約1カ月前の9月25日には高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)が検出され, 家禽同様に2004年以降最速の検出であった。その件数も27道県242事例と過去最多であった。HPAIVは鶏には高病原性であるが, 一部の野鳥では感染しても死亡せずにウイルスを排泄する種類がいる2,3)。そのような渡り鳥の移動(秋の繁殖地・シベリアから越冬のための南下や, 春先のシベリアへの北帰行)にともなってウイルスが移動すると考えられ, わが国のHPAIの発生は渡り鳥が日本に飛来する秋から帰路につく春までにみられている。

 

2022/23シーズン最初の発生事例である9月25日に神奈川県伊勢原市の衰弱したハヤブサから分離されたA(H5N1)亜型HPAIVの全ゲノム配列を解読し, A型インフルエンザウイルスが持つ8本の遺伝子分節の組み合わせによる遺伝子型を確認したところ, 2021/22シーズンに日本の家禽から分離されたA(H5N1)亜型HPAIVの遺伝子型G2b-1型(黄色部分改訂1)と同じであった4)。ハヤブサのような捕食動物でHPAIVが検出されたことは, 感染動物の捕食によるウイルスの伝播を意味する。日本では夏季にウイルスの検出や発生はなく, 9月初めより渡り鳥の飛来が始まることから, 前シーズンからのウイルス残存よりは, 当シーズンに飛来したウイルスを保有する渡り鳥等の捕食による伝播の可能性が高いと考えられた。

家禽飼養農場で報告された84事例のA(H5N1)亜型およびA(H5N2)亜型HPAIの発生から分離されたHPAIVの全ゲノム配列を解読した1)。HA遺伝子分節の系統樹解析から, 国際機関の分類でクレード2.3.4.4bに属し, さらにG2b, G2dおよびG2cの3グループに細分類された。G2bおよびG2dは日本の2021/22シーズンにも認められたが, G2cは2022/23シーズンまで日本で検出されていないグループで, 2021年に西シベリアおよび中国中南部で分離されたA/H5亜型HPAIVと近縁であった。また, 日本国内で野鳥および環境検体から分離されたウイルスも, 同じ3つのグループに分類された。なお, これら3つのグループのウイルスは, 野鳥および環境検体では2022年10月初旬までに, 家禽の発生においてもほぼ同時期までに検出されている。2022/23シーズンの遺伝子型は, G2bが2種類, G2dが4種類, G2cが11(12から改訂)種類の計17(18から改訂)種類に分類された(黄色部分改訂)。17(18から改訂)種類のうち14(15から改訂)種類の遺伝子型のウイルスには, 野鳥由来鳥インフルエンザウイルスの遺伝子分節が含まれていたことから, 野鳥の集団内で感染を繰り返すことで, 遺伝子再集合が起こり, 出現した可能性が示唆された。2022/23シーズンの家禽発生84事例中80事例で分離されたA/H5亜型のHPAIV株の推定アミノ酸配列には, 既存の代表的な抗ウイルス薬への耐性や, 哺乳類でのウイルス増殖に関連する変異は検出されなかった。他4例の事例から分離されたウイルス株の推定アミノ酸配列には, 哺乳類で増殖しやすくなる変異が認められたが, それらの変異は近年既報のものと同様であった。なお, 哺乳類への感染性に関与する代表的な推定アミノ酸配列には変異は認められないことから, これらのウイルスがヒトに直接感染する可能性は低いと考えられた。

鶏における感染動態について, 17(18から改訂)種類のすべての遺伝子型の代表株について, 106EID50ウイルスで経鼻感染試験を行った。G2c-6の2株のうち1株と14(16から改訂)種類の遺伝子型では鶏はすべて死亡した。一方, G2b-3およびG2c-6の1株(追記) を接種した鶏の生存率は20%(5羽中1羽)であり, 生存鶏にウイルスは感染していなかった。平均死亡日数は,  G2c-6の1株を含む8(8から改訂)種類の遺伝子型では最短の2.0日となり, 4.0日~最長6.2日となる遺伝子型は4種類存在し, 最短日数と2日以上の差が認められた。遺伝子型の違いで鶏における病態が異なることが示された。

2022/23シーズンに確認された過去最多の発生件数は, 野鳥を含む環境中のウイルスの濃度がこれまで以上に高かったことが要因の1つと考えられた。世界では現在もA/H5亜型HPAIが感染拡大しており, 欧米地域の野鳥や野生哺乳動物では, 渡り鳥の飛来の季節を問わず通年検出される報告もあることから, 時期を問わずウイルスの国内への侵入に警戒しなければならない。

 

参考文献
  1. 農林水産省, 2022年~2023年シーズンにおける高病原性鳥インフルエンザの発生に係る疫学調査報告書
    https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/tori/attach/pdf/220929-301.pdf
    (https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/eisei/kakin/kakin_86/attach/pdf/kakin_86-5.pdfから改訂
  2. Tanikawa T, et al., Vet Microbiol 272: 109496, 2022
  3. Tanikawa T, et al., Vet Microbiol 263: 109266, 2021
  4. 農業・食品産業技術総合研究機構, プレスリリース「2022年9月神奈川県のハヤブサから検出されたH5N1亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスの特徴」2022年11月1日
    https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niah/155326.html
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