
国内におけるCandida aurisの施設内アウトブレイク対応の備え
(IASR Vol. 45 p22-23: 2024年2月号)Candida auris(C. auris)は血流感染症等の侵襲性感染症を起こすこと, 抗真菌薬への耐性が多く認められ, 感染症を起こすと治療が困難であり致命率が高いこと, 施設内感染の発生やその感染制御が困難であること, から国際的に問題となっている真菌である1,2)。近年諸外国において急速な感染例の拡大がみられており, 医療機関のみならず人工呼吸器に対応する介護施設等においてもアウトブレイク事例が複数報告されている3)。本稿では, 今後発生が懸念される施設内アウトブレイクに備えた国内の体制と対応について紹介する。
国内の発生状況と報告体制
2009年に世界で初めて非侵襲性のC. aurisが国内で報告された4)。その後, 2020年に国内では確認されていなかったcladeⅠによる侵襲性感染症により死亡した症例が2023年に論文報告された5)。これを受け, 国内発生状況を把握するため, 厚生労働省(厚労省)は自治体へ事務連絡6)を発出し, C. aurisによる感染が疑われる, あるいは診断した症例について報告を依頼した。報告対象は, ①起炎菌がC. aurisと確定, またはカンジダ属が分離されているがC. aurisと同定されていないC. aurisを疑う侵襲性感染症(血流感染症等)の事例, ②起炎菌がC. aurisと確定, かつ, 薬剤感受性試験でフルコナゾール, アムホテリシンB, エキノキャンディン系抗真菌薬のいずれかに耐性を示す局所感染症(外耳道真菌症等)の事例である。症例を探知した医療機関は, 最寄りの保健所へ連絡し, 管轄保健所が厚労省および国立感染症研究所(感染研)へ報告を行う。確定例は質量分析法または遺伝子検査により同定された症例と定義しているが, 質量分析法では誤同定される可能性が否定できない7)。そのため, 保健所等に分離菌確保・送付の協力を依頼し, 感染研にて遺伝子検査等による確認を実施している。また確定例は, 国や自治体が調査票等を用い症例の特徴を把握し, 対策に活かすことが想定される。
想定される施設内アウトブレイク対応
C. aurisは, 人の手を介した直接的な接触感染や, 環境表面を介した間接的な接触感染により伝播する。探知次第, その探知例との接触が疑われる人へのスクリーニング培養検査と施設内感染対策を実施する。スクリーニング培養検査は, 検査対象のうち52%が陽性となった報告もあることから8), 保菌者を含めた拡がりを把握するために重要である。検体採取部位は, 海外のガイダンスでは主に腋窩や鼠径部が推奨されているが2,9), 研究では, 鼻腔および手掌・指先が他の部位より分離頻度が高いとの報告もあり10), 資源等に応じた検体採取部位および対象範囲の検討を行う。施設内感染対策は, アルコール手指消毒薬による職員の手指衛生の徹底等の標準予防策に加え, 患者・保菌者の原則個室隔離や物品の専有化を含む厳重な接触予防策を実施する必要がある9)。接触予防策の解除については, 保菌者のスクリーニング検査において3回連続陰性が確認された後に, 再び菌が検出されたものは8%程度しかなかったという報告があるものの11), 国内外で明確な方針は定まっていない。また, C. aurisは環境表面で長期間生存し12), 体温計等の医療器具やベッド柵といった様々な環境からの分離が報告されているため3,11), 有効とされる薬剤(エタノール, 次亜塩素酸ナトリウム等)を適切に用いた環境消毒が重要である9)。加えて, 中長期的にみた抗真菌薬の適正使用や, 院内外へのコミュニケーションも対応の重要な要素である。
参考文献
- World Health Organization, WHO fungal priority pathogens list to guide research, development and public health action, 2022
- CDC, About Candida auris (C. auris) (Accessed on 18 December 2023)
- Pacilli M, et al., Clin Infect Dis 71: e718-e725, 2020
- Satoh K, et al., Microbiol Immunol 53: 41-44, 2009
- Ohashi Y, et al., J Infect Chemother 29: 713-717, 2023
- 厚生労働省健康局結核感染症課, 「多剤耐性で重篤な感染症を引き起こす恐れのあるカンジダ・アウリス(Candida auris)について(情報提供及び依頼)」, 令和5年5月1日付事務連絡
- Mahmoudi S, et al., J Mycol Med 29: 174-179, 2019
- Prestel C, et al., MMWR 70: 56-57, 2021
- UKHSA, Candida auris: laboratory investigation, management and infection prevention and control, 2023(Accessed on 18 December 2023)
- Proctored DM, et al., Nat Med 27: 1401-1409, 2021
- Eyre DW, et al., N Engl J Med 379: 1322-1331, 2018
- Welsh RM, et al., J Clin Microbiol 55: 2996-3005, 2017