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埼玉県における急性呼吸器感染症(病原体)サーベイランスの取り組み

(IASR Vol. 45 p93-95: 2024年6月号)
 

急性呼吸器感染症を起こす新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)やインフルエンザウイルス(Flu)以外の病原体の流行状況はほとんど知られていない。そこで, 埼玉県では, 急性呼吸器感染症の原因となっている病原体の流行状況を把握するため, 感染症発生動向調査に関連する埼玉県の事業の一環として急性呼吸器感染症(病原体)サーベイランスを行ったので結果を報告する。

方 法

県内のインフルエンザ病原体定点等(39医療機関)で2023年5月8日~2024年3月31日に, 症状などから臨床的に急性呼吸器感染症が疑われ, 発熱(37.5℃以上), 咳, 鼻閉, 鼻汁, 咽頭痛などの感冒様症状が1つ以上, もしくは肺炎所見を有する症例から採取された検体(咽頭ぬぐい液, 鼻腔ぬぐい液または鼻汁)を検査対象とした。検査については, 検査票に記載された診断名に基づき, Fast Track Diagnostics社のFTD Respiratory pathogens 21等を用いたreal-time RT-PCR法により, 図1に示す手順にしたがって県衛生研究所で毎週実施した。

結 果

3,220症例3,220検体のうち, 2,614検体(81.2%)から病原体が検出された。検出された病原体の内訳はSARS-CoV-2が878件, Fluが859件, ライノウイルス(HRV)が278件, ヒトメタニューモウイルス(hMPV)が204件, RSウイルス(RSV A/B)が145件, パラインフルエンザウイルス(PIV)1-4型が141件, アデノウイルス(AdV)が107件, ヒトコロナウイルス4種(OC43, NL63, 229E, HKU1)が84件, ヒトボカウイルスが81件, エンテロウイルスが41件, ヒトパレコウイルスが31件, Mycoplasma pneumoniaeが8件であった(同一症例からの複数病原体検出を含む)。

病原体別に検出数の推移をみると, SARS-CoV-2は9月(第38週)を境に減少し, Fluが増加した。HRVは10~11月に, hMPVは7~8月に, RSVおよびPIVは6~7月にかけて検出数が多かった()。

考 察

本サーベイランスにおけるSARS-CoV-2, FluおよびRSVの週別の検出数の推移と定点当たり報告数の推移を比較したところ, FluおよびRSVはおおむね傾向が一致しており, SARS-CoV-2は9月中旬以降についてはおおむね傾向が一致していた(図2)。なお, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の定点当たり報告数は, 流行のピークが9月初旬であったのに対し, 本サーベイランスでは6月から検出数が増え始めたものの, 7月以降の増加が明確には認められなかった。これは, COVID-19の流行規模が大きく, 早い段階から提出検体数の上限に達してしまったことが原因と考えられた。

今後データを蓄積していく必要はあるが, 従来の感染症発生動向調査でとらえることができなかったHRV, hMPV, PIVなどの流行状況も病原体検出数の推移から推定できる可能性が示唆された。

今後も急性呼吸器感染症(病原体)サーベイランスを継続していくことで, 急性呼吸器疾患を呈する様々な病原体の流行状況を継続的に把握することができると考えられた。

 
埼玉県衛生研究所         
 川島都司樹 大阪由香 猪野翔一朗 小暮 栞 今泉晴喜
 黒沢博基 牧野由幸 濱本紀子 江原勇登 富岡恭子
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