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2017/18シーズンのインフルエンザ分離株の解析

(IASR Vol. 39 p184-189: 2018年11月号)

1.流行の概要

2017/18インフルエンザシーズンは, 2017年第47週に定点当たりの報告数が1を超え, 流行期に突入した。これは前シーズンとほぼ同様の流行入りであった。国内のインフルエンザウイルスの流行はA(H1N1)pdm09, A(H3N2)およびB型の混合流行であったが, B型ウイルス, 特に山形系統が流行の主流であった。A型ウイルスでは, 2018年第1週まではA(H1N1)pdm09が多く報告されたが, 第2週以降はA(H3N2)の報告数が上回った。

海外においても同様で, A(H1N1)pdm09, A(H3N2)およびB型の混合流行であったが, 多くの国でB型山形系統による流行が大きかった。A型ウイルスについては, 北米ではシーズンを通してA(H3N2)が流行し, 後半ではB型(山形系統)も多く検出された。一方, 南および西アジア, 北および西アフリカではA(H1N1)pdm09の流行が大きかった。シーズン前半・後半でA(H3N2)およびA(H1N1)pdm09の流行の大きさが変化する地域もみられた。

2.各亜型・型の流行株の遺伝子および抗原性解析

2017/18シーズンに全国の地方衛生研究所(地衛研)で分離されたウイルス株の型・亜型・系統同定は, 各地衛研において, 国立感染症研究所(感染研)から配布された孵化鶏卵(卵)分離のワクチン株で作製された同定用キット[A/Singapore/GP1908/2015(H1N1)pdm09, A/Hong Kong/4801/2014(H3N2), B/Phuket /3073/2013(山形系統), B/Texas/2/2013(Victoria系統)]を用いた赤血球凝集抑制(HI)試験によって行われた。また, 最近のA(H3N2)ウイルスは赤血球凝集活性が著しく弱いために〔今冬のインフルエンザについて(2015/16シーズン)参照〕, HI試験が困難な場合はPCR法による亜型同定が行われる場合もあった。感染研では, 感染症サーベイランスシステム(NESID)経由で情報を収集し, 地衛研で分離および型・亜型同定されたウイルス株総数の約10%について分与を受けた。また, 4病院からインフルエンザ迅速診断キット陽性臨床検体の供与を受け, 感染研でウイルス分離を行った。地衛研から分与された株および供与を受けた臨床検体から分離された株について, ヘマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)遺伝子の遺伝子系統樹解析およびフェレット感染血清を用いたHI試験あるいは中和試験による詳細な抗原性解析を実施した。

2-1)A(H1N1)pdm09ウイルス

遺伝子系統樹解析:国内および海外(韓国, モンゴル, ミャンマー, 台湾)で分離された180株について遺伝子解析を実施した。解析した株はすべてHA遺伝子系統樹上のサブクレード6B.1(アミノ酸置換:S84N, S162N, I216T, 代表株:A/Singapore/GP1908/2015)内のS74R, S164T, I295V群に属していた(図1)。またさらに, L161I, I404M群, S183P群, T120A群, P137S, I267T, I372L群などが派生した。

抗原性解析:7~8種類のフェレット感染血清を用いて, 国内および海外(韓国, モンゴル, ミャンマー, 台湾)で分離された271株(国内254株, 海外17株)についてHI試験による抗原性解析を行った。その結果, 解析した分離株のほぼすべてが2017/18シーズンワクチン株A/Singapore/GP1908/2015およびワクチン株と同じく6B.1の代表株であるA/Michigan/45/2015に抗原性が類似していた。

2-2) A(H3N2)ウイルス

遺伝子系統樹解析:本亜型ウイルスのHA遺伝子系統樹解析では, 最近のウイルスはクレード3C.2a, 3C.3aの2群に大別され, A/Hong Kong/4801/2014株に代表されるクレード3C.2a(L3I, N144S, F159Y, K160T, Q311H, D489N)に属するウイルスが国内外ともに過去3シーズンの流行の主流であった。またクレード3C.2a内には, 遺伝子変化からアミノ酸変異をともなう3C.2a1(N121K, N171K, I406V, G484E, 代表株: A/Singapore/INFIMH-16-0019/2016), 3C.2a2(T131K, R142K, R261Q), 3C.2a3(N121K, T135K, S144K), 3C.2a4(N31S, D53N, R142G, S144R, N171K, I192T, Q197H)群が形成され, 3C.2a1内にはさらに3C.2a1a(T135K, G479E), 3C.2a1b(K92R, H311Q), 3C.2a1b+135K(E62G, T135K, R142G), 3C.2a1b+ 135N(T135N)群が形成され, 多様性を示した(図2)。2017/18シーズンには解析した342株のうち341株が3C.2aに属し, 1株のみが3C.3aに属した。シーズン前半は3C.2a1b+135K, 3C.2a1b+135N, 3C.2a2, 3C.2a3を中心に様々な群が流行していたが, シーズン後半は3C.2a2が流行の中心となった。2月以降に採取された株では, 3C.2a2が84%, 3C.2a1b+135Kが13%, 3C.2a1b+135Nが2%, 3C.3aが1%という結果であった(図2, 円グラフ)。

抗原性解析:国内および海外(韓国, ラオス, モンゴル, ミャンマー, 台湾)で分離された348株(国内236株, 海外112株)について, 9~11種類のフェレット感染血清を用いて抗原性解析を行った。また, 最近のシーズンと同様に多くのA(H3N2)分離株は極めて低い赤血球凝集活性しか示さず, HI試験の実施が困難な場合が多かったことから, 本亜型ウイルスについては中和試験法を用いて抗原性解析を実施した。その結果, HAの多様性にかかわらず, 解析した分離株の5~6割は, 2017/18シーズンワクチン株A/Hong Kong/ 4801/2014(クレード3C.2a)の細胞分離株と抗原性が類似していた。しかし, 解析した分離株の9割以上は, ワクチン製造用卵高増殖性株のA/Hong Kong/4801/2014(X-263)からは抗原性が大きく乖離しており, これらワクチン製造株は卵馴化による抗原変異の影響を強く受けていると考えられた。

2-3)B型ウイルス

遺伝子系統樹解析

山形系統:遺伝子解析を実施した国内および海外で分離された227株はすべて, HAタンパク質にS150I, N165Y, N202S, S229Dアミノ酸置換を持つクレード3(代表株:B/Wisconsin/1/2010株, B/Phuket/3073/2013株)内のN116K, K298E, E312K, L172Q, M251V群に属した(図3)。またクレード3内で, 共通アミノ酸置換を持たない複数の群が形成された。

Victoria系統:国内および海外で分離された62株はすべてクレード1A(代表株:B/Brisbane/60/2008株, B/Texas/2/2013株)内に形成される, HAタンパク質に共通アミノ酸置換N129D, I117V, V146Iを持つクレードに属した(図4)。また昨シーズン, 欧米を中心に検出されたHAに2アミノ酸欠損を持つウイルス(クレード1A.1:162-163アミノ酸欠損, I180V, R498K)は今シーズンには流行がさらに拡大し, 国内から8株(13%)検出された。また162-164番の3アミノ酸欠損ウイルスは韓国から分与された2株で(3%), これらはさらにK209Nアミノ酸置換を持っていた。国内では, 3アミノ酸欠損ウイルスは分離されなかった。

抗原性解析

山形系統:国内および海外(韓国, ラオス, モンゴル, ミャンマー, 台湾)から収集した317株(国内260株, 海外57株)については, 6~7種類のフェレット感染血清を用いてHI試験により抗原性解析を実施した。その結果, 山形系統解析株の9割以上が2017/18シーズンに採用されたワクチン株B/Phuket/3073/2013に抗原性が類似していた。

Victoria系統:Victoria系統の61株(国内59株, 韓国2株)については, 7~10種類のフェレット感染血清を用いてHI試験により抗原性解析を実施した。Victoria系統解析株は, 2018年1月までの分離株はHAにアミノ酸欠損を持たないウイルスであり, その9割以上が2017/18シーズンのワクチン株B/Texas/2/2013に抗原性が類似していた。一方で, 2018年2月以降になると抗原性類似株の割合は6割に低下した。この現象は, ワクチン株が卵馴化を受けたためにみられたものではなく, 流行株に抗原変異がみられた結果であり, 多くは2アミノ酸欠損のウイルスであった。

3.抗インフルエンザ薬耐性株の検出と性状

季節性インフルエンザに対する抗インフルエンザ薬としては, M2阻害剤アマンタジン(商品名シンメトレル)および4種類のNA阻害剤オセルタミビル(商品名タミフル), ザナミビル(商品名リレンザ), ペラミビル(商品名ラピアクタ), ラニナミビル(商品名イナビル)が承認されている。2018年2月には新たにキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤バロキサビル マルボキシル(商品名ゾフルーザ)が承認された。M2阻害剤はB型ウイルスに対して無効であり, さらに現在, 国内外で流行しているA型ウイルスは, M2阻害剤に対して耐性を示す。一方, キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤は, 2017/18インフルエンザシーズン後半の2018年3月に発売されたため, 使用はまだ限定的である。したがって, インフルエンザの治療には, 主にNA阻害剤が使用されている。薬剤耐性株の検出状況を継続的に監視し, 国や地方自治体, 医療機関並びに世界保健機関(WHO)に対して迅速に情報提供することは公衆衛生上非常に重要である。そこで感染研では全国の地衛研と共同で, NA阻害剤耐性株サーベイランスを実施している。A(H1N1)pdm09ウイルスについては, 地衛研においてNA遺伝子解析によるオセルタミビル・ペラミビル耐性変異H275Yの検出を行い, 感染研において上記4薬剤に対する感受性試験を実施した。A(H3N2)ウイルスおよびB型ウイルスについては, 地衛研から感染研に分与された全分離株について4薬剤に対する感受性試験および既知の耐性変異の検出を行った。キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤については, 次シーズンの本格導入に向けて, 感染研において薬剤感受性試験系を構築した。

3-1)A(H1N1)pdm09ウイルス

2017/18シーズンに国内で分離された1,538株について解析を行った。その結果, NAにH275Y耐性変異を持つオセルタミビル・ペラミビル耐性株が24株(1.6%)検出された。耐性株は散発例であり, 地域への感染の拡大は認められなかった。

海外(韓国, 台湾, ミャンマー, モンゴル)で分離された17株については, すべての株が4薬剤に対して感受性であった。

3-2)A(H3N2)ウイルス

国内で分離された209株および海外(韓国, 台湾, ミャンマー, モンゴル, ラオス)で分離された105株について解析を行った結果, すべての解析株は4薬剤に対して感受性を示し, 耐性株は検出されなかった。

3-3) B型ウイルス

国内で分離された289株および海外(韓国, 台湾, ミャンマー, モンゴル, ラオス)で分離された64株について解析を行った。すべての国内分離株は4薬剤に対して感受性を示し, 耐性株は検出されなかった。

本研究は「厚生労働省発生動向調査に基づくインフルエンザサーベイランス」事業として全国地方衛生研究所(地衛研)との共同研究として行われた。また, インフルエンザ迅速診断キット陽性臨床検体について, 永寿総合病院・三田村敬子先生, 市川こどもクリニック・市川正孝先生, あべこどもクリニック・安倍隆先生, 座間小児科・山崎雅彦先生の協力を得て供与を受けた。さらに, ワクチン株選定にあたっては, ワクチン接種前後のヒト血清中の抗体と流行株との反応性の評価のために, 新潟大学大学院医歯学総合研究科国際保健学分野・齋藤玲子教授の協力を得た。海外からの情報はWHOインフルエンザ協力センター(米CDC, 英フランシスクリック研究所, 豪Victoria州感染症レファレンスラボラトリー, 中国CDC)から提供された。本稿に掲載した成績は全解析成績の中から抜粋したものであり, その他の成績はNESIDの病原体検出情報システムにより毎週地衛研に還元されている。また, 本稿は上記研究事業の遂行にあたり, 地方衛生研究所全国協議会と感染研との合意事項に基づく情報還元である。

 

国立感染症研究所
インフルエンザウイルス研究センター第一室・WHOインフルエンザ協力センター
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  小田切孝人 
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