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定点移行後の新型コロナウイルス感染症のリスクアセスメントとコミュニケーション

(IASR Vol. 45 p96-97: 2024年6月号)
 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が感染症法上の5類感染症に移行した後も, 国立感染症研究所では週ごとにアセスメントを実施している1)。自治体も同様に定点当たり報告数などを週ごとに報告・還元している。また一部の自治体では, インフルエンザ警報・注意報のようなアラート基準を定めている。本稿では, 独自の注意報・警報設定の背景, 還元時の活用や運用に関する課題点についてまとめる。

【山梨県】

感染症専門部署として2021年4月に設置された感染症対策センター(YCDC)は, 『県民へのわかりやすい情報発信』をミッションの1つに掲げている。5類感染症の定点把握疾患へ移行後は関連情報が極端に減少する一方, 県民への積極的な情報発信は引き続き重要であることから, YCDC医師と注意喚起基準の検討を進め, 2023年8月までに県独自基準を設定し, 運用を開始した。基準は「感染拡大防止の観点からの注意報」, 「医療ひっ迫の観点からの注意報, 警報」を設けた。医療ひっ迫の観点では目安数値とともに主要病院の救急外来状況とあわせてYCDC医師との協議を踏まえ発出することとした。2023年夏には「感染拡大注意報」と「医療ひっ迫注意報」を, 2023年秋冬には「感染拡大注意報」を発出し, プレスリリースやホームページなどを活用して, 流行状況の発信と感染対策の呼びかけを積極的に行った。

基準に利用してきた医療機関等情報支援システム(G-MIS)入院患者数が2024年3月末で活用できなくなることから, YCDC医師と協議し, 2024年4月以降は「注意報」, 「警報」のみとする県独自基準の見直しを行った。注意喚起の発出は定点当たりの人数(「注意報」10以上, 「警報」15以上)を目安にYCDC医師との協議を踏まえ総合的に判断することとしたが, 国が基準を示すまでの間, 目安数値が適切か否かを継続的に確認し, 適宜見直しを行う必要があると考えている。

YCDCの特徴として感染症専門医等医師4人から指導・助言を受ける体制を整備
 
【静岡県】

静岡県では, オミクロン流行下において全数報告の1週間報告数が, 人口10万人当たり200人を超えるとCOVID-19感染者数の急増が始まり, 400人を超えると医療のひっ迫が懸念されることを経験した。2022年12月~翌1月にかけてのいわゆる第8波におけるCOVID-19の全数報告数と定点医療機関当たりの報告数を比較し, 前者が1週間に人口10万人当たり約200人と400人の際, 後者の報告数が約8人と16人であることを確認した。県専門家会議からも, 5類感染症移行後も県民にわかりやすい流行状況の指標が必要との意見があり, 定点医療機関当たりの報告数8人を感染者急増の恐れを注意喚起するための注意報の基準値, 16人を医療ひっ迫の警戒を共有するための警報の基準値と設定した。これら基準値を超えた際は, 記者会見, 県ウェブサイト, SNS, 動画等で注意報・警報発令を周知し, 県民に感染対策強化や適正受診等をお願いしている。県の注意報・警報の発令や解除によって, 面会の時間等を調節している福祉施設もあると聞いている。COVID-19の国の基準がないため, インフルエンザの注意報・警報の基準値10人・30人と比べ, 県のCOVID-19の基準値は低いと県民から御意見をいただくことがあるが, 広報など工夫し, 理解向上に努めていく。

【鳥取県】

5類感染症移行後も, 他の定点疾患とは別に, 感染動向に関するコメントや感染対策のポイント等を含めて週報として情報提供を行ってきたが, これに加え, 直近の第8波をモデルに流行の目安レベルを設定することとし, 初めて注意レベルに達した2023年7月12日(第27週分)から情報発信を開始した。現在の感染状況が第8波と比較してどの程度のレベルかを地区ごとにお知らせするものとして流行情報を発信し, 注意レベルは定点当たり10人/週(今後の感染拡大に注意が必要と考えられる段階), 警戒レベルは定点当たり20人/週(感染者数の加速度的な増大の恐れがある段階)とした。これらの目安値は, 県の感染症対策を一元的に担う組織として2023年5月に設置した鳥取県感染症対策センター(県版CDC)において, 鳥取大学医学部の臨床感染症学や社会医学分野の専門家にも参画いただいたうえで検討し, わかりやすさ・伝わりやすさも考慮して設定した。現在の目安値は, 本県の第8波の感染動向を参考に設定したものであり, 5類感染症移行にともなう受診動向の変化や小児科が多い定点把握の影響等は考慮していないことに留意が必要である。今後の感染データの蓄積により, 全国統一的な発令基準が設けられるのが望ましいと考える。

【大分県】

5類感染症の定点把握疾患へ移行後のCOVID-19の感染状況を県民にわかりやすく伝えるため, 注意報や警報の基準を設定するに当たり, 大分県ではインフルエンザの基準の準用を試みた。警報は「大きな流行が発生または継続している」状況で発令されることになっており, インフルエンザでは定点医療機関当たりの報告数30を採用している。大分県における2010年からの10シーズンのインフルエンザ流行の定点当たり報告数のピーク値は平均55.0であり, 県内定点医療機関からのCOVID-19届出数を基に算出したピーク値は, 第7波で59.0, 第8波で52.7と, インフルエンザと同水準であったことから, COVID-19の「大きな流行」の基準としても, 30を採用することはおおむね妥当であると考えた。注意報は「4週間以内に大きな流行が発生する可能性が高い」状況で発令されるが, COVID-19の流行においても, インフルエンザの注意報基準である定点当たり報告数10を超えて, 第7波では2週後に, 第8波では4週後に30を超えていた。このことから注意報の基準として, インフルエンザと同様, 10を採用することも妥当と考えた。なお, 2023年夏の流行では, 第27週に10を超え, その4週後にはピーク値24.86を記録したが, 警報基準は超えるには至らなかった。

 

参考文献
  1. 国立感染症研究所, 新型コロナウイルス感染症サーベイランス速報・週報: 発生動向の状況把握
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/12015-covid19-surveillance-report.html
山梨県感染症対策センター(YCDC) 
静岡県感染症管理センター     
 後藤幹生            
鳥取県感染症対策センター     
大分県福祉保健部理事兼豊肥保健所長
 藤内修二            
国立感染症研究所感染症疫学センター
 大谷可菜子 神垣太郎

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